「君を愛することはない……」と泣いた旦那様 〜テンプレートを繰り返す一族のif話〜
こちらは「テンプレートが立ちはだかる日常」の総合評価30000pt超え記念、第三作「テンプレートを繰り返す一族」の最後に書いた、お義姉様夫婦のif話です。今回も出だしは初のお話調で始めてます。
「君を愛することはない……だから、安心していい」
結婚式を終えての初夜の出来事。
この日晴れて夫になった方は、言葉を絞り出したのちさめざめと泣いた。
準備万端で待ち構えていた私は天井を見上げる。
……まだ誤解が解けてないとか、どれだけ思い込みが激しいのよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私はローザリア・フォン・レスター。愛称はローズ。
昨日まではローザリア・フォン・アイゼンバーグだったのだが、本日テオドール・フォン・レスター様と結婚したため、レスター公爵家の嫁となった。……はず。
アイゼンバーグ公爵家とレスター公爵家は、同じ爵位の家門同士として、付かず離れずの関係だった。
それが今回婚姻を結ぶことになったのは、高位貴族にしては珍しく政略結婚ではない。
私と、テオドール様の父親であるヘルメス様が意気投合したからだ。
と言っても、先程から溢れる涙を抑えきれないテオドール様の言うように、愛してるとかでは全然ない。
本当の意味での『意気投合』だ。
私は、植物の状態を見抜く『緑の目』を持っている。
ヘルメス様は、植物を万全の状態に育てる『緑の手』を持っている。
それは意気投合もするでしょう?
本来、公爵家の人間ともあろうものが植物に触れるなんてこと、あってはならないのだ。
庭師でも農民でもない、精々庭園を散策して少し花を愛で、男性なら求婚の際に花束を渡すくらい。
女性はもう少し接することもあるだろうけど、それでも自ら花を選定して摘んでくるなんてあり得ない。
そのあり得ないことを子ども時代から行っていたのが私であり、学園長になってからも庭師の扮装をして手入れをしていたのがヘルメス様である。
学園の庭園で偶然出会い、植物の話で散々盛り上がり、よくよく見たら公爵家当主様じゃないの!と驚いたが、だからと言って湧き上がる植物トークが止まる訳もない。
結果、婚約者のいない私と同じく婚約者のいなかったテオドール様とを引き合わせようとなりました。
そこでヘルメス様ご本人と縁を結ばないのかって?
ヘルメス様、私の父より年上なんだけど。
恋愛感情があるならともかく、そういう訳ではないのなら老い先の短い(大変失礼)もうすぐ当主の座を譲るであろうヘルメス様より、これから妻の助けが必要になるテオドール様のところへ嫁ぐ方が、公爵令嬢として叩き込まれたあれこれを活用出来ると思うのは、当然のことじゃなくて?
そう思ったんだけどなぁ……。
項垂れてるテオドール様をチラと見る。
これがヘルメス様の謝罪の訳か。
「すまないローズ、無理だった。」
なんのことかと不思議に思っていたのだが、その真意は「息子の思い込みを直せなかった」だったらしい。
◇◇◇◇◇◇◇
テオドール様は私より3個年上、立派な体格で精悍な顔立ちをした男性である。
先代王弟の息子であり現在の国王陛下の従兄弟、公爵家の嫡男とあっては結婚相手なんて選り取り見取りだろうと思うのだけど、私と婚約するまで相手はいなかったそうだ。
母がこっそりと、「現陛下の治世の安定と、王太子殿下の成長を考慮していたため」と教えてくれた。なるほど。
同じく公爵家の令嬢である私が婚約しなかったのは、自分の緑の目を活かす場所で暮らす夢が捨て切れなかったせい。
ちなみに同じく公爵家嫡男である弟に婚約者がいないのは、本人に意思がないのと婚約させるほどの好条件がないのと、私と母の眼鏡に適う令嬢が見当たらないため。なんだかなぁ。
そんな私達が顔合わせをした時、最初は恙無く進めていたのだ。
テオドール様は紳士だし、私も上手いこと令嬢らしく振る舞えていたと思う。
なのに、一瞬目を逸した時「「あ」」とヘルメス様と声が被った。
窓から見える庭園に、時期外れの花が咲いていたのに気付いてしまったのだ。
そこからはもう、場所を忘れて植物トークだ。
しかも婚約者候補の父親と。
話が一段落して落ち着いた時、テオドール様が「ローザリア嬢はもしや、父の後妻になられるのですか?」と質問した。
そんなつもりは毛頭ない!と今度は私とヘルメス様がテオドール様へ理路整然と説明し出した。
……今考えると、だいぶひどいことしてるな?
テオドール様の言い分も一理あったなぁ、と隣のソファを勧めながら反省する。
「……テオドール様、お話していただけます?」
微笑みを向けながら話し掛けると、テオドール様は顔を上げて頷いた。
「『愛することはない』と『安心していい』とは、どのような意図で?」
「だから……ローザリア嬢とは白い結婚にするから、愛することはない、と……」
「あぁ、『肉体関係は生じない』と言う意味での『愛することはない』なのですね」
得心がいって意訳すると、テオドール様は真っ赤な顔をして「にっ?!」と言った。
「では『安心していい』とは?」
「……?君はそれを望んでいるだろう?だから」
「え?」
「ん?」
思わず見詰め合ってしまった。
赤い顔のテオドール様は、さらに赤くなる。
……まあそうね、私は初夜の準備万端だし。
意識してもらわないと困るのよ。
「わたくしが、何を望んでいると?」
「……俺ではなく、父上を愛しているの、だろう?だから、白、白い結婚、で、いつか父上と……」
また泣きそうな顔をされるが、泣かれる謂れがありません。
「愛していませんが?」
「〜〜隠さなくていい!あんなに楽しそうに話しているのに!」
勢い良く言われた。
それは確かに、植物トークは楽しいが。
んー、目の前で盛り上がったのは悪かったけど……。
「テオドール様は何がお好き?」
「?!」
「え、何その反応」
好きなものを聞いただけですが。
「え、あ、いや。好きな……もの?」
「そうです。趣味とか。以前お話していただいたのは、狩りなどをされるって仰ってましたけど」
「……覚えててくれたのか」
「当たり前ですが??」
意外そうな顔をされるのは納得いかないわ。
婚約者の話を覚えてないような女とでも?
憮然としたが、なんだか嬉しそうなテオドール様を見たらまあ怒る気が失せた。
「そうだな。狩りや遠乗りのような、体を動かすことが好きだ」
「それ、同じ趣味の方とのお話が盛り上がりますよね?」
「うん?まあそうだな」
「その方と盛り上がってるところに、わたくしが『テオドール様はその方を愛してらっしゃるのね』と言ってきたら、どう思われます?」
「は?!いやいや、そんな訳ないだろう!同じ趣味の者なんてほぼ男だぞ?!」
焦って否定してるが、性別は関係ないのだ。
「女性でも騎士になる方はいますもの、ほぼ男性と決めつけるのはどうかと思いますわ」
「ぐっ……そうかもしれないが、それで『愛してる』と言うのは短絡的だろう」
「今まさに、貴方がそうしてますが」
「……ん?」
「ヘルメス様と植物トークで盛り上がるわたくしに、『父上を愛しているのだろう』と言いました」
「……」
テオドール様が沈黙した。
自分の行いを振り返ってるらしい。
お茶を飲んで、彼の思案の結果を待つ。
「……確かに、同じようなことを言ってるが……」
「まだ納得されないんですの?」
「父上と話している時のローザリア嬢は、俺といる時よりも楽しそうだ……」
しょぼんとした顔で言われた。
んん?
私もしばし考える。
これまで言われたことを思い起こし……ほう?
「テオドール様、もしかして焼き餅妬いてらっしゃいますの?」
「?!」
「さっき『何がお好き?』とお聞きした時に驚いたのは、わたくしのことがお好きだからなの?」
「?!!」
「『愛することはない』を泣きながら告げるのって、そういうこと?」
「〜〜〜〜!!」
テオドール様は、またもや真っ赤になって何も言えなくなってしまった。
好印象は持ってらっしゃると思ってたけど、ここまでとは気付かなかったわ。
……可愛い。
私は婉然と微笑み、テオドール様ににじり寄る。
避けるように彼は後退りするが、ソファの端に行き着いてしまった。
「ろ、ローザリア嬢、それ以上は近付かないでくれ!」
「ローズですわ、旦那様」
「だ?!」
「わたくし、本日テオドール・フォン・レスターと言う方に嫁ぎましたの。他の誰でもなくってよ?貴方と結婚するために努力してきたのです。無下になさらないで」
「む、無下にはしてない、だが」
「だって『愛することはない』と言われたわ。テオドール様に愛されないのなら、他のどなたが愛してくださると言うの?」
「だから、それは」
私はテオドール様の唇に指を当てた。言葉を封じるように。
「テオドール様。ヘルメス様には内緒よ?わたくし、殿方のお髭はあまり好きではないの」
そう告げ、彼の顎にキスをする。
「〜〜〜〜?!」
「ヘルメス様のお髭は、亡くなられた奥様が『カッコイイ』と仰ったからでしょう?その点は、残念ながら相容れないわ……。ですから、テオドール様はお髭はきちんと剃ってほしいわ」
ニコリと笑うと、恐る恐るテオドール様の腕が私の背中に回った。
「……本当に、父上のことは愛してない?」
「ええ」
「……俺のことは?」
「テオドール様はこれからですわ。まずは『愛することはない』を撤回してくださいませ」
「……俺はもう、君のことを愛してる、ローズ」
そう言って私を抱き寄せ、キスをしてくれた。
「ふふ、泣くほど悲しかったんですものね?」
「うん……」
「テオドール様、仕切り直してくださる?」
私がリクエストすると、テオドール様は少し涙で潤んだ目で見詰めてきた。
「ローズ、俺は君を、生涯愛し抜くことを誓う」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「と言う感じでどうですか?お義姉様」
「ミューは本当に器用ね!ちゃんと最後は旦那様のセリフで完結したもの」
「ミュー、義兄上がテーブルに突っ伏しちゃってるよ」
「お義兄様、どこか直したいとこあります?」
「…………」
「しばらくは無理よミュー、耳が真っ赤だもの」
「怒ってます?照れてます??」
「たぶん、ものすごく恥ずかしいんだと思うよ……」
「でもお義兄様は実際には『愛することはない!』って言ってないんですし、気にしなくていいと思いますけど。フィクションですよ?」
「……語り口が……リアル過ぎる……!」
「文句付けるの、そこ?」
「でもまあそうね、顔合わせの席で説教したのは事実だし。旦那様が結婚式まで思い込みを引き摺ってたら、ミューのお話通りの流れもあったかもね?」
「ローズ!」
「実際には引き摺らなかったんですか?」
「わたくしが植物に興味があると知ったから、植物園に連れて行ってくれたりレスター領の農民と会わせてくれたり、ご自分でも植物について勉強されてたわ」
「ローズ!!」
「わお、婚約者のための努力!素敵です!……ルシウス様、私達は婚約期間が短かったんですから、努力は結婚後でいいんですよ〜。苺に詳しくなりましたものね?」
「うん……」
「ルシウス、目に見えてしょんぼりするな……」
「ミューが他の男性を褒めるとこうなるんですよ。器のちっちゃい男だこと」
「姉上に比べたら、大概の男性の器は小さいです」
「そうだな」
「ルシウス?旦那様?」
「「すみません」」
「では、この話の筋に問題はないですね!これでお義母様と私の従姉に共有しておきますので!」
「?!なぜだ?!」
「面白いからです!」
「ローズ!止めてくれ!」
「まあ、なぜ?」
「〜〜っ、ルシウス「無理です。」」
「将来的には、愛娘のカトリーヌ様にもお話してあげたいですね!」
「伏して頼むので、それだけは止めてくれ!」




