ねじれ
ねじれている物を見ると直したくなるだろうか。それともそっとしておくだろうか。断然そっとしておく派である。ねじれていることはよくあること。むしろすっきりしている方が不思議だ。欠落の過多によりむしろ不安定だろう。
階段よりもバケツを。
椎茸よりもこんにゃくを。
アライグマよりも北風を。
付箋よりも撒菱を。
頑強さよりもなめらかさを。
ひっそりとした崖から線路のレールを放り投げる。
除雪車ははじけたそら豆を宇宙から救出。
調子外れのコントラバスが三限のチャイムを乗っ取る。
ヤスリがけした木の枝はお湯に肩まで浸かっている。
ペンキをぶちまけて凍った湖に土管を設ける。
ワープワープ。火星の核まで。
湿った潮風はドーナツが降る夜の予兆に過ぎない。
ビンは表と裏を間違えて門松にぶつかる。
ついにねじれ伯爵との面会が叶った。
いままでのねじれた功績が認められたらしい。
「そなたに聞こう。ねじれとは何だ。ねじりパン、位置関係のねじれ、ペンキに土管のねじれかそれともドーナツ降雨現象のねじれか。はたまた帽子の中に提灯と地図を見つけたねじれか」
少しの間の後、こう答えた。
「指輪のねじれにございましょうや」
伯爵はしみじみと感じ入ったようにひと言呟いた。
「ほほう。これは一本取られたな」
そうであるならば、これを。
くしゃくしゃになった石像をもらった。
しわの上から書かれている文字を判別する。
押してダメならねじってみよ。
引いてダメならねじってみよ。
開かずの扉に証をかざすだけ。
「ははあ。なるほど」
石像を再びぐちゃぐちゃにして小さくしてからにポッケに入れる。
「さあ、行きたまえ。ねじれ大王が待ち侘びているぞ」
お礼を言って伯爵の元を後にした。
ねじれ道はまだまだ奥が深い。