通じ合う気持ち・2
ブラッドは窓の外を見つめながら、カレンに話し始めた。
「正直に話すよ。過去に俺がセリーナ様に恋をしていたのは、本当だ。でもセリーナ様はサイラス団長の想い人で、彼はセリーナ様に求婚していた。そして二人はそのまま婚約した。俺の恋はその時に終わったんだよ」
「そうだったんですか……」
カレンはブラッドの横顔を見ながら、彼の話を聞く。
「俺とセリーナ様のことを色々言われていたのは、俺も知っている。ただの噂だと放っておいたのが良くなかったのかもしれない……。はっきりと否定しておくべきだったんだ」
ブラッドはため息をつく。
「お前が王都に行って三か月ほど経った時……俺はセリーナ様に結婚を迫られたんだ。俺はその場で断った。その後だ、セリーナ様の様子がおかしくなったのは」
カレンはハッとなった。セリーナが魔物討伐に出られなくなったのもちょうどその頃だ。
「セリーナ様は、俺が結婚を断ってからもずっと俺をそばに置こうとしている。俺は彼女に早く立ち直ってもらいたくて、ずっと彼女の言う通りにしてきた。だが……状況は悪くなる一方だ」
「その話、誰かにしました?」
ブラッドは静かに首を振る。
「いいや、話してない。お前に話したのが初めてだ」
「話すべきですよ。セリーナ様はブラッド様にふられると思わず、傷ついたんです。ブラッド様と結婚するつもりで、サイラス団長との婚約を解消したんですよ。セリーナ様はブラッド様に愛されてると思い込んでいたんです。それなのにブラッド様が断ったから、おかしくなっちゃったんです」
ブラッドは眉をひそめながら腕組みをした。
「……そうか。セリーナ様は俺と結婚するつもりで、サイラス団長との婚約を解消したのか」
「とにかく、今のままじゃ駄目です。セリーナ様が元に戻る為には、ブラッド様と少し離れた方がいいと思います」
「そうだな……もう俺の手には負えない。明日にでもオズウィン司教に話すよ」
「そうしてください」
カレンはホッと表情を緩めた。ブラッドはカレンに向き直り、真面目な顔でカレンをじっと見る。
「あの日、すれ違わなければ……俺達は今頃違っていたのかもな」
カレンの胸が、ぎゅっと締めつけられそうになった。
「そうかも……しれないですね」
「カレン。エリックと結婚するというのは本当か?」
「え!? 違う違う、全然違います!」
カレンは食い気味にブラッドに否定した。
「やっぱりそうか。エリックとカレンが結婚するという話を、セリーナ様が話していた」
ブラッドの顔はなんだか嬉しそうだ。
「セリーナ様、そんなことまで言ってたんですか。確かに求婚はされましたけど、はっきり断ったんで……」
「求婚された!? エリックに?」
ブラッドは目を大きく見開く。
「あの人は私が『聖なる炎を持つ聖女』だから妻にしたいんですよ。私はエリック様をそういう目で見たことないですし、あの人と結婚なんて考えたこともないですよ。私みたいな女が王子様と結婚なんて、想像しただけで震えあがっちゃう」
「良かった」
カレンが肩をすくめて笑うと、ブラッドは弾む声で呟き、窓の外を見た。
「……じゃあ、私達ってお互いずっと誤解してた……?」
「そうみたいだな」
カレンの視線に気づいたブラッドは、再びカレンに向き合った。その顔は少し緊張しているように見える。
「もう誤解したくないんだ。カレン、お前の気持ちを聞きたい。俺はカレンのことが好きだ」
カレンはじっとブラッドの目を見つめる。
「私が好きなのは、ずっとブラッド様です」
ブラッドはカレンに近寄ると、ぐいっと彼の体に引き寄せた。二人はそのまま顔を近づけ、キスをする。
「酒臭くてごめん」
「平気」
二人は微笑みあい、またキスをする。
カレンの頭はぼんやりとして何も考えられなくなっていた。何度も寄せては引く波のような恋だった。カレンはようやくブラッドの手をしっかりと掴んだ。それはブラッドも同じだった。
「もう遠くへ行くな」
ブラッドの低く甘い声がカレンの耳をくすぐる。二人は強く抱き合い、何度もお互いを求めあうようにキスをした。




