フィーラ お花畑は妙に鋭い
「兄様と一緒だ!」
「そうだな」
「フェムが隠し事してるみたいなの〜」
朝一でオレのところに来たフィーラはいきなりそう切り出した。
周囲に双子扱いされて育ってきたフィーラにとって、その片割れに隠し事をされるのは嫌なことらしい。
父上や母様を差し置いてオレのとこに相談しにくるのはいかがなものかとも思うのだが、フィーラはオレが適任だと感じたらしい。
相談にこられた手前、オレも何もせずに帰れとは言わないけど親よりも力になれる自信はない。
弟妹よりたかだか5年ほど長く生きてるだけのオレには難しい相談ばっかりだ。
「どうしてそう思ったんだ、フィーラ」
「んー、フェムがおかしい気がするの〜」
言葉で説明するのは難しいと、フィーラの感覚的なものでオレに伝えようとしてくれるのだが、いまいちオレには伝わってこない。
言うなら、女の勘とか双子の勘とかそんな感じなのだろう。
フィーラは感覚的な分、言葉での説明は出来ないが、こうなんか鋭く見抜くこともある。まぁ、本人が説明つかないことだからこっちも気のせいだと誤魔化すことは楽に出来るが、その鋭さはかなりの的中率を誇る。
本人はそのことに気づいていないために見当違いのことを思っているが。
「フェムはフィーラのこと嫌いになっちゃったのかなぁ」
「ケンカしたわけでもないんだろ」
「フィーラ、フェムとケンカしないよ〜。仲良しだもん」
オレも2人が生まれた時から知ってるけどケンカしたところが見たことがない。
仲良しなのもあるだろうけど、2人の性格的にケンカが起こりにくいことも関係してると思う。
「なら、フェムも1人で色々やってみたくなったんじゃないか?」
一応、フェムから他言無用って言われてるから直接的なことは言えないし、遠回しに伝えるくらいしか出来ない。
「そんなことないもん」
即座に否定するフィーラは頬を膨らませる。
ここがフィーラとフェムの認識の違いなんだよな。どうやって説明するするべきか。
説明の仕方を間違えると後々大変なことになるってのは目に見えてるし、フィーラに取っても必要なことなんだよな。
さて、どうするべきかと言葉に悩んでいるとフィーラがオレの方をジッと見てくる。
「トーレ兄様も隠しごとしてる?」
妙に鋭いんだよな、フィーラは。
だけどまぁ、何についてかまでは分かってないから誤魔化しようはいくらでもある。
「ここはトーレ兄様の部屋だぞ、フィーラ。兄様にだって隠しておきたい菓子の1つや2つあるに決まってるだろ」
例えばフィーラが座ってるソファの一部と言って、オレはソファの座席部分を押し上げる。中は空洞になっていて保存のきく菓子なんかが入っている。
ご飯前に腹が減ったときにつまむ、オレの貯蓄だ。食事の時間が近いとご飯まで我慢しなさいって言われるからな。
いくつかの貯蓄をおやつとして出して、話を続ける。
ちょっとくらいの量じゃオレの貯蓄に影響はないからな。他にも隠し場所はあるし。
「フィーラはさ、フェムのことをどう思ってるんだ」
「フェムはね〜、弟なんだよ。フィーラが助けてあげなきゃ」
双子扱いは当然と思いつつもお姉ちゃんのつもりね。確かにフェムは優しい性格のせいか引っ込み思案なとこもあって、フィーラの後ろをついて歩く感じだから大抵一緒にいるフィーラがそう思ってても仕方がない部分もあるか。
「そうか。フィーラ、フェムがフィーラに助けられてばかりは嫌だって思ってたらどうする?」
「うーん、フィーラはね〜」
困り顔、すぐに答えは出せないらしい。
だとしてもオレは手助けすると言った手前フェムの成長というか、決意を放置するわけにもいかないし、フィーラもこのままでいいわけでもないよな。
「これは兄様の想像だけど、最近フェムはオレのことを手伝ってくれるんだよ。きっと、フィーラと並べる、えーと助けられてばかりじゃなくて助けたいと思ってるんじゃないか?」
そう言えば、フィーラはなんとなく納得はしてくれたのでオレは一安心だ。これ以上の説明が思いつかなかったオレにとって非常に助かる。
ひと段落ついたところで、アインス兄様がやって来る。
「トーレ、借りていた本を返しに……フィーラか、珍しい」
「アインス兄様だ〜」
最近、オレとフェムのツーショットが多かったために珍しい組み合わせに映ったんだろうアインス兄様は驚いた顔してる。
フィーラは朝食ぶりのアインス兄様に久しぶり〜とニコニコと手を振っている。
「ありがとうございます。良かったら兄様もお茶飲んでいきませんか、その間に次の巻を用意しますから」
「ふむ、そうだな」
フィーラの隣にアインス兄様が座って、オレはレストを呼んでお茶のおかわりを淹れてもらう。
オレはお菓子のおかわりを戸棚から出して、ついでに口止め料としてレストにも握らせておく。まぁ町で買ってきたものだから高級品じゃないけどな。
「トーレ、いつの間にこんなものを」
「この前、出かけた際に買ってきたんです」
「そうだったか」
アインス兄様にはそう言っておけば問題なし。それに町に出てると知られてもかつての共犯者は黙っててくれるだろうからな。
今でこそ城を抜け出すことのない兄様だけど、数年前まではオレと一緒に抜け出して街に繰り出すこともあった。
名目上はオレ1人で行かせるのは心配だし、民の暮らしぶりを同じ視線から見るってことでそれも本音だろうけど、町に行ってみたかったってのもあったんだろうな。
フェリクスからお小遣いもらったこともあったな。半分は馬車ですぐに帰って来られるようにって理由だったけど。
「アインス兄様も兄様だからしっかりしてるんだよね」
「兄様は兄様だからな。フィーラやトーレたちの手本にならねばならないからな」
唐突なフィーラの言葉に何が言いたいのか分かってなさそうに眉をしかめながら、アインス兄様は真面目にフィーラに返す。
「フィーラも姉様だからしっかりしてるから、アインス兄様と一緒」
「そうだな。フェムやリウからしたら姉様だな」
満足気に笑みを浮かべるフィーラはご機嫌だが、しっかりしてるって部分にはアインス兄様触れないんだな。
しかし、会話が噛み合ってるのか分からないな。すれ違ってる感じもしなくもない。
「アインス兄様、これが続きの巻です」
「ああ、ありがとう」
本棚から取り出した本をアインス兄様の手前の机に置くとフィーラが気になったようで覗き込む。
「なんの本?」
「ああ、これは歴史小説だ。史実に基づいているのだが創作部分もなかなかに面白くてな」
「百年前くらいの話でモデルは何代前だったか、とにかくご先祖がモデルなんだよ、フィーラ」
大した興味はなさそうだが、先祖がモデルってとこには関心があるようだ。
本を手に取ってページをめくりだすフィーラは挿絵のページで手を止める。
「見たことある」
「肖像画が飾ってあるからな。ご先祖様だ」
小説のモデルになったお祖父様の肖像画は家にもいくつか飾ってあるし、コインの裏にも描かれてるから全く見たことがないっていうフィーラが見たことがあると言って安心した。
「でも父さまに似てないね」
「そうだよなぁ。血が繋がってるかって疑いたくなるんだよな、父上に関してだけは」
「疑いたくなる気持ちは分かるが、親子としては似ているところもあったと聞く」
父上が特別似てないだけで歴代国王は大体似てはいる。大抵がヒゲ面のおっさんでいかつい感じなのに、父上は怜悧な顔でぱっと見似てるとは言い難い。
「でもフィーラたちは父さまと似てる」
「そうだな、フィーラ。兄様たちはそっくりだな」
母親が違っててもオレたちは兄弟だと分かるほどには顔は似ていて、フィーラはそれに満足するように頷いた。
それからオレたちはフィーラがお菓子の食べ過ぎで昼食を食べられなくならないように注意をしながら、しばらく雑談するのだった。




