3—1 湧き上がった不穏な空気
澄み切った青空、わずかに冷たい優しい風。
まるで予測されていたかのようなピクニック日和の今日は、城内でお手軽ピクニックの日だ。
この前父上にバレずに城に出る手伝いの対価として、父上を説得したあの時のやつだ。
家族全員の予定を揃えるのと、父上が完全に1日休みを作るため少々時間がかかってこの日になった。
いい天気に恵まれた今日、虚弱のアルク兄様の体調もすこぶる良くて、それがオレには嬉しかった。
せっかくなら思い切り楽しめた方がいいからな。
まずはサンドイッチ作り。
コックたちに材料だけ用意してもらって、オレたちは挟むだけ。
各々好きなものを挟んで作るわけだけど、色々用意してくれてるみたいでかなり悩む。野菜とか肉の定番から、ホイップクリームとか果物とかの甘い系も揃ってる。
ま、とりあえず今日みたいな日は自分の好きなものをだけを挟むに限る。1日くらいで何か変わるわけじゃないだろ。
「お野菜もちゃんと入れるんですよ〜」
「好きなものだけじゃなくて、バランス良くね」
ああ、やっぱりそう言うよな。
それ聞いてフェムは2つめのサンドイッチに野菜を挟み始める。でも、苦手だからか苦い顔をしてるが。
他のみんなはどんな感じだ?
フィーラは好きなものばっか入れてるけど、全部食えんのか。まぁ、余っても父上が食べてくれるだろうしいいか。放っておこう。
父上はもうすでに自分のを作り終えていて、今はオレたちはカメラを向けて写真を撮っている。
ただし、イベント一回につき使えるフィルムは一本と決められているので9割がた心のフィルムに焼き付けてるが。
母様たちはリウを交代で見ながら一緒に作ってるし、母様同士の仲が良いのはいいことだ。オレも殺伐した家族は嫌だし。
で、アインス兄様はサンドイッチの見本品みたいなのを作ってらっしゃると。
自分の好みよりで作らずにバランスよく。オレたち弟妹の手本になるべくってところかな。こんな時でも手を抜かないのはすごいと思う。
オレは小さく切ってもらったパンを片手に持ったまま、まだ1つも作れていないアルク兄様に話しかける。
「こんなにあると悩みますよね、アルク兄様」
「そうだね。あまり食べられないから余計に」
食が細いアルク兄様はオレやアインス兄様ほど量が食べられないから、厳選に厳選を重ねる必要がある。
「兄様、これをどうぞ。食べたいのが多すぎて小さくしてもらいました」
挟んでから切るのか普通なんだろうけど、そうすると同じのを食べる必要があるから先にパンを切ってもらった。
せっかくなら種類を多く食べたいし、これならアルク兄様も少しはいろんなの食べられるよな。
「ありがとう、トーレ」
「楽しい日にしたいですからね。手伝います」
アルク兄様の食材選びとか挟むのとか手伝いながら、オレも自分のを作る。
フルーツサンドとかは滅多に出てこないし、町で見てからずっと気になってたからそれを多めに作った。
知った経緯を素直に喋るわけにいかないからねだりにくいんだよなぁ。使用人に聞いたってのもしょっちゅう使うわけにいかないからあんまり使える手じゃないし。
サンドイッチ作りを終えると庭に出るために軽く着替えをしてから、少し歩いて第3ガーデンに向かった。数人の使用人とカメラマンと一緒に。
座るためにシートを地面に敷いて、昼食にはまだ時間があるからオレとアインス兄様と父上はフィーラたちに付き合って一緒に遊ぶ。
フィーラとフェムは体力バカのアインス兄様と父上が相手をする。オレはリウが危なくないように見守りながら一緒に遊んでいた。
母様たちはシートの上に座ってゆっくりと過ごしている。
話好きっつーか、まぁ集まればこうしてよく話をしてる。ステラ母様は基本聞き役が多いけど、今日はいつもと違って会話もしてるっぽい。
ゆっくりとしてるのはアルク兄様も一緒だ。こっちは、はしゃぎすぎて熱出して寝込むみたいなことになると困るし。
あ、でもリウとのキャッチボールはしたけど。投げるって言うよりコロコロと転がすだけで動き回らないから。
遊びまわっていい感じに腹が減ってきたら、いよいよ昼食タイム。
各自、作ったのを広げて一緒に食べる。
その後はまたフィーラたちと遊んだり、リウが寝たからその寝顔を覗き込んだりしながら夕暮れまで外にいた。
ただ家族で喋りながらの楽しい一日といっても、カメラは意識してないとならない。
今日みたいに家族が仲良くしているところは新聞に載せられる。そのためにカメラマンも同行してて、王や王子として世間に見せる姿なわけであまりグダッとするわけいかないのだ。
出来るなら草の上に寝込んで寝てたいけど、そうもいかない。
後日、販売された新聞に載せられた写真は、父上と食べきれないサンドイッチを渡すフィーラを中心にして、右側ではリウが母様たちに囲まれてはしゃぎ、左奥ではアインス兄様がアルク兄様と談笑、左手前はオレとフェムがサンドイッチに見せあいしているものだ。
「こうして見ると仲は良さそうだよな」
「事実じゃないですか。でも、平和でいいですよね」
1人で茶を飲むのもつまらないと無理やりレストにつき合わさせて、届いたばかりの新聞を机に広げて写真を見ながら会話をする。
「隣国ではご兄弟どちらを王太子にするかで争いになっていると聞きますから」
「父上がいるこの国で起きるわけもな……」
ない。そう、ないはずだ。
そんなことを言い切れるほどにはこの国は平和で、家族仲だって周囲に羨ましがられるほどだ。
なんで今更気付くんだよ、オレは。
もしもなんてことはない。カトレア母様の妨害をあの父上が知らないはずがないんだよ。
オレでさえ気がついたことに父上が気がつかないはずもなくて。それなら、とっくの昔に知ってたってことになる。
「トーレ様?」
「……なんでも」
行き着いた答えにオレはカップの水面を見つめて、レストに確かめるように問いかけた。
今浮かんだ疑問を気のせいだと思いたくて。
「なぁ、レスト。父上はアインス兄様に継がせる気、あるのかな」
目の前のレストはいつもならさせないようなカチャリと大きな音を立てカップを置いた。