時間
琥珀色の秒針
古い時計店を営む青年・櫂は、少し不思議な能力を持っていました。彼は、触れたものの「思い出」をぼんやりと光として見ることができたのです。
ある雪の降る夕暮れ、一人の女性・美月が、動かなくなった古い金色の懐中時計を持って店を訪れます。
「これは、亡くなった祖父が大切にしていたものです。どうしても、もう一度だけ動かしてほしくて……」
櫂がその時計に触れた瞬間、まばゆいほどの温かな光が溢れ出しました。
そこに見えたのは、何十年もの間、誰かを一途に想い続けた記憶の奔流。それは美月の祖父が、祖母にむけた無数の「愛の証」でした。
紡がれる二人だけの時間
修理には数週間かかりましたが、その間、美月は毎日のように店を訪れました。二人はストーブの上で沸くやかんの音を聴きながら、他愛もない話を重ねました。
櫂の淹れる、少し濃いめのコーヒー。
美月が語る、幼い頃の夢。
雪が窓を叩く夜の静寂。
櫂は、彼女の笑顔の中に、時計の中に見た光と同じ輝きを見つけます。そして美月もまた、無口だけれど情熱を持って時計に向き合う櫂の指先に、深い安らぎを感じるようになっていきました。
ついに修理が終わった夜。
櫂は美月に時計を渡します。再び時を刻み始めた秒針の音は、まるで二人の鼓動が重なったかのように力強く響きました。
櫂は震える手で美月の手を包み込みました。
「僕のこれからの時間は、僕自身の心で、あなたと一緒に刻んでいきたいんです。あなたの悲しみも喜びも、全部隣で見ていたい」
美月の瞳から、一粒の涙がこぼれました。それは悲しみではなく、あまりにも深い幸福が溢れた証でした。
「私も……。櫂さんと一緒にいたい。。」
外は吹雪いていましたが、店の中は春のような温かさに包まれていました。
二人は深く見つめ合い、優しく唇を重ねます。その瞬間、店中の古い時計たちが一斉にボーン、ボーンと祝福の鐘を鳴らしました。
数年後。
その時計店には、相変わらず仲睦まじく寄り添う二人の姿がありました。彼らの薬指には、金色の時計と同じ、永遠を誓う輝きが宿っていました。
二人が刻む時間は、これからも続いていきます。




