フェム 脱・双子宣言
「えと、頑張るね」
「緊張しなくてもいいぞ。兄様も手を貸すからな」
最近、ほぼ双子のフェムはよく1人でオレのところへ遊びに来ることが増えた。
弟や妹たちに懐かれているのは純粋に嬉しいので遊びに来てくれるのは歓迎だから、ちょっとだけど隠し持ってる菓子も出したりするが、いつもフィーラと2人でいるので珍しいとも思ってしまう。
まぁ、双子だからずっと一緒ってのもおかしなことだし、生まれた時からほぼずっと一緒にいるんだから離れたい時もあるだろう。
双子だとしても全く同じ思考を持つ人間じゃないわけだし、仮に自分がもう1人いたとしてもオレは1人になりたい時もあるとか言って一定の距離は置きたいね。
「今日は何するかな」
外は雨だし、フェムと出来そうなボードゲームも大半やった。トランプは遊びすぎてカードに癖がついてて手の内が読めちゃうし、町で流行ってるカードゲームは枚数が足らなくて遊べない。人気すぎて手に入らないんだよな。
「……あ、あのね、トーレ兄様」
服の裾をギュッと掴んだフェムはちょっとだけ怯えたようにオレを呼ぶ。
「どーした?」
「ぼくね、双子……双子って言われないようにしたいんだ」
急にフェムから脱・双子宣言。
そうか、最近オレのところへよく遊びに来ると思ってたが、それが理由か。というか、いつかは思う日が来るんじゃないかとは思ってが意外と早かったな。
「うん。双子って一括りにされるのが嫌になったか」
「えっとね、そう呼ばれるのは別に、嫌ってわけじゃないんだけど……その、ね」
そう言って言葉が続かないフェムは両手でカップを持ってお茶を飲む。
嫌ってわけでもないけど、そう呼ばれるのは気になるか。ま、今までそう言われるのが当たり前だったわけだし気づかなかったんだろうな。
「この前、フィーラの婚約の話があったでしょ」
「あったな。結局うやむやになったけど」
「それでね、ぼくもしっかりしなきゃって思って。ずっと一緒にはいられないから」
父上が1人で沈んで誰にも相手にされなかった時の話が、こんなところに影響を与えてるとは思いもしなかった。
あの後、カトレア母様に仕事を任せてフィーラの婚約者予定がいる国に父上が行こうとして母様全員とフェリクスに怒られていたと追記しておく。
けどなるほど、それで脱・双子宣言で、オレのところへよく来るのか。
フェムが1人で行動してるの珍しいとか思ってたけどしっかりした理由があったんだな。
「そうだな。作法の勉強なんかもそろそろ分かれてやることになるだろうし」
別々に行動しなくちゃならないことも増えるだろう。男女で振りが違うダンスなんかはその最たる例だ。
「だから、ぼく1人でも頑張れるようになりたいんだ」
「そっかそっか。頑張れよ」
いつもフィーラが先に動いて、フェムが足りないところを補うって感じだからな。2人の性格的にもそれでちょうどよくまとまってたし。
「もし困ったことがあれば相談しろよ。トーレ兄様は割と暇してるからな、いつ来てくれても構わない」
「うん。ありがとう、トーレ兄様」
これもフェムの成長ってことで、出来ることはほとんどないし見守るくらいしか出来ないけど、頑張って欲しいところだな。
もしかするとオレよりフェムの方が立派とかになるかもしれない。そうすればオレも父上たちの期待からも外れて万々歳だ。
と、ここで父上がやってきた。
「トーレ、次回の交流会について相談したいのだが」
「フェリクスがいるじゃないですか」
フェリクスならしっかりと案を出してくれると思うけどなぁ。いやつーか、フェリクスがオレに押し付けたってことだろうと推測はある。この前のがチャラになるならやるけどさ。
「お前の方がいい案が出せると……フェムもいたのか」
「う、うん。父さま」
フェムの存在に気がついた父上はコンマ数秒の思考のあと、さも当然のようにフェムの隣に座り込んだ。
子供たちと一緒にいたいって気持ちは分からなくもないですけど、自重してくれ。フェムは少しどうしていいか戸惑ってるし。
「今日はフ――もがっ」
「父上、今度はどんなこと考えたんですか?」
フィーラと一緒じゃないのかと聞こうとした父上にオレは一口パンを素早く手に持つと父上の口に押し込んだ。
父上たちはフェムのことを知らないはずだから仕方ないんだけど、聞いた手前ちょっとな。いやまぁ父上が知ったら面倒そうだとか思ったりもしたけど。
ひとまずお咎めはなしと、むしろ息子からあーんされたとか感激してるし、ドン引きしたくなるけど気にしたら負けだ、これは。
オレは父上の手から原案であろう紙の束を引き抜くとパラパラとめくった。
うん、前回よりはマシだ。
とはいえ、ツッコミどころはあるし軌道修正は大事なんだけど、せっかく脱・双子宣言してるフェムがいることだし少し任せるかな。
「フェム、これは次の親睦会の内容らしいんだけど、どう思う?」
「え、えっと……」
オレの隣にフェムを移動させて、戸惑いながら原案を受け取ったフェムが読み始める。難しい言葉についてはオレが補足しておいた。
これについてフェムが思ったことはおそらく、ぼくたちのことをなんだと思っているんだろう、だ。
ただ優しすぎるフェムには父上に対してどう伝えるか悩んでいる。家族に優しいけど立派な国王がフェムから見る父上だから、そんな父上に意見をするのも躊躇いが出てくるのも仕方ない。
オレは小声でフェムに話しかける。
「父上の考えたことに口出すのは躊躇するかもしれないが、いいかフェム、ここでオレたちが止めなきゃマジでやらされるからな」
「えと、分かった」
ま、最終決定権を持つフェリクスが許可出さないだろうけどな。今は言わない方がいいだろう。
フェムがコクリと頷く。
オレとしても止めるべきだとは感じているから1人でも止める気ではいるが、やはり他に人がいた方が説得力に差が出るのでフェムにも協力はしてもらいたい。
ツッコミは抑えるようにして、フェムも喋りやすいようにを心掛けることにする。
「オレたちが楽しめるよう企画して下さるのは嬉しいのですが、今回も改善の余地が多くありますね。少々これでは難しすぎるかと」
「あのね、父さま。ぼくもそう思う。父さまが遊んでくれるのはすごく嬉しいけど……」
「ふむ。自信作だったのが、そうか」
今回は森の中で一泊二日のかくれんぼ大会である。いや、マジで何考えてるんだと思うね。
「父上、森っていうと10歳の儀に使うところですよね」
「ああ」
「無理です。あそこは獣も多いですし、迷子常習犯がいるのでやめていただきたい」
うん。イクル母様は城でも迷子になってるから。
オレはまずはそれだけ伝えて、フェムの意見を求めることにする。いつもはフィーラを止めるか賛同するかで自分の意見を言うことはないので、脱・双子の一歩にもなるだろうと。
「もしやるのならフェム、どこがいいと思う?」
「えーと、ぼくなら……お城、お城の中がいいと思う。兄様たちと遊んだこともあるから」
「城の中か。しかし、狭すぎやしないか」
どうしてこうもポンコツになれるのかが不思議でしょうがないが、森ん中でかくれんぼなんて範囲無制限と変わらないから。
しかも、そこで夜を明かすなんて旅行というか、この場合だと追われてるの方がしっくりくるか、そんなんじゃないんだから。
「それでも広すぎるくらいなので、範囲は決めておいた方がいいと思います。使用人たちの仕事の邪魔もしたくないので」
「じ、時間も短くていいと思う……」
「2人にそう言われるとなると、フェリクスの許可は難しいか。練り直しだ」
父上はアドバイス感謝すると言って部屋を出ていくが、机上に出てる菓子に何か言いたげだったので刺繍の習作を使用人渡してお礼にもらったと誤魔化しておく。半分は事実だしいいよな。
「あー、どっと疲れたな。フェム」
「うん。ちょっとだけ」
フェムからするとかなり頑張った方だろう、オレはご褒美として秘蔵のチョコレートを出すことにした。
ま、ご飯前にだしたから悪いことだけどな。




