3—2
――父上が静観してる。
どう考えてもそうとしか考えられなかった。
だってオレが知る限り、あの2人は互いを欺き切れたことがない。知らないふりをしていることはあるけれど、必ずどこかで企みに気づいていた。
なら、今回だって。
例外があると思えるほどオレの頭は楽観的になれない。
「トーレ様。もし、もしもですよ、そうだとすれば……」
レストはオレたち以外誰もいない部屋をキョロキョロと見渡して小声で喋る。
こんなこと誰にも知られない方がいいわけだし、その方がいい。
カトレア母様のやってることを父上が静観しているというのなら、それはアインス兄様を王太子にする気がないとも言える。
だとすれば、フィーラに継がせるとか?
アルク兄様が無理なら、同じ正妃の子のフィーラにってこともあるか。フィーラはちょっと頭は弱いけど健康には変わりないから。
いや、それはないな。
あの合理主義者がそんなことやるわけないっていうか、仕事と割り切って考えれば父上が選ぶのは1番まともな子を王太子にするはずだし。
なんにせよ父上にとってのオレたちは全員愛すべき妻の子供であって、そこに順位なんてないのは知ってる。
誰か1人選べって言われたら一生答えが出ないと言えるほどに。
「で、でも、もしかするとアインス様への試練ということは……ない、ですよね。すみません」
「その可能性については消さずにいたいけど……」
だんだんと声を小さくするレストの発言については、オレもそうと思いたい。だけど、オレが未然に防ごうとしてるあたり、ちょっとばかり無理があるわけで。
あー、もう。ここでレストと話してたってラチがあかねぇ。
ここはいっそ――。
「直接聞いてくるわ」
「え、あ、と、トーレ様⁈」
何を言ってるんだって顔をレストにされてるけど、ハッキリさせるべきだろ。
「だって、このままだとオレに回ってくるじゃん。やだよ、オレはアインス兄様が相応しいって思ってんだから」
オレは怯えるレストを連れて父上の元に向かった。
レストを連れてくのは、単純に1人じゃ怖いのと、レストはオレの共犯者みたいなもんだからだ。けっこう振り回してるからな、レストのことは。
「おや、トーレ様。どうかされましたか?」
「ちょっと、父上に用があるんだけど」
オレにしがみついてるレストのことは無視して、対応に出たフェリクスはオレが父上に用があるということに珍しそうにしながらも今ならあると父上に会わせてくれた。
ま、いつもはフェリクスに用があることが多いから、変な顔されるのも仕方ないけど。
「トーレか。お前が来るのは珍しい、どうした?」
「ん、ちょっとさ聞きたいことがあるんだよね。父上に、さ」
あー、緊張する。
オレの言葉を静かに待つ父上を前に、オレは一度深呼吸をしてからスゥと息を吸って声を出す。
「父上は、カトレア母様がアインス兄様を妨害していることを知ってますよね。その上で静観してる」
「そのことか」
仕事中の、王という立場の父上の前にいると恐怖もある。だけど、ここで引き下がるわけにもいかない。理由を知るためにここに来たんだから。
「なぜ、父上が静観なさるのか聞きたくここに参りました」
カトレア母様がアインス兄様になにかをする前に父上なら防ぐことは出来るはずだし、兄様の体調がすぐに良くなるのはわかっててオレに代理をさせてるわけで。
これじゃまるでカトレア母様のことを応援してるみたいな。
「静観しているのは口を出すつもりがないからだ」
「なんでっ、兄様が下剤盛られて苦しんでるのに放置を――」
人に知られるべきではない話をはっきりと口にしてしまったと気づいたオレはそこで言うのをやめた。
レストは初めから部屋の隅で微動だにしない。聞こえないふりは得意だしな。
「カトレアなら加減を間違えることもない。大事をとってアインスは休ませているだろう」
「いや、だからって――」
父上に詰め寄ろうとしたけどこれ以上は何もないと父上の意向を汲んだフェリクスに追い出された。
「追い出されちゃいましたね」
「ああ、そうだな」
一度部屋に戻るとレストは自分の仕事に戻り、オレは1人あれこれと思考を巡らせる。
父上の考えについてはオレには想像がつかないから、とりあえずアインス兄様に下剤を仕込む方法を考えてみる。
可能性が高いのは専属の使用人に薬を入れさせることだけど、バレたら真っ先に疑われる人間にカトレア母様がさせるとは思えないし。同じ理由でコックたちもない。
それに人目が多いわけだから、やるにしても全員グルじゃなきゃ相当難しいはずだ。
なら、疑われにくい人物はどうだ?
例えば、カトレア母様本人とか。
だとしたら、試さずにアインス兄様に使うわけもないから誰で試すはず。でも、周りで腹を壊したやつは聞いたことがないんだよな。
つーか、カトレア母様だとタイミングがなぁ。
毎回応援に行ってるらしいイクル母様とか、良く差し入れしてくれるミア母様なら出来るかもしれないけど。
「そういや、イクル母様って薬学のけ……んきゅうしてたよな」
いやいやいやいや、それはないだろ。
そうするとイクル母様も知ってたことになる上、実の息子に対して毒を盛ったってことになるし。
いくら安全性があるからって、そんなことする人だと思わない、いや思いたくない。
だけど、人目につかずに堂々出来るのは母様たちなんだよなぁ。
父上の目的も分かんないけど、もしそうだとすれば母様たちが全員知っててもおかしくない、のか?