鍵とアイス
6月。梅雨が始まったばかりなのに、雲ひとつない快晴で、日差しが照り付けている。
「あー、暑い。暑すぎる。何これ!」
「夏だな〜、まだ6月だけど」
そういえば、朝見たニュースで各地真夏並みの暑さになると言っていた。今年の夏も家に引き篭もることになりそうだ。
隣でパタパタと教科書で仰いでいる彼は芝生の上に寝転んで今にも溶けてしまいそうな様子だ。
「これは暑すぎる!
授業終わったらアイス食べようぜ」
「だな」
「あ、でも俺約束あるんだったわ」
昨日1限の時に隣に座っていた奴が同じ学部だったようで、今後の講義の情報交換や交友を深めるために何人かで計画していたご飯に、俺もどうかと誘われたのだ。
断る理由もなく、4年間一緒に過ごすなら人脈があるに越したことはないと了承したのだった。
「約束?」
「うん、なんか同じ学部の奴にご飯誘われてて」
「何それ!聞いてないんだけど俺」
翔は目を見開き、声に抗議の色を滲ませている。よほどアイスが食べたかったらしい。
「言ってなかったけ?ごめん。
なんか急に言われたんだよ。
昨日たまたま1限目の時に隣にいて」
「ふーん、・・・行くんだ?」
「まあ、これから少なくとも4年は一緒だし、
仲良くしてるに越したことはないかなって」
「・・・なに、嫉妬してんの」
約束の話をしてから完全に不満げな様子の彼は、声色にも顔にも、「なんで行くんだよ」「嫌だ」というのが如実に表れている。
うーん、付き合うようになってからやや独占欲が見え隠れしていたが、大学に入ってからはより増している気がする。
「そりゃあ、しますよ。しますとも。
一緒にアイス食べるの楽しみにしてたのに」
「そこまでかよ」
「当たり前だろ。
俺あなたのこと好きなんだから。
好きな人とはできるだけ一緒にいたい」
独占欲とともに表現がオープンになってきたものがもう1つある。それは好意だ。
付き合っているのだから当たり前なのかもしれないが、翔はいつもストレートに言葉くれる。好きも楽しいも寂しいも全部。
俺は鞄から鍵を取り出すと彼に渡した。
「・・・これ」
「ん?」
「それ俺の家の鍵。
そいつらと昼ごはん食べたら帰るから、
家で待ってて」
「夜ご飯は魚がいい、アイスは抹茶」
彼は俺の鍵を受け取ってから大事そうに握りしめて俺を見た。別人のようにニコニコ笑っている。本当に単純だな。
彼は起き上がったと思えば俺に思い切り抱きついてきた。
「わかった。作って待ってる。
アイスも買っとく。
もーーーーほんとうにかわいい!!
早く帰ってこいよ」
「わかったって。もう暑いから離れろよ」
「ほら、もうすぐ授業はじまるから行くぞ」
俺は彼の手を引いて立ち上がらせて、
お互い別々の講義棟へ向かった。