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王位なんて遠慮します  作者: メグル
トーレと日常あれやこれ
19/19

フェリクス 結局謎のひと

「お待たせいたしました。みんな大好きフェリクスさんもやっちゃいますよ」


「いや、お前は呼んでないんだけど。ま、いいか」


「フェリクスさんが国民投票1位になってみせます」


「そんなのやってねぇ!」

 廊下でコソコソとしているフィーラとフェムがいたので、イタズラでもしようとしてるのかと思ってしばらく眺めてみることにする。


 楽しそうことなら混ぜてもらって、危なそうなら注意して止めるために。

 2人のイタズラなら可愛いものだろうけどな。オレが兄様たちとやったことに比べれば確実に。


 様子を見ていて分かったのは、コソコソしてたのはイタズラのためじゃなくてフェリクスを観察していたらしい。一度はやるんだよなぁ、あれ。


 ま、毎回気づけば背後に回られてたり、行き止まりで見失ったりで結局失敗で終わるんだよな。


 フェリクスといえばおちゃらけた、いや、お茶目というか親しみやすい、うん、まぁそうだなユーモアがあるとでもいえばいいか。

 上の立場にいる人間の堅苦しさや真面目さのようなものが感じられない人で、必要な時に必要なものをすでに用意して待ってるような人物だが、そのプライベートはよく分かってない。


 かなり近い距離にいるはずなのに、オレたちはフェリクスのことをよく知らない。聞いてもいつの間にかフェリクスのペースに巻き込まれてはぐらかされるし。

 反対にフェリクスはオレたちのことをよく知っているが。


 昔、フェリクスの同僚たちにも尋ねたことはあったが、分かるのは恐ろしく有能なことだけで好き嫌いすら分からないと言っていた。

 ただ一つだけ、父上でどこからかスカウトしてきたらしいとは聞いたけど。


 父上に至っては裏切らず仕事が出来る以外に必要なことなどないと言い切り、フェリクスのプライベートについて大して興味もないようだ。


 フェリクスに用があったんだけど、フィーラたちが尾行してるし後にするか。


「その必要はございませんよ。トーレ王子」

「――のわっ‼︎」


 驚くことないはないでしょうとフェリクスは言うが、気配を感じさせずに背後から肩を叩かれ声をかけられたら誰だって驚くと思うが。


「それで、なんの御用でしょうか」

「あ――」

「明日出かけるつもりなので声をかけにきたと」


 分かってるなら最初から聞くなと思うが、これがフェリクスだ。ここで突っ込んでたらきりがないので、ひとまずスルーで。


 お忍びで町に行くにしても最低限フェリクスには伝えておかなきゃならない。それはフェリクスが課したルールだ。

 前に誰も言わずに行こうとしてフェリクスにバレてこっぴどく叱られて以来オレはそのルールを守ることにしている。


 なので、明日行くことを伝える必要があったわけだが、フェリクスはお見通しだったようだ。


「明日なのでしたらフェリクスさんの仕事手伝いません?アイスクリームご馳走しますよ」

「それ絶対割りに合わないやつだろ。断る」


 オレが断ればフェリクスは残念そうにするわけでもなく、冗談ですと言って正当な対価を払うと言う。


「王子にはお見通しでしたか。ま、お給料はしっかりお支払い致しますのでご安心を」

「それなら、やってもいいか」

「ありがとうございます、王子。いつも通りよろしくお願いします」


 いつも通りってことは、いつものお忍びよりいい格好してかないとな。着替え持ってくのは面倒だし上着でどうにかするか。


「わかった。時間は?」

「少々距離がありますので午前9時までに馬車の方へ。それではフェリクスさんはフィーラ王女、フェム王子の前に戻りますので何かございましたら書き置きを部屋に」

「了解」


 つーかやっぱ尾行されてるの気づいてたのか。それで一度2人撒いてオレのとこにきたと。

 わざわざまた尾行させるとかフェリクスは何を思ってるんだろうか。


 ☆☆☆


 翌日、オレは朝食を食べ終えると着替えて出掛ける準備に取り掛かり、それらを終えると待ち合わせ場所の馬車に向かった。

 御者もいつもと同じ人なので問題もない。


 時間にはまだ早いのだが、家族にばったり会ったりでもすると誤魔化すのも大変なのでみんなが動き出す前に移動しておく。


 オレが馬車に乗り込んだのを見計らったようにフェリクスがやってくる。いつも絶妙なタイミングでくるのはどうしてだか。実は双子でしたとか言われても納得はするが。


「今日も変装はバッチリですね、王子」

「まぁな。教わったことはしっかり守ってるよ」


 王子と知られないようにするのは、自分の身を守るためにも大事なことだとフェリクスに言われてる。それは忠実に守ることにしているが、フェリクスはお父上のような方でしたら必要もないですがねとからかうように付け足した。


 馬車に揺られながら、フェリクスから今から向かう場所の説明を受けていく。


 今回もフェリクスとは親子の設定で、行くのは取り引きを考えている商会で一度普段の様子を見るための視察ということだ。

 オレは基本喋る必要はないが、必要に応じて適宜演じること。いつも通りだ。


 目的地について御者が馬車の扉を開けると、フェリクスは降りる前にオレに声をかける。


「さ、行きますよ。フェリクスさんの勇姿をご覧あれ」

「さてと、ほどほどに頑張りますか」


 馬車から降りるとオレはフェリクスの息子のフリをする。お忍びの時もそうだがこういう時はトレクと名乗っている。ちなみにフェリクス命名だ。

 フェリクスは毎回名前を変えているが、大体は城の使用人の名前を使っているらしい。いちいち考えるよりもよっぽど現実味があるでしょうとのことだ。


 商会は商会長がかなりのこだわりを持って仕入れ等をやっているようで細々と商売をしてる印象を受けた。ここは従業員たちの教育にも力を入れているようで、たまにある金を落とさなそうな客でもしっかりと対応をしている。

 どうやってこの店を知ったのかは謎だが、フェリクスが取り引きをしたいと言うのも頷ける。父上もきっと気にいるだろう。


「私の方からは以上だが。トレク、何かあるか?」

「急に振らないでくださいよ、父さん。でもそうですね、服飾も扱っているようなので原料、糸などを仕入れて頂くことは可能でしょうか?」


 別人なんじゃと疑ってしまいたくなるくらいに真面目な人間の振りをするフェリクスがオレに聞いでくる。オレは困った振りをしながら、自分の要望を伝えてみた。


「要望に添えないこともございますが、善処致します」

「ありがとうございます」


 よし、これで望んだ色も手に入るかもしれない、何より少量で手に入ればオレの財布にも優しい。


 そうして、視察を終えるとオレはついてくるフェリクスとともに町を見て回るが、疲れただろうから甘いものでも食べに行きましょうとフェリクスに強引に店に連れ込まれる。


「一仕事終えたあとの甘いものは身にしみますねぇ」

「そーだなって、冗談じゃなかったのかよ」


 連れ込まれたのはアイスクリーム屋で、オレは苺とチョコレートの2段アイス、フェリクスは奇抜な味の3段を食べている。

 段数が違うのはオレは夕食が入らなくなると困るからで、フェリクスは戻ったらまた仕事で頭を使うからとのことだ。


フェリクスさん(パパ)からお礼だと思ってください。上品な味も口に合わないわけではないのですが、たまに食べたくなるんですよねぇ」

「そうか」


 その気持ちは分からなくもない。

 ただ、しみじみと言うフェリクスはどこから昔を懐かしんでいる気もした。やっぱ元庶民なのかフェリクスは。


「寄り道も堪能したところで帰りましょうか」


 アイスクリームを食べ終えたオレたちは店を出て馬車のところまで向かうが、その際身なりのせいか柄の悪い男たちに絡まれたのがフェリクスが暴力なしで追い払った。ちなみに男たちは真っ青な顔で走り去って行ったと追記しておく。


 今日こそフェリクスの正体をつかめるんじゃないかとも思ったが、オレは考えるのがバカらしくなってやめた。結局何1つとして正体に迫るものは見つけられなかったし。


 オレにとってはフェリクスは、対価は要求されるけど願いを叶えてくれるちょっと変な人で十分だ。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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