2—1 家族仲はいい方です
兄弟の順番はアインス、アルク、トーレ、フィーラ、フェム、リウの順です。
継承順は多少前後します。
正妃はミア、側妃はイクル、カトレア、ステラになります。
今日は絶好の昼寝日和だ。
こんな日は庭で昼寝に限るよな〜。
――コンコン。
ったく、誰だよ。
手鼻を挫くノックの音。全くいい予感がしないが。
「どーぞ」
開けに行くのも面倒だ。勝手に入ってくればいいよ。ここに来るやつは限られてんだ。
「失礼します、トーレ様。お客様です」
「お兄さま」
「兄さま」
レストの背後からひょこっと顔を出したのは腹違い妹のフィーラと弟のフェムだ。
客人ってのはこの2人のことらしい。
この2人は産まれたのがほとんど変わらないせいか双子のように育っていてよく一緒にいるのを城内でも目撃されている。
正妃と側妃の子が争いもなく仲良くしているのはいいことなので、オレとしても嬉しい限りだ。殺伐とした家族はイヤだから。
ちなみに、アルク兄様とフィーラが正妃であるミア母様の子で、先日腹を下したアインス兄様とフェムが側妃その1のイクル母様の子だ。
あとは数年前に嫁いできた側妃その3のステラ母様がいて、末っ子になる妹のリウがいる。
父1人、母4人、子供6人の総勢11人がオレの家族だ。
「「お願いがあるの」」
打ち合わせもなしに息ぴったりに合わせてみせたフィーラとフェムはやはり双子のようにしか見えない。
2人とも父親似だから余計に。
「お願い?」
「そーなの、もうすぐアインス兄さまとステラ母様の誕生日でしょ」
「内緒でプレゼント買いに行きたいけど……」
「「父さまが許してくれないの」」
ああ、そーいう。
この2人に城を抜け出すって考えはないんだろうな。いや、そこまでやんちゃじゃないから実行には移せないだろう。
あ、でも塞がれてるかあの道は。
しっかし、護衛ありきの外出許可すら出さないとは過保護極まれりだな。
お願い光線×3が飛んでくる。
つーか、レストまでやるなよ。お前は違うだろ。
よし、可愛い弟妹の頼みだ。やってやろうじゃん。
「それは兄様がなんとかする」
「「出来るの?」」
「ああ」
手を回してギリ回れるのどれくらいだ。ま、あとは協力者次第か。
オレは指を3つ立てて、フィーラとフェムに言う。
「ただし、行けるのは3つだけだ。行くまでに相談して決めとけよ」
「「はーい」」
オレは2人を送り出してからレストに協力者に関して指示を出すと、1番厄介で力になるはずの協力者のもとへ向かうことにした。
「お待ちしておりました。トーレ王子」
部屋に入るなりそんな歓迎を受けた。
オレの向かった先は父上の側近として働くフェリクスのところだ。あの傑物陛下がずっとそばに置いているあたりからその優秀さは察してもらえると思う。
「可愛い弟妹が外出を出来るように、有能で敏腕なこのフェリクスさんに力を貸してもらいたいということですよね?」
「そーいうことだな」
フィーラとフェムが父上に言いにいってるはずだから知っててもおかしくはないし、話が早く進むからありがたい。
と、ここまでオーケー。問題はここからだ。
「確かに私であれば3時間程度ならごまかせるでしょうか。カトレア様のご協力があれば2倍ほど、他の皆様のご協力で最大8時間近くといったところですね」
「じゅーぶん。頼めるか」
さすがフェリクス。オレ1人で出ていくのと違って2人を連れてくとなると事前準備も大切だ。
「手をお貸ししたい気持ちはあるのですが、現在厄介な仕事を陛下から頼まれておりまして、そちらに手が回りそうもないんですよねぇ」
きた。
タダで頼まれないのがフェリクス。だから厄介なんだよ。絶対に対価を要求してくるから。
「ですので、トーレ王子の手をお貸し頂ければ時間も作れそうなのですがお願いできますでしょうか」
「それ、オレにも出来ること?」
「もちろんです。むしろ、ご家族をよく知るトーレ王子にしか出来ないと言っても過言でないと思いますよ」
調子のいいことを言われてる気もするけど、フィーラたちにどうにかするって言った手前やるしかないよな。
「で、その厄介な仕事って?」
「陛下はご家族の親睦を深めるため計画を立ていらっしゃるのですが、その問題が解決出来ればと」
ああ、いつものあれか。
年に数回、家族に父上はそういうことをやる。
それ自体はいいことだし、わざわざオレたちのために時間を作ってくれるわけだから嬉しくは思う。
ただ、これが国で1番重要なことだと議題に父上が持ち込んだと知った日にゃ唖然としたね。なにやってんだ、クソ親父って。
それはともかく出来そうなことで安心だな。
「では、参りましょうか」
「え、今すぐ?」
「はい、今すぐです。私では応じて頂けてないので」
首根っこをフェリクスに掴まれたオレはすぐさま父上のところへ運ばれた。
あ、これマジで困ってるやつだ。そういや前に仕事が滞るってカトレア母様が愚痴ってたな。
「陛下、この間の件ですがトーレ王子にご意見頂くのはどうでしょうか」
「トーレなら任せられるか」
そう言って父上は執務中の机から1つの紙の束を取り出すとオレに渡してくる。
家族の親睦を深めるための計画書だ。
「………………………」
これが読み終えたオレの感想。そうだな、言葉にしろっていうなら――。
「どうだ、いい出来だと思うのだが」
「これは一体どこの兵の訓練ですかっ⁉︎」
オレは手にしたままの計画書をパシコンッと叩いて突っ込んだ。
「む、そうか?」
「ええ、そうです」
最高の出来だと思っている父上には悪いけど、無理だ。これは絶対に無理だ。
あなたと同じ能力をこちらに求めないで頂きたい。
ハイキング自体はいい。
その道中がいかれてるとしか思えない。
なんせ、平原を数キロ、手付かずの険しい山道、そして、水の流れが速い川の上を渡って野生動物溢れる森を通り城に戻る。
つーか、この計画書の参考地図が兵の訓練用のやつだし。
「オレたちのことを考えて下さるのは大変嬉しく思いますが……」
ここでオレは息をすぅと吸い込むと一息に言い切る。
「アインス兄様であればいざ知らず箱入り娘に運動オンチ、虚弱に幼い子供たちとヘタレにはすぐリタイア必至です!」
そう、特別なのは血筋とか立場だけで他はごくごく普通の人間なわけで、父上の計画に付き合えるほどの体力はない。
「それなら、どうすれば?」
ここで重要なのは、フェリクスの頼みがこの問題を解決することということだ。口出しだけで終わりってわけにいかない。
つまり父上の納得出来るだけの案を出して、最終決定権のあるフェリクスの合格を貰う必要がある。
父上は子煩悩で愛妻家ではある、のだと思
う。
ただ、なぜか仕事を一歩離れるとこうして天然を発揮する。だからこういう話の最終決定権はフェリクスが持っている。なのでフェリクスから許可を貰わなければ開催は出来ない。ちなみにこれ、妻たちの総意である。
家族全員でとなると、1番の弱者かもしくは最年少のリウに合わせたものがベストだ。
それにわざわざ遠くに行かなくたっていいんだ。いつもとちょっと違うことをやるだけだって思い出になる。
「城の庭でピクニックもいいとオレは思いますけど」
「しかし、それでは……」
「アルク兄様のこともありますし、3歳児が途中で寝てしまったとしても母様たちが楽ですし」
あと一押し、何かないか。
フェリクス、はオレの話に頷いてるけど手伝う気はなさそうだって、なんだ?
右腕を曲げて、左手で右腕の下の……蓋を開け、た?
あー、一応手はこれにも貸してくれるわけか。
ピクニックって言えば、そうだな。
つーかフェリクスはパントマイムも上手いのな。幻覚が見えた。
「特別なことが必要なら、自分たちでサンドイッチを作るのはどうでしょうか。挟むだけなら包丁も火も使わないので父上も安心出来るのでは?」
材料だけ用意してもらって挟むだけにしておけばリウでも出来るだろうし。
母様たちから好き嫌いはしちゃダメとか言われそうだけど、好きなものだけが食べられるってのもたまにはいいよな?
「陛下。トーレ王子のご提案であれば、皆様無理なく楽しめるかと」
「フェリクスとトーレに言われてはな。フェリクス、後で資料の用意を」
「必要ございませんので致しかねます」
ぴしゃりと父上のことを一蹴したフェリクスは、大量の紙の束を机上に置いてさっさと片付けて下さいと取りつく島もない。
「トーレ王子、ありがとうございます。このお礼は後日」
取引成功!!
あとはレストの報告を聞くだけだな。