4、「また会えますように」
あれから私は毎日、同じコーヒーショップに通った。
そして、あの日、鮎くんがいなくなってしまった公園で砂糖入りのブラックコーヒーを飲んでいる。
「姫ちゃん、今日も行ったの?」
「うん」
「一年も前のことじゃん、もう会えないんじゃない?」
「いや、まだ一年だし」
今日で丸一年。
今年の七夕の日に会えなければ諦めることを考えよう。
鮎くんは「ボクも会いたいけど……」って言ってたし、だから、脈が無いわけじゃないし。
そう自分に言い聞かせるのも、そろそろ限界かなぁ。
「姫ちゃん、お願いごと書きに行かない?」
「行く!行く!もう書くこと決まってるんだ!」
淳のお姉ちゃんと一緒にお出かけする。
二歳になる息子ちゃんも一緒だ。
「淳は彼女ができたから、来ないってさ」
「別に淳は、いてもいなくても、どっちでもいいです」
二人で笑う。
私は信じてる。
私には私の事を探してくれる王子様がいるって。そして、私も一生懸命、私の王子様を探している。私たちは、まだ……出逢ってないだけ。
「鮎くんが、王子様だと思ったんだけどなぁ」
「姫ちゃんはロマンチックだね」
私の事を応援してくれる、淳と淳のお姉ちゃんは大切な友達。
「旦那さんも来るんでしょ?」
「うん。少し遅れて来るよ」
私の地元の七夕祭りはすごく大きくて、毎年、県内外からたくさんの人が来る。
ずらっと並んだ大きな笹も圧巻だけど、昼から路上の車両通行止めをして、露店がたくさん出る。
今年も、短冊を持ってやって来た。
「ひ、姫ちゃん」
「鮎くん?!」
呼び止められて振り返ったら、彼がいた。
「嬉しい!すっごく嬉しいよ!私のお願い事、早速叶った!『鮎くんに会えますように』って書いたんだよ!」
「ボ、ボクも。姫ちゃんに、会えますようにって……」
今日はお気に入りの水色のワンピースを着て来て良かった!
「ねえ、一緒に回ろう!」
「え……いいの?」
「いいに決まってるでしょ!この子は、私の子どもじゃなし。ちょうど旦那さんも来たとこだし。じゃね!」
幸せな三人家族に手を振ったら、私たち、幸せなカップルに手を振り返してくれた。
最高だ!
「ねぇ、ラムネ飲もうよ!」
「ラムネ……うん……いいよ」
私は町内会の手伝いをやってるお母さんのところに行った。
「冷えたラムネくーだーさーい、2本ね」
「あれ、姫子、男の子連れてるの?淳君は?」
「淳は彼女とデートだよ。私は鮎くんとデート」
「あーら。じゃ、サービスするね」
ただでラムネをゲットして、1本、鮎くんにあげる。
「飲んだことある?」
「ううん」
シュポッとビー玉を押す。
泡がもこもこと吹き出す。
こんなのは想定済みなのだ!
腕を前に伸ばして、服にかからない対策ばっちり!
鮎くんは初めて見たみたいに目をまん丸くして、可愛い!
確定だ!鮎くんは、間違いなく、私の王子様!
一口飲んでみる。
それを見て、鮎くんも恐る恐る口をつけた。
そして「痛い!」って言った。
「鮎くん、次はかき氷食べよう!パパがやってるから!」
「かきこ……?う、うん」
まるで別の星から来たみたいな反応。可愛いうえに、面白い!
「パパ!遊びに来たよ。かき氷ふたつ、お願い」
やっと見付けた私の王子様をママとパパに会わせたい。
自慢しに来たのだ。
「おー、姫子、彼氏か?かっこいい子だなぁ」
もぉ。そういうこと、言わないで。無視しちゃうぞ。
「何味にする?」
「えっと、ボクは何でも」
「じゃ、イチゴとレモンでいい?」
崩れ落ちそうなかき氷を持って、座れるところに行った。
鮎くんは、ちょびちょびと食べながら「凍ったりしない?」と聞いてきた。
「そうなったら、私が溶かしてあげるよ!」
鮎くんのボケに乗ってみた。
「姫子ー!」
でっかい声が飛んできた。
「淳、彼女は?」
「今、たこ焼き並んでる」
「え?一人で?」
「俺、場所取り来たんだよ。姫子は何やってんだ?」
「私は、鮎くんと」
振り返った。
「鮎くん?どこ?」
溶けたかき氷と、ほとんど口をつけてないラムネの瓶が椅子に置いてあった。
「会えたんだな。良かったな、片思い姫!」
「え、うそ……」
急いで走り出す。
せっかく会えたのに。
一年振りにやっと、やっと……涙が出そうになったけど、泣かない。
綺麗な短冊のトンネルを駆け抜けながら、鮎くんを探す。
その辺からひょっこり出てきてくれないかな、「ビックリした?」って言って出てきてくれたら、今なら許してあげるのに……涙が溜まってきちゃったから上を向いた。
綺麗な天の川が見えた。
両目から流れた涙が耳に入った。
絶対に諦めない。鮎くんを見つけ出すんだから!
◇◇◇
ボクは泣き虫だよ!
どうせ、みんなの笑いものだよ!
天の川で、ずっと泣いてたら、神様に声をかけられた。
「上手く行かなかったのか?」
「行きました!姫ちゃんに会えました!でも、でも!」
せっかく神様がお願いを叶えてくれても、ボクは泣きながら帰ってきてしまう。
「思うように願いが叶わなかったのか」
「そうです。ボクはもう、お願いはしません!」
不貞腐れて、泳いだ。
天の川を全力で登っていく。
地球を見た。
青く輝く美しい惑星だ。
ボクと姫ちゃんは生まれた惑星が違うんだ。
織姫様と彦星様は、よくこんなので耐えられるよな。
一年に一度しか会えないなんてボクには無理だ。絶対に諦めた方がいい!