ヲタッキーズ187 母を殺して三千里
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第187話「母を殺して三千里」。さて、今回は12年前の敏腕警部の母親殺しについて懺悔しようとした元警官が射殺されます。
母親を殺した真犯人を求め、警部は任務を外されながらも懸命の捜査を続けますが、その矢先、ヲタッキーズが敵方スーパーヒロインの手に落ちて…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 音波狙撃
「10年前。私が帰宅スルと刑事が待っていて、母が刺殺されたと聞かされた。同時期に同様の殺人が3件起き、プロの犯行と思われた。実際、犯人は殺し屋で、雇われてた。依頼主を問い質したけど、真相を聞き出す前に、不慮の出来事から私が射殺した。真犯人は必ず見つける。でも、その時には、そばにいて欲しい。テリィたん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
銃口がラッパ型に開いた古い音波銃。警察学校の優等生、初めての事件…全て過去の栄光だ。音波銃を顎の下に当てる。引き金に指がかかる…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スマホが鳴る。
「ラギィ警部?ジョナ・ラグリょ。12年前に、お母さんの事件を担当した」
「覚えてます、ラグリ刑事」
「聞いて。あの事件について話したいの。伝えたいコトがアル。4番街のコーヒーショップで1時間後に来て。警察は連れて来ないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は普段着。
「ラギィ?どーした?…入れょ」
「入らない」
「え?」
僕の眼底を貫くような、鋭い視線。
「ちょっと話したいの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いたわ」
4番街のコーヒーショップ。ラギィは、ボックス席の女に突進スル。女は僕を見て怪訝な表情をスル。
「警部。警察は連れて来るなと言ったハズ」
「彼は、警察じゃない」
「じゃ誰なの?」
ココでウェイトレスが割って入る。
「コーヒーのおかわりは?」
「どうもありがとう。いただくわ」
「どうぞ」
マグカップを両手で包み込む。
「母の事件で黙ってたコトって何ですか?」
「…最近の若い人は、みんな紙コップでコーヒーを飲むのね。ソレか、プラスティックのタンブラー。でも、コーヒーは陶器で飲むのが1番。こうやってシンワリと手が温まる」
フフフと笑う。
「変でしょ?今まで気にしたコトなんか、なかったのに。この前、医者にリンパ腫だと診断された。余命半年ょ」
「…残念です」
「子供の頃、ディケンズの"クリスマスキャロル"を読んで、ジェイコブ・マーレイが怖くて仕方なかった。死んでからも、あの重たい鎖を引きずり…」
ふと遠い目になる。僕が口火を切る。
「無慈悲な行いの結果だろう」
「あら?貴方は、ホントに警官じゃナイのね。私は警察のバッチを利用して、色んな罪を犯して来た。十字架を背負ってるの。でも、貴女のお母さんの事件が1番重い」
「貴女は、真相を知っていたくせに、母の死をギャングの無差別殺人として処理したわね」
悪徳警官に容赦のないラギィ。
「命令された。恐ろしくて何も言えなかった…貴女は1年ほど前、殺し屋のディク・クナムを射殺したわね?メディアでもかなり話題になった」
「クナムを雇ったのは誰?」
「初めから説明しないと。19年前。私はジアナ・ラギィの存在も知らなかった。その時、私はとんでもない過ちを犯した。その後はドミノ倒し。そして、お母さんの事件も…」
次の瞬間、手にしていたコーヒーカップが粉々に砕け散る。追いかけて銃声。床に崩れ落ちるラグリ。
「みんな、今すぐ床に伏せて!」
悲鳴。次々と床に伏せる客。ラギィは音波銃を抜き全周警戒。ブラインドの間の銃痕を鋭く確認スル。
「窓から離れてください!」
「ラギィ、撃たれてる」
「私じゃナイ。彼女の血ょ」
振り向くと、床に転がり苦悶するラグリ。
「こちら1L40。東秋葉原4番街メイン通りで音波銃の発砲あり。応援と救急車を要請。大至急!」
「1L40。通信が途切れた。繰り返せ」
「テリィたん?」
既にラグリは脈がない。僕は首を振る。
「そんな…」
「1L40、応答を願います!1L40、状況は?」
「こちら1L40。4番街で殺人事件発生」
第2章 妄想と執筆のためでなく
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"に由来スルあらゆる事象に対応する組織だ。
"裂け目"の影響で超能力に"覚醒"した腐女子が絡む事件では、警察と合同捜査を行うコトが多い。
「被害者は引退した超能力者。しかし、現役の刑事の目の前で射殺スルとは。事件性が高いのでSATOの方で記者会見を開きます。ところで、ラギィ。当然、現場に応援はいたのよね?まさか貴女1人で行ったンじゃナイでしょうね?」
「ソレが…」
「"BLUE"案件となる可能性が高かったので、警部は私達を呼んでました」
現場にかけつけた僕達にSATO司令部のレイカ司令官からスマホ。
ラギィが口ごもったと見るや、背後からメイド服の2人が割り込む。
「ちょうど撃たれた時は向こう側にいて…」
「あらあら、ホントかしら。珍しくテリィたんまで現場にいるけど…」
「本件は所轄が仕切ります。SATOのバックアップはヲタッキーズを指名します」
ラギィが直言。スーパーヒロイン集団ヲタッキーズは、SATO傘下の民間軍事会社で僕がCEOだ。
「でもね、ラギィ。貴女は、お母さんの事件で頭がいっぱいになってるわ」
「レイカ司令官。彼女が殺されたのは、まさに母のコトを何か話そうとした時ナンです」
「わかったわ。でも、熱くなって無茶な行動に出ないで。冷静でいてね。余計なコトは考えズ、今ある手がかりだけを見て」
ラギィはほとんど聞いてナイw
「ROG」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
殺人現場。ボックスシートの背にマグナム弾がめり込んでいる。鑑識がマイクロペンチで摘み出す。
「対人狙撃用の音波弾ですね」
「弾道は見られる?」
「こっちです」
テーブルに置いたレーザー発振器を窓の銃痕の方に向け霧スプレーを噴きかける。
発振器から銃痕を抜け窓の外へレーザーの「光の道」が現れる。コレが弾道だ。
「向かいのビルの4階から撃たれてる。誰か目撃者がいるカモ」
「わかった。任せて」
「ソレから、ラグリは自宅から尾行されてたハズよ。自宅付近で不審人物がいなかったか聞き込みをして」
顔を見合わすエアリとマリレ。ラギィの指示は、常に冷静で的確だ。
「ますます任せて」←
「テリィたん、どう?目の前で人が息を引き取るとショックが大きいでしょ?」
「血は全部洗い流せた。最初、ラギィが撃たれたのかと思った」
出撃するヲタッキーズと入れ替わりに僕が入る。
「私、署に戻るわ。御屋敷まで送ってあげる」
「え。僕は帰らないぞ」
「そ。」
少し驚いた顔で振り向くラギィ。
「じゃ良いわ」
窓の外で、SATO広報官の会見が始まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夕暮れ。"秋葉原マンハッタン"の摩天楼群が黄昏に染まって逝く。捜査本部でエアリが報告スル。
「ラギィ。向かいのビルを調べたけど、指紋も目撃者もナシ。ただ、ビルに入るにはロビーを通らないとダメで、キーカードが必要だとわかった」
「犯人もキーカードを持ってたってコト?」
「そーなる。今、従業員のリストと防犯カメラの画像をクロスチェックしてる」
続いてマリレ。
「ラグリについて聞き込みをした。彼女は、家族を亡くし、身内もいない。来客も少なかったそうだけど、タマに韓流ドラマを見に来るお友達がいた。警察学校で一緒だったケリィ・マカタ」
「探してくれない?話がしたいわ」
「ROG。見つけ出すわ」
ヲタッキーズは出撃。僕とラギィは、韓流の聖地巡礼をしている2人の写真を見る。つぶやくラギィ。
「19年前なのよね」
「え。何が?」
「ラグリは、19年前の話をしてた。でも、母の事件は12年前なの。計算が合わないわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の会議室。出されたコーヒーにスキットルからアルコールを注ぐケリィ・マカタ。
「この街は、私の青春も結婚生活もダメにした。ソレに飽き足らず親友まで奪うナンて」
「ラグリと最後に会ったのは?」
「1週間前。病気の話をされたわ」
マグカップのコーヒーをウマそうに飲むケリィ。
「他に何の話をしたの?」
「どーして?ソレで充分でしょ?ラグリは、とっくに引退してる。アンタに何の用がアルの?」
「ある未解決事件の捜査があって、彼女には協力してもらってた。だから、恐らく口封じのために殺された。19年前にあったコトと関係してると言ってたわ。何のコトかしら?」
深く溜め息をつくケリィ。
「ラグリは、決して善人じゃなかった。市場時代の秋葉原は今とは違う。善人に警察は務まらなかった時代だ…ソレを責めるつもりなら、私は帰らせてもらうわ」
「責めようなんて思ってナイ。私はラグリを殺した奴を捕まえたいだけよ」
「…わかった。私は、関わるなと忠告したの。バルカ・シモズには近づくなって」
眉を顰めるラギィ。
「バルカ・シモズ?古くは麻薬カルテル、今は"覚醒"を焦る腐女子相手に"覚醒促進剤"と称してインチキ薬剤を売りつけては片端から廃人を量産してる"覚醒剤シンジケート"の元締めよ」
「ラグリは、競馬にハマってた。でも、19年前は不運続きで、彼女は金に困ってたわ」
「ソレで"ダークサイド"に転んだのか」
僕の指摘にうなずくケリィ。
「YES。その後、ラグリがシモズの運び屋になったと聞いた。"覚醒剤"を覆面パトカーで運んでた。おまけに、コレも恐らくシモズが裏で手を回したンだろうけど、ラグリは殺人課へと異動になった。モチロン、シモズは何人も殺してる。だが、ラグリが内部から手を回して事実を隠蔽した。とにかく、バルカ・シモズを良く調べるコトね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のホワイトボードにバルカ・シモズの顔写真が張り出される。 浅黒い肌。見事な禿頭。
「暴行、殺人未遂、強請り、薬物所持、証人威迫…でも、ココ数年は逮捕されてナイわ」
「つまり、改心しちゃったとか?」
「まさか。ズル賢くなっただけ。以前はワシントンハイツに…」
エアリの話をラギィが遮る。
「何?ワシントンハイツ?」
「YES。シモズの昔の縄張りだけど、何か?」
「私の母は、仲間達と麻薬撲滅運動をやってたの。ワシントンハイツから売人を一掃するためにね」
ヲタッキーズのメイド達は初めて聞く話だ。
「ソレじゃソコで商売してたシモズは、きっと大打撃を受けたでしょうね」
「きっとお母さんを殺したディク・クナムとは、薬でつながっていたんだわ」
「そして、シモズはクナムにお母さんを殺すように指示したのょ」
メイド達の妄想を僕が引き取る。
「そして、お友達のラグリに、足がつかないように無差別殺人として処理させたワケだ」
「ところが、ソレを打ち明けようとしたラグリも射殺して、全てを闇に葬った?」
「ラギィ、待ってて!直ぐシモズを連れて来るから!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。 不敵な笑みを浮かべるバルカ・シモズ。
「取調室の壁の色を変えた?私が前にココへ来た時は、アンタは未だ16才位で、ニキビ面の連中とお盛んにヤッてた頃ね」
「おい。やめとけ」
「あら?貴方、ラギィを好きなのね?彼女を守りたいんだわ」
ラギィと2人で対応していたら、シモズは僕に絡んで来る。ラギィが遮る。
「ラグリ刑事との関係は?」
「ラグリ?ラグリ…崖っぷちの警官ね。"覚醒"したスーパーヒロインのくせして、やたら競馬で負けまくってた。私と彼女に何かあったとしても、とっくに時効になってるわ」
「あのね。殺人に時効はないの、シモズさん」
破顔一笑するシモズ。
「どうやら尋問のテクニックを使って来たようね?この時点で警部が容疑者に接近して不安を煽る。私に接近するのは…貴方?」
またしても僕に絡むシモズ。瞬時に目の前の1番弱い者をターゲットに選ぶ天賦の才w
「こっちを見なさい。貴女の相手は私。12年前ジョア・ラギィは麻薬撲滅運動を実施した」
「うーん。またしても尋問のテクニックだわ。容疑者の視点で犯罪を語り出す?」
「ジョア・ラギィと仲間2人は殺された。犯人はプロの殺し屋で殺害を指示したのは貴女。そして自分には足がつかないようペットのラグリを使って事実を隠蔽した」
殺された母親の写真を示すラギィ。
「彼女の顔を見て。この顔を覚えていないとは言わせないわ」
「ラギィ警部。確かに彼女を覚えてる。路地でゴミにふさわしく血だらけになって倒れていたわ」
「気をつけなさい。シモズ」
全く気を付けないシモズw
「金持ちのクソ女がサファリに来て、アニマルにちょっかい出すと危険だと誰も彼女に教えなかった。忠告を聞いていれば、彼女も食われずに済んだのに。噂によると、滅法うまかったそうよ」
「テリィたん、離れて!」
「え?」
ラギィがシモズに飛び掛かる。背中からマジックミラーに叩きつける。ミラーに無数のヒビが入る!
「思い出に浸るのは今の内だけ!そのうちに、思い出せなくしてヤル!」
「やめて、ラギィ」
「離れて!」
エアリとマリレが飛び込んで来て2人を引き離す。
「アンタもヤルから来なよ」
シモズは僕を挑発する。ヤラねぇよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターいっぱいにレイカの顔w
「やってくれたわね!ラギィ、貴女がバカをヤルからシモズは自由の身だわ」
「レイカ司令官!聞いてましたょね?奴は自白したも同然です」
「全部シモズの思うツボなの!貴女は、良いように踊らされてるだけ。シモズが事件に関わってるという証拠は何一つない。ラギィ、貴女は外れて」
瞬間、泣き出しそうな顔になるラギィ。
「レイカ。ダメです。ソレは出来ません」
「聞こえた?外れて」
「ソンな…」
絶句したラギィだが、やがて諦めて、本部を飛び出して、ジャケットを肩に担いで出て逝ってしまうw
「ラギィ!おい、ラギィ!」
「テリィたん。貴方も帰って」
「え。どーして?」
モニターの中から僕を睨むレイカ。
「遊びは困るの。外れて…エアリにマリレ!ラグリ殺害は、貴女達2人が担当して」
「レイカ司令官。申し訳ありませんが、ソレは出来ません」
「同じく。拒否します」
即座に首を横に振るメイド達。
「あらあら。ウチと御社との良好なビジネスパートナー関係も今日限りかしら?以後、御社には交通事故処理の仕事しか回せなくなるけど?」
「わかりました」
「ROG」
下請けイジメだ。パワハラw
「ラギィを助けたいのなら、犯人を捕まえて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
白昼の"潜り酒場"。
「テリィ様が撃たれていても、おかしくありませんでした」
「でも、大丈夫だったょミユリさん」
「テリィ様。妄想とは違ってリアルの結末はわかりません。今回は運が良かっただけ」
いつになく悲観論だw
「大げさだね。何かあった?」
「ソンな…何があったかナンて。"覚醒"もしてない生身のテリィ様が危地に飛び込むとは」
「そっか」
多分、元カノNo.1のラギィと一緒にお出掛けしたのが気に障ってるのかな、とか自惚れてみるテストw
「テリィ様は、世渡り上手で機転や愛嬌や才能を武器に生きて来た。でも、コレは現実です。愛嬌があっても殺人音波は避けられません」
「コミットを辞めるべきだと思う?」
「何のためにコミットしてるのかを考えて。今までに22冊のベストセラーを執筆してる。毎日現場に通わなくても、ちゃんと執筆出来ていたのです」
ミユリさんの声は、僕の心の声だ。
「ミユリさん。執筆のためだけじゃないンだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のエアリ&マリレ。
「スナイパーはシモズに雇われてたのかしら?」
「ソレはスナイパーに聞いてみないと」
「狙撃に使った音波ライフル銃は、多分、分解して持ち込んでるわょね」
狙撃に使われたビルのロビーの防犯画像を検証中。
「分解して運ばないと街中で怪しまれちゃう。きっとブリーフケースに入れて運んだハズょ」
「街中の人みんなブリーフケースを持ってるわw」
「そうね。ねぇ犯人は逃せナイわょ?」
エアリが念を推す。
「わかってる…あ、ワザとぶつかってるわ。ホラ、この女の人同士」
「転ぶフリして、バックからキーカードを盗んでる!ビルの部外者だわ」
「ちょっと待って。手袋してナイわ」
アラサー女子?顔が映らないw
「でも、何も触ってナイ。指紋は取れないわ」
「いいえ。衝突した相手に触ってる。上手くすれば指紋が取れるわ」
「シャワーを浴びてたら無理ょ」
マリレは自信満々。
「土曜の早い時間ょ?独身女子は未だ寝てるわ。きっとシャワーも未だのハズ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田花籠町のラギィの新しいアパート。謹慎を命じられソファに深く沈んでいるラギィ。ノックの音。
「テリィたん!」
「ジョシは?」
「今、アフリカで人助け中」
髪を下ろした普段着のラギィは…スゴい美人だ。気のせいか、僕を見て少しウレしそうに微笑む。
「コレを渡したくて。色々あって大変だったから…さ。はい、どうぞ」
「花束?ありがとう。うれしいわ。入る?」
「あ、そうだね…素敵な部屋だ」
ロフト付きのリゾネット。ガーリー要素は皆無w
「考えてたんだ。ほら、優秀な刑事が出て来る映画があるだろ?ダーティハリィとかコブラとか。あーゆー優秀な刑事映画には共通点がアル」
「直ぐ殺されちゃう陽気な助手?」
「え。ソレもそーだな…まぁソレもアルけどw大事なポイントは、担当を外されてから活躍するってトコロさ」
ゆっくり微笑むラギィ。ホントに美人だなw
「テリィたん。ソレを言いにワザワザ来たの?」
「大事なコトは、僕達はラグリの事件の担当は外されたが、お母さんの事件を外されたワケじゃナイってコトだ。で、早速作戦だけど、先ず帽子を目深にかぶり、忍び足でSATO司令部に忍び込む。レイカがトイレに逝くのを狙って…どうした?何かおかしい?」
「テリィたんに見せたいモノがアルわ」
ラギィは、クスクス笑いながら、ウォーク・イン・クローゼットに僕を招く。ソコには…
壁一面に、キレイに清書されたメモが整然と貼られている。ホワイトボードの部屋版だ。
お母さんの事件が完全に整理されてるw
「お母さんのコトが頭から離れないんだね。ジョシもコレを見た?」
「まさか。ドン引きされちゃう。彼は知らないわ」
「いつから始めたんだ?」
するとラギィは少しスネたような顔。
「テリィたんが"ユギヲ2.5"で衛星軌道に行った頃から」
「…ソレで何かわかったコトは?」
「母以外の被害者はダアンとジニフ。2人とも母の活動を手伝っていたボランティアょ。ソレと4人目の被害者は、裁判所の事務員スコト・マーレ」
顔写真と関係するメモを次々指差す。
「今まで、みんな関係してた訴訟のせいで殺されたと思ってた。でも、母が殺される前に、母が申請していた裁判所のファイルが消えてる」
その記述が記載されたメモが映る。
「何の事件を調べてたかワカラナイかな。お母さんの手帳とかに描いてナイ?」
「9年前にも見たけど、何もなかったわ」
「あのさ。も1度見るべきだょ。見逃しや新たな気づきがあるカモしれない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あの女、人殺しだったの?!」
真っ赤なキャミソールの金髪女は髪の毛ボサボサのママ"任意"で出頭、監察のビニールボックスみたいな透明な箱の中に片腕を突っ込み大騒ぎしてるw
「最近の秋葉原、変な奴が多過ぎる。どうして私って変な奴ばかり引きつけちゃうんだろう?2ヶ月付き合った彼氏も超変だった。私は超好きだったの。でも、ある日スマホに知らない女が出て、彼は死んだって言われた。すごいショックだった。もぉビックリょ。その女と遺骨を神田リバーに撒いて、悲しみを乗り越えるためにカウンセリングを受け、女が紹介してくれた色んな男と寝たの」
ウンザリ顔で聞いているエアリとマリレ。鑑識は、ひたすら彼女の腕への蒸気の当たり具合を調整中w
「ソレでやっと立ち直った頃、お店に、あ、私、コスプレキャバに勤めてルンだけど、お店に現れたの。生きてやがった!」
「マジ?ヒドいわねぇ」
「エアリ、指紋が出た」
鑑識が確認スル。
「ね?わかる?マジ酷いでしょ?私をそんなに避ける必要がある?私のコト、少し勘違いしてると思う…え。終わり?私、寝坊してシャワーも未だでホントに良かった?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。ラギィのウォーク・イン・クローゼット。
「母の手帳には、何が描いてアルのかわからない。いつも母独自のルールで描いてるから」
「ラギィ、可愛かったんだな。お母さんが撮った?」
「何を見てるの?!」
アイスリンクでシューズの紐も結びながら、カメラに向かって微笑む、ラギィの若かった頃の写真。
「ソレ、母が殺される3週間位前よ」
「フィギュアスケート、やってたんだ。写真は?」
「見たらきっと後悔するわ」
なおさら見ないと!まさかアスリートAV?
「何?ニヤニヤしちゃって」
「…何の写真かな?24枚撮りのフィルムなのに、アルバムの写真は20枚しかない」
「え?」
ネガを取り出す。太陽にかざす。
「現像されてない4枚は、どこかの人通りの少ない通りの写真だけど…」
「ココは、母の殺害現場だわ!コレ、どーゆーコト?現像されたのは、母が殺される1週間前」
「お母さんは、どうして、こんな裏通りの写真を撮ったんだろう?」
大きく山が動く予感がスルw
「昼でも薄暗い、人通りのない通りだから、ソコで殺害されたのかと思ってたけど…この裏通りに何か他の理由があったとしたら…」
「この通りで起こった事件を何か調べていたとか?」
「当時の事件報告書を調べたいけど、私は謹慎中で動けないし…」
やっと僕の出番だ。
「任せろ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び同時刻。御屋敷のカウンターでハッカーのスピアのPCの前に集まるヲタッキーズ。画像が出る。
「出た。ハルロ・クウド。32才…あら?前歴がナイわ。警視庁のデータベースをハッキングしてルンだけど、コレに拠ると交通違反すらナイ模範的市民。でも、信用情報は2年前から」
「うーんコレはニセのIDだわ」
「でも、リアルでカードは使ってる。悪の巣窟ホテル"レコル・アクシヲム"にチェックインした。ジャストなう!」
第3章 宿敵はハルロ・クウド
悪の巣窟ホテル"レコル・アクシヲム"のスイートに、音波銃を構えたエアリ&マリレが突入…が、誰もいない。部屋は真っ暗で、LEDライトをかざす。
「ヲタッキーズ!動くな!」
「クリア!」
「クリア…見て」
サイドテーブルの上に電子基板、コード類、工作器具、写真が数枚、カプセル入りの錠剤…
「1歩遅かったわ」
「ねぇ見てよ。ラギィが覆面パトカーに乗り込むトコロを撮ってる。もしやラギィ推し?」
「警部を監視してたのね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自宅謹慎中のラギィにレイカ司令官からスマホだ。4丁目のカフェで話す僕達の画像も送られて来るw
「エアリとマリレがスナイパーのホテルを特定した。貴女は監視されてた。コイツはタダの変態野郎じゃない。高度に訓練され、資金も充分にあるプロのスナイパーょ」
「大変。急いでテリィたんに伝えないと」
「もう知ってる。万世橋のトイレで報告書を漁っているトコロを拘留されてる。どーゆーコトなの?」
肩をスボめてみせるラギィ。
「ラギィ警部。謹慎中の貴女に警護をつけるよう、署長にお願いした。とにかく、家にいて」
「もし、プロのスナイパーが私を狙っているのなら、1番安全なトコロは万世橋警察署ょ。この事件を所轄主導に戻し、私に担当させてください。母の事件の捜査をしたいんです」
「悪いけど、ソレは出来ないわ。絶対に許可しないから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"秋葉原マンハッタン"が朝焼けに染まる。朝の電気街を見下ろす御屋敷。神田リバーの川面が輝く。
「エアリ達がクウドの部屋で拾ってきた錠剤カプセルを調べてみた。フラゼパムと言う抗不安薬を濃縮したモノだとわかった」
「ソレ、スナイパーの常備薬だわ。特殊部隊にいた頃によく見た。優秀なスナイパーは、抗不安剤で自分の心臓の鼓動を落ち着かせてから狙撃スルの」
「なるほど。市販の抗不安薬とはワケが違う。そこそこ薬物の知識がアル奴の手作りってコトね?」
カウンター席には、カプセル入り錠剤の入った証拠品用ビニール袋が並ぶ。
「バルカ・シモズのシンジケートかしら?」
「そう思ったけど違う。売人は、こーゆー薬には必ず自分のマークをつける。でも、コレはシモズのシンジケートのマークじゃない」
「そのマーク、見覚えがあるわ。チャド・ロリクと言う売人のマークよ。佐久間河岸のSOHO界隈で縄ばってるインディーズ系の売人」
ヤタラ詳しいマリレ。おいおい。まさかドラッグやってないだろーな。頼むょw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。チャド・ロドリは学生だ。ピンクのボタンダウンのシャツ。スタートアップのCEOみたいw
「ラッキーな人ね。プソイドエフェドリンの所持に処方箋偽造と規制薬物の製造で逮捕されているのに、全て無罪だナンて」
「誤解だよ。僕はただの大学生だ。ただ、パパの顧問弁護士と超仲良しなだけだよ」
「超仲良しなのかぁ」
ブラインド側に背にもたれていたマリレがツカツカと歩み寄る。エアリと並んでチャドの正面に座る。
「連行の理由に思い当たるフシは?」
「さぁ?僕の血筋への嫉妬だろ? 特に貴女達みたいなヲタクメイドとは根本的に違う人生だからね」
「ふーん」
ヲタッキーズをチラ見して、ニコリともしないチャド。マリレも能面のママ、顔写真を示す。
「とりあえず、連行の理由は変な薬を売ってた疑いょ。でも、私達は麻薬係の刑事じゃナイの。私達が用事があるのはコッチ」
マリレが示した写真を手に取って見ようとしたチャドは、目の前で写真をひったくられて、溜め息だ。
「じゃ協力出来ないな。どうせメイドじゃ僕を逮捕出来ナイだろ?」
思わズ顔を見合わせるエアリとマリレ。
「あら?逮捕なんかしないわ。ただ、ちょっとばかり待っててもらうコトになるわ今宵…留置場で」
「ただ、先客がいるの。身長185cmの性犯罪者で、体重は100kgぐらい。ストリートじゃ"チョコミント"って呼ばれてる。貴方みたいな、インテリでハンサムな"お友達"にとても会いたがってたわ」
「貴方が規制薬物であるプラゼパムを違法に販売したのはわかってる。でも、今日は私、デートなの。コイツの居場所さえ歌えば、ソレでOKょ?」
マリレがニッコリ笑う。嫌な女w
「ソレか留置場に行って"チョコミント"のお友達になるかね。じゃ考える時間をあげる」
サッサと立ち上がるメイド達。慌てるチャド。
「き、聞け!コレは2週間前に売った奴だけど、売った相手はコイツじゃナイ。こんな男は見たコトもない」
「あら。じゃ買ったのは誰?」
「常連のジリン」
男?女?
「特徴は?」
「金髪30代。多分、和泉パーク界隈に住んでる」
「苗字は?」
泣きそうな顔になるチャド。
「知るワケないだろ!買うモノがアル時にだけ、現れては消える。マジで連絡を取る手段は無い」
ウソつけ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィが薄くアパートのドアを開ける。やれやれ。ダランと下げた右手にサイレンサー付きの音波銃w
「レイカに何か逝われたのか?」
「ねぇテリィたん。貴方にお願いしたいコトがアルの。入って」
「入るよ」
僕は部屋に入り…深呼吸してから回れ右。
「なんだょ?」
「帰って」
「断る。ココはアキバだろ?ココの他にヲタクが帰る場所ナンかアルのか?」
すると、全力で説得モードのラギィ。
「私は、警部だから覚悟は出来てる。でも、警官でもないテリィたんやヲタッキーズを巻き込むワケにはいかない」
「冗談じゃないょ。確かにヲタクだけど、ヲタッキーズは傭兵だぜ?レイカに三顧の礼をつくしてゲットした仕事だ。全力で当たる。そもそもラギィを邪魔スルためや、SF作家としての好奇心を満たすために協力してるんじゃない。そんな理由ならとっくに辞めてる」
「じゃ何のためなの?」
思わズ見つめ合う僕達。ラギィが瞳を見開く。お互いに、お互いが何かを答えるのを恐れている。
「僕にはバッチがない。JAZZキッズからもらったチョコレートのバッチはアルけど。でも、仕方ない。僕はラギィの陽気な助手だろ?」
「陽気な助手は…大抵殺されるわ」
「じゃ相棒で頼む」
勝手にソファに座りファイルを開く。
「…OK。テリィたん、何か発見はあったの?」
「コーヒーショップでラグリが話し出した"19年前のコト"が少しずつわかってきた。お母さんが殺される前、あの路地で別の殺人があったンだ。当時あの路地には、ストリートマフィアが集まるクラブがあった」
「ソンなクラブがあったなんて…知らなかったわ」
ソレ見ろ。ドヤ顔の僕。勾留された甲斐があった笑。セピア色の写真を示す。路地に死体が倒れてる。
「その後、閉鎖したんだ。この画像を見て。殺されたのは警視庁のボブア・メーン。メーンはストリートマフィアの潜入捜査をしていた。だが、捜査がマフィアにバレて処分されたんだ」
「処刑されたのね」
「犯人は…」
犯罪者写真をスマホに出す。
「逮捕されたのは、ストリートマフィアの用心棒ジョプ・ルガテ。彼は、公判で罪を認めた。その彼を逮捕したのは誰だと思う?」
「ジョナ・ラグリね」
「ピンポーン。確かラギィのお母さんは弁護士だったよな?メーンやルガテの話を聞いたコトはなかったか?」
ファイルを目を落とすラギィ。
「家族に仕事の話をスル人じゃなかった。聞いてないけど、でも絶対つながってるハズ」
「ルガテなら絶対に何か知ってると思うンだ」
「OK。会いましょう。テリィたんも来て」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鉄条網で囲まれた刑務所。音響兵器が見下ろす監視塔。遠く隅田リバーの川面が光る。ルガテと面会。
「実は、ボブア・メーンを殺ったのは俺じゃナイ」
「でも、公判で罪を認めたでしょ」
「モチロン司法取引だ。死刑にされちゃ、割に合わないからな」
ショックだ。当時の司法ってこんなモノ?
「ラグリは、貴方が現場にいたと目撃証言してる」
「あぁ。あの時メーンと一緒にいた。モチロン殺害の瞬間も見てる。だが、話は全く違う。そもそも、コトの起こりは、覆面の男3人がバンで俺を拉致しようとして起きた。メーンは、相手の銃を奪おうとして、気づいたら撃たれてた」
「相手はライバル組織の人間ね?」
突っ込むラギィ。だが、首を振るルガテ。
「いや、違う。当時ストリートマフィアを狙った拉致事件が多発していて、新線組との戦いは休戦状態だった。だから、俺があの時あの場所にメーンと一緒にいたコトは誰も知らないハズだった。ソレにアソコは袋小路ナンだ。ソレを知っているのはメーンを撃った連中だけだ。不思議に思わないか?ラグリは、ナゼ俺が袋小路にいたコトを知ってたンだ?」
「ラグリが犯人の1人だってコト?」
「どーなんだ。教えてくれょ」
何と僕の方を見る。ラギィが続ける。
「あとジアナ・ラギィと言う弁護士に聞き覚えは?その事件の7年後、あの路地で殺されてるんだけど」
「…アンタは、彼女にソックリさ。アンタが現れた時、幽霊かと思ったよ。アンタの話を彼女は良くしてた。俺は、あの時、何人もの弁護士に手紙を書いた。でも、返事をくれたのはアンタのお母さん、ただ1人だった」
「私の母らしいわ」
初めて微笑むラギィ。ルガテは身を乗り出す。
「お母さんは、この事件について良く調べてくれると約束してくれた。しかし、そのお母さんが殺されたと後で聞いた。だから、アンタも充分に気をつけろ。世の中で1番怖いのは、俺達ストリートギャングじゃない。警察バッチをつけたギャングどもさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「とりあえず、レイカ司令官の命令に逆らったコトは聞かなかったコトにします。その代わりにラギィ、何がわかったのか話して」
「ミユリさん。だから…」
「テリィ様はお静かに。ラギィから伺います」
ラギィがうなずく。僕は…沈黙w
「19年前にラグリと警官2人が身代金目当てにストリートマフィアの拉致を繰り返してたコトがわかった。でも、ルガテの拉致には失敗したみたい」
「その際に、潜入捜査官を誤って殺し、その罪をルガテに着せたンだょミユリさん!」
ミユリさんは僕を振り返り、微笑んでから"お黙り"のハンドサイン。おい!僕はCEOだぞ!
「…その7年後、母と仲間達はルガテの上訴を請け負うコトにした。でも、真実が暴かれ、判決が覆れば警官達の拉致ビジネスが明らかになる。だから、ハルロ・クウドに関係者の殺害を依頼…」
「そして、当時、殺人課だったラグリが無差別殺人として処理、真実を隠蔽した」
「ところが、自分の余命を知ったラグリは、罪を懺悔したくなって…射殺された」
ミユリさんが"妄想"に加わる。
「確か、拉致犯は3人いたとルガテは歌ったそうですね?ラグリを殺したのは残りの2人カモ」
「ミユリさん、ナイス妄想。すると、その1人はケリィ・マカタだな」
「ナゼですか?テリィ様」
僕が答えるより先にラギィが書類を示す。
「当時の記録を見て。ルガテの逮捕の時に、ラグリの応援に駆けつけたのが婦警時代のケリィ・マカタなの」
「お話を伺わなきゃ」
「ラギィ。後はSATOに任せて…って確かに口頭で申し入れたンだからね」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室のラギィは元気いっぱいだ。そもそも、取調べ自体がSATO司令部じゃなく万世橋の取調室だ。
背後に激しくヒビ割れたマジックミラーw
「あのね。アンタが歌ったバルカ・シモズは今回の件とは無関係だった。元警官のアンタは捜査を撹乱スルために、彼の名を出した。ストリートギャングの拉致もアンタとラグリの仕業だった」
「そーゆーアンタ達こそ、当時の状況を知らない。私達は必要なコトをしたまで」
「でも、ソレは完全な犯罪だった。拉致に隠蔽」
僕は悪徳婦警の正面に座る。ラギィは歩いている。
「そして、ルガテに罪を着せた」
「待って。アンタは、ルガテが何人殺し、何人リバーに沈めたか知ってる?当時は、マフィアが何をしても万世橋は動かない。なぜなら、全員買収されてたからょ。私達は、ソレを黙って見てなかっただけ。モチロン違法だとわかってた。しかし、正しい行いだった」
「身代金稼ぎの拉致は正義なのか?」
僕はつぶやく。
「YES。私達にとっては、アレは"世直し"だった。私達は、マフィアを拉致し制裁を加え、ストリートを清掃した。しかし、連中を脅した後、監禁し続けるコトは出来ない。だから、高い保釈金を要求するコトにした。釈放して欲しいなら、金を出してもらう。払わないなら釈放はしない」
単なる誘拐犯と変わらないw
「私の母がルガテの調査を始めると、アンタはビビってハルロ・クウドを雇って殺害を依頼した」
「罪を告白しようとしたラグリも殺したょな?」
「違うの。ソレは私達と関係ない。アレは"神々"の指示ょ」
初めて目を伏せる悪徳婦警。
「その"神々"って誰?」
「…アンタは手を出せない。ワカッテナイのね。アンタは"眠れる龍"を起こした。コトの真相は、想像を遥かに超える。話は以上ょ弁護士を呼んで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻の"潜り酒場"。カウンターで頬杖をつきリアル取調べ画像に見入る僕達。ミユリさんの呟き。
「警察じゃない何かに怯えてますね。とにかく、スナイパーを探さないと。おかえり、ヲタッキーズ。収穫は?」
「姉様、進展です。フラゼパムを買ったのはジリンって女性です」
「恋人か?」
恋人が売人!ジャンキー、憧れのパターンだw
「多分ね」
「金髪で東秋葉原在住、30代の情報から2人に絞れた。ジリン・グレジとジョリ・アダス」
「画像もあります」
スマホにエアドロップされて来る。
「OK。エアリとマリレ2人はジョリ・アダスをお願い」
「ROG」
「テリィ様と私は、ジリン・グレジを当たります」
二手に分かれる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
久しぶりにスーパーヒロインに変身したミユリさんと現場に出る。ヘソ出しセパレートのメイド服だ。
バカみたいに高いヒールw
「ジリン・グレジ?南秋葉原条約機構ょ!」
部屋に入り込むムーンライトセレナーダー。
「ジリン?」
必殺技"雷キネシス"のポーズで入って逝く。キッチンカウンターの向こう。後手に縛られた白い手。
「遅かったわ」
白目をむくジリン・グレジの死体。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑居ビルの狭い回り階段をグルグル登るエアリとマリレ。スマホが鳴る。
「エアリ? ジリン・グレジは死んでたわ」
「ROG、姉様。ソチラに回ります」
「えっと。回れ右?」
狭い階段で回れ右だ。その時、視野の片隅を何かがユックリ横切り、落ちて逝く。何だ?閃光手榴弾?
「耐ショック、耐閃光防御!」
直後"光のビックバン"が炸裂。同時にサイキック抑制蒸気が湧き立つ! スマホ越しに爆発音が響くw
「エアリ?マリレ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「状況は?」
「コチラSATO司令部。ヲタッキーズの2人は拉致された。ハルロ・クウドの仕業ね。彼女達のスマホは現場に捨ててあった」
「GPSで追跡出来ないように捨てたのね」
傍らでうなずく僕。
「きっとハルロ・クウドも、ジリンのスマホを捨てたろうな」
「ハルロ・クウドのスマホ番号がバレますからね」
「ミユリさん。ジリンのスマホの請求書、無いかな?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どのビルにもある、暗い地下室。2人並んで椅子に手に縛られたまま、覆面を取られる。
目の前には、氷水が並々に入ったビニールプール。モウモウとしたサイキック抑制蒸気。
「2人ともお見事だわ。長年この仕事をやっているけど、ココまで近づかれたコトは無い。マズいコトに私達が予想していたよりも、かなり捜査が進んでしまったようね。今後、私達が仕事を続けるために、私と依頼主の"神々"について、ヲタッキーズが何処まで知っているかを話して欲しいの」
ビニールプールに、黙々と氷を入れる手下メイド2人。室内にはサイキック抑制蒸気が立ちこめる。
「OK?私はヲタッキーズを尊敬してるの。ねぇホンキょ。だから、こうしない?私が知りたいコトを全部話してくれれば、貴女達の頭を1人ずつ音波銃でブチ抜いてあげる。でも、もし話さずに私をイラつかせるなら、今夜中に自分を殺してくれと泣いて懇願するコトになる」
捉えたヲタッキーズを指差すハルロ・クウド。真っ黒なメイド服。エアリとマリレは顔を見合わせる。
「話すワケないでしょ?後者ね」
「そうね。死ぬほどイラつかせてアゲルわ」
「やって」
いきなり氷水に顔を突っ込まれるマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ジリン・グレジの死体の横で彼女のPCを開く。
「ミユリさん。請求書の口座番号」
「読み上げます、テリィ様…5892-639-1199」
「ジリンの母親の旧姓を答えればパスワードを教えてくれるって」
ミユリさんは、アキバ上空3万6000kmに浮かぶコンピューター衛星と通信回路を開く。
「"シドレ"。ジリンの母親の旧姓ナンだけど、わかる?急いでルンだけど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
手下メイド2人がマリレの頭を氷水の中に突っ込む。髪を鷲掴みにされソレを見させられるエアリ。
氷水から出されるマリレ。
「…良い?このクソメイド。私はスイスのカトリック寄宿学校で、こんなのは慣れっこなの」
再び氷水に頭を突っ込まれるw
「死ね!ハルロ・クウド!」
「スーパーヒロインが強がるのは最初だけ。コレは氷水。氷水が肺に入ると、肺は焼けるように苦しいけど、気絶が出来ないの。だから、地獄の苦しみを味わう。さぁ何を知ってるの?とっとと話して」
エアリは答えない。もがくマリレを直視。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ジリンのPCに"descent activity"の文字が明滅。
「ジリンが最後にかけた電話番号ですね?ソレが恐らくハロル・クウドだわ」
「多分コレだ。"シドレ"。GPS追跡をリクエスト。917-555-0176…我ながら御手柄だな」
「参りましょう」
念のためにPC片手に飛び出す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
物陰から狙撃用暗視スコープで覗く。十字線の中にふわふわフリルのヤタラ大柄なビラ配りメイドだw
「見張りです。警察は近づけません。下手なコトをすれば、地下室のエアリとマリレは即座に殺されます。テリィ様、アイディア募集中ですが?」
「わかった。任せとけ…ってか、ミユリさんに一肌脱いでもらうけど」
「喜んで」
階段の上でビラを鷲掴みに持ってる大柄メイドに向け、酔っ払ったメイドと御主人様がフラフラ接近。
「きゃはは。いやん、御主人様。ばか」
「こら、メイド長。悪い子だ」
「貴女達…」
僕にしがみつくように、ヨロけるムーンライトセレナーダー。嬌声。大柄メイドが階段を降りて来る。
「怪しまれてます」
ミユリさんは、片手をソッと背中に回し恐らく音波銃を抜く仕草。僕は、彼女を抱き寄せ、突然キス!
ふと立ち止まる用心棒メイド。
僕が唇を離すと、暫しキョトンとしたムーンライトセレナーダーだが、今度は自ら求めて激しいキスw
「あらあら」
求め合う激しいキスに、思わズ苦笑し背中を向ける用心棒メイド。次の瞬間ローリングソバット一閃!
「グエッ!」
1発で蹴り倒されるw
「いやぁスゴかったなぁ」
「久しぶりにプロレス技を出してみました」
「え。さっきのキスだょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
氷水の中で喘ぐマリレ。叫ぶエアリ。
「わかった!もう限界ょヤメて!」
「…エアリ、話しちゃダメ」
「マリレ、ごめんね。悪いけど、もう見てられないの。OK?もう何もかもバレてる。アンタのママはウチの執事とヤッてるわ」
舌打ちするハロル・クウド。
「膝を撃って」
「ヤメて!」
「ぎゃ!」
手下メイドが、マリレをイスごと推し倒し、音波銃で膝を撃ち抜こうとした瞬間、血しぶきを上げる。
「ヲタッキーズ、伏せて!」
もんどり打って倒れる手下メイド。音波銃を乱射しながら階段を駆け降りる僕達。残った手下が応射w
「くらえ」
傍らの軽機関銃で撃ちまくる手下メイド2。
「テリィ様、軽機を潰して」
「ROG」
「ooh NO! jap grenade launcher!」
僕の擲弾筒で手下メイド2が吹っ飛ぶ。残ったクウドはサイレンサー付き短機関銃を撃ちまくる。
暗示装置付きで弾丸も豊富だ。物陰に隠れたムーンライトセレナーダーをスコープに収め引鉄を…
「ミユリさん、危ない!」
その瞬間、ムーンライトセレナーダーは、スコープ越しにクウドを睨む。同時に僕が飛び掛かる!
床に押し倒したら、偶然にマウントが取れて、何発も何発も必死で殴りつけたらクウドは血塗れw
気を失いピクつくハロル・クウド。
「大丈夫ですか、テリィ様」
「う、うん。何とか」
「メイドを殴る御主人様、最低」
そ、そーかw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
眼鏡のナイ視野に、遠く緑と赤のパトカーのランプが丸いぼんぼりになって明滅してる。
万世橋と共に駆けつけた神田消防の救急隊員に、僕は血まみれの手に包帯を巻かれてる。
「痛い」
キツ過ぎる。もう1回包帯を解き自分で巻き直す。
「どうですか?スーパーヒーロー様」
救急車の対面に座るミユリさん。
「手は痛みますか」
「激痛だね」
「私が巻きます」
変身を解いたミユリさんが優しく包帯を巻き直す。
「エアリとマリレは?」
「軽い低体温症と傷ついたプライドで苦しんでます…ありがとうございます。私も守ってくださいました」
「そりゃ守るさ。推しナンだから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隅田リバー沿い。蔵前橋重刑務所。
「歩け」
面会室に入るハロル・クウド。警官が2人つく。面会人は…ラギィ1人。粗末なテーブルに座っている。
「ハロル・クウドが本名のハズがナイわね。誰が依頼したの?」
視線をずらさズ一言も発しないハロル・クウド。
「何人もココに収監した。恨んでる囚人もいるけど、私と取引したがる囚人もいる。彼等は、貴女に会いに来るカモしれない。"クリスマスキャロル"のジェイコブ・マーレイのように。そして、貴女は気がつくと生まれ変わってるカモしれないわね。私は、また来週会いに来るわ。来週も、その次の週も。貴女が生まれ変わって、誰に依頼されたかを話すまで」
立ち上がるラギィ。一言も発さズに、ハロル・クウドを見下ろす。静かに睨み返すハロル・クウド。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"悪徳警官"をテーマに、元スーパーヒロインの悪徳婦警、スーパーヒロイン専門の殺し屋、シンジケートの元締め、潜入捜査官、役に立たない用心棒メイド達、"神々"と呼ばれる謎の集団、12年前の殺人事件を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、敏腕警部"新橋鮫"の母親殺しに関わる巨大な影などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインバウンドの家族旅行のメッカとなった秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。