1、「地球に行ってみたい」
「神様はケチだ!」
「なんじゃと?」
「いや、意地悪だ!すごく意地悪だよ!」
「どこがじゃ?」
ここは天の川。無数の星が流れる綺麗なところだけど、少し離れると暗い闇しかない。怖いところだ。だから、一度でいいから、どこでもいい、赤く燃える惑星でも、青く輝く惑星でも、黄色く光る惑星でも……他の惑星に行ってみたかったんだ。
「織姫様と彦星様だけじゃなかったんだな!ズルいじゃないか!」
「そうじゃったか?すまん。すまん」
知らなかったんだ。神様が、地球って言う青い惑星の住人の願いを叶えていたなんて。だから、ボクは神様に怒っていたんだ。
「あんなに遠い星の生物の願い事は聞くくせに、こんなに近くにいるボクの願いは叶えてくれないのか!」
「そんなに怒るでない。願い事があったのか?」
「あ、あるに決まってるだろ!」
「なんじゃ。言ってみなさい」
「ち、地球に行ってみたい!」
えいや、で言ってみた。
「では、こちらに来なさい」
神様は川の淵にボクを呼んで、頭をコツンと杖で叩いた。
◇◇◇
気が付くと、冷たい水の中に居た。
「寒っ!」
天の川にも温度はあるけど、こんなに寒いのは初めてだ。
ここはいろんな色もある。水の中からでも分かる、目の前には見たことない色がたくさんあった。
「う~負けないぞ!」
流れが強いから、一生懸命に泳がなくてはならない。
地球で泳ぐのはこんなに大変なのか。天の川の百万倍は大変だ。
「姫ちゃん、こっちこっち」
「待ってぇ。ちょっと、サンダルが痛くって」
「釣りに来る格好じゃねぇーな」
あれが地球の住人か。
織姫様と彦星様に似ている……ような。
「だって、初めてだから」
「おお!姫ちゃんの初体験、ゲット!」
「下品!気持ち悪い言い方しないでよ!」
何匹もいるな。
それぞれ形が全然違うみたいだ。
神様は天の川のボクたちが誰が誰だか分からないって言ってた。
「二手に別れようよ。釣りチームとバーベキューチームに!」
「俺、釣り」
「私も釣り」
一つ目の織姫様と彦星様が、手をパチンと叩いた。
「じゃあ、俺バーベキューでいいよ」
「オッケー、じゃ、私も」
もう一つの織姫様と彦星様が、向き合って笑い合っていた。
最初の二人が何か持ってこっちにやって来た。
「姫ちゃん、釣り初めてか?」
「うん!」
「今日は、鮎の友釣りってのをやるぞ」
「友釣り?」
「こうやって、さっき買った鮎を釣り針に引っ掛けるだろ」
「痛くないの?」
「魚の気持ちになるのはやめとけ。メンタルもたない」
「了解」
「これを川に流すんだ」
「で?」
「縄張りを荒らされたと思った鮎が、この鮎を攻撃してくる」
「で?」
「もう一個の針に引っかかって釣れるんだ」
「マジで?」
「マジだ」
「そんな上手くいく?」
「いったり、いかなかったり……する」
いかないだろう。
地球の住人はなんて自分に都合のいい考え方をする生き物なんだ。
「頑張んなきゃね」
「ああ、バーベキューの品数増やすぞ!えいえい……」
「「おー!!」」
なにが、おー!だ。
ふざけるのも大概にしてもらいたい。
姫ちゃんとやらが放り投げた魚が近くに泳いできた。
すかさず、ボクと同じ柄の魚が突進していった。
「おい!よせっ!」
忠告したのに、まんまともう一つの針に引っかかってしまってる。なんと愚かな……
「なんか、引っ張ってない?」
「おお!ビギナーズラックか?でも、ここからが難しいから!」
「オ、オッケー」
「グッと引っ張って、鮎を引っ掛けて引っ張れ!」
「はぁ?!できる気がしない!」
「網持って構えてるから『せーの』っつったら、竿を真上に上げて!」
「無茶苦茶言うじゃーん!」
「できる、できる!『せーの!』」
「きゃあ!」
目の前にいた魚が消えた。
サッて、二匹とも突然、いなくなった。
「キャッチ―!」
「ええっ!すごい!ほんと?すごい!」
「見たかよ、俺の華麗なテクニック。姫ちゃん、俺に惚れちゃう?」
「かもねー!」
地球の住人は……楽しそうだな。
仲良く、ボクと似た魚を釣って遊んでいる。
「じゃ、今、釣れた鮎に付け替えて、もう一回行こう!」
「え!やだ!触れないよ……!」
「大丈夫、俺が付け替えてあげる。少し小ぶりだけど、天然のおとりの方が釣れるからさぁ」
目の前に魚が現れた。
上から降ってきたって言うのが、正しいかもな。
「お、ま、さっきここにいた……!」
「あー、なんか、釣られちゃって」
「はあ?こっち来るなよ」
そう言って体当たりしたら、体がグイーンって引っ張られた。
「はい、二匹目キャッチー!」
え?ボク、釣られちゃったの?
しばし、青い壁の狭い池で泳いだ。
さっき見たことあるやつと、そいつを連れて行ったやつ。
同じ模様の魚が4匹になったところで、景色が変わった。
雲がもくもくと湧いてくるところで、地球の住人たちが忙しそうに何かをしていた。
「淳、釣れたの?」
「オウッ!姫子がさあ、キャーキャー言いながら、スゲーうまい」
「へぇ!姫ちゃんが釣ったの?」
「えへへー!運が良かった!見て見て!」
「いいじゃないか。塩焼きでいいよな?」
「「「はーい」」」
急に、体を捕まれた。
(あ、これはいけません。ボク、苦しいです!)
声にならない叫びはむなしく、口から棒を刺された。
(やめてください!苦しいですってば!)
なんかかけられた。
(痛いです!ヒリヒリする!もう許してください!)
頭を下にして動けなくなった。
(あの……もう、どうぞ自由に……)
急に熱くなった。
(あっつ!いくらなんでも酷過ぎませんか?)
周りの魚たちはとっくに逝ってしまったようだ。
「姫ちゃん大活躍だったから、最初に選んでいいよ」
「やったー!これにする」
ボクが選ばれた。
「いっただきまーす!」
ボクのほろ苦い初めての地球は幕を閉じた。
「そう言えば、今日って七夕だね」
「そだねー」
「姫ちゃんはなんてお願いしたの?」
「そりゃ、もち『お魚が釣れますように』だよ!」
◇◇◇
天の川に帰ってきた。
「地球はどうじゃったかの?」
「神様!ボクは理不尽な目に遭いました!」
「ほう、どんなじゃ?」
「地球の住人に食べられました!」
神様は「ほーほっほっ」と笑っている。
「人間というのじゃ」
「人間は恐ろしいです!」
ボクの悲劇を笑うなんて、神様はどうかしてる。
「神様ってば、酷いです!」
「願いを叶えたのに?」
そう言って覗き込まれると、困ってしまう。
「それは……ありがとうございました」