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王位なんて遠慮します  作者: メグル
トーレと日常あれやこれ
13/19

アインス 立派な兄様

「しっかり務めは果たさなくてはな」


「いや、公務じゃないですから力抜いてゆるくいきましょう」



幼少期の話です。


「トーレ様はいらっしゃいますか?」


 オロオロとしたふうにやってきた使用人は決してレストではないのだが、落ち着かない様子で狼狽えながらやってきた。


 大方急いでオレを呼んでこいって言われて焦ったのだろう。焦りは伝播する。


「どうした?」

「えと、はい。アインス王子がですね……」

「兄様ねぇ」


 全く、アインス兄様は。

 時折こうして、オレのところには使用人が駆け込んでくることがある。


 家族のことに関しての苦情やら困りごとやらの相談窓口になってる感は否めないが、ミア母様とオレにはどうやら使用人も言いやすいらしく、自分たちが進言したりが少々難しいときとかはいつもこうだ。


 特にここ最近はミア母様が外交とかで忙しいこともあり、兄弟のことについては基本全てオレに回ってくる。


 イクル母様はこういう時あまり役に立たないし、カトレア母様は危険がないならと放置しかねない。場合によっては徹底的にやらせるとかあるから悪化の可能性も否めない。かといって、ステラ母様だとちょっと止めきれないからだ。


「で、兄様はどこにいる?」

「ありがとうございます。ご案内します」


 面倒だけど請け負いますか。

 放置したら使用人たちに要らない苦労をかけるし、何よりアインス兄様が倒れたーなんてことになりかねない。それは良くないよな。


 道すがらアインス兄様の状況を聞きつつ、オレは急ぐつもりもなくゆっくりと歩く。

 アルク兄様の一大事と比べれば、同じ一大事でもこっちは急ぐ必要もないのだ。使用人は気が気じゃない感じではあったけど。


「アインス様。そろそろお止めになられた方がよろしいのでは?」

「いや、まだだ」


 使用人の制止も聞かず首を横に振ったアインス兄様は弓を構えた。


 オレがやってきたことで、必死にアインス兄様を止めようとしていた使用人がアインス兄様から離れてオレに頭を下げてくる。


「お手数おかけして申し訳ありません、トーレ様」

「いや、構わない。兄様を止めるのは大変だし」


 全く、アインス兄様は。

 真面目なのは長所ではあるんだけど、こういう時は短所にしかならない。


「アインス兄様。何をなさってるんですか」


 オレはアインス兄様が矢を射ったタイミングを見計らって声をかける。さも今来たばかりで何も知らないという体で。


「トーレか。今日の授業で的の中心に当てられなくてな、こうして自主練習をしているところだ」

「さすがアインス兄様。たゆまぬ努力はオレも見習わなければなりませんね。ところで兄様、いつまで続ける予定です?」


 そう、アインス兄様は努力家だ。

 出来ない、苦手なことがあれば、出来るようになるまでこうして何度も何度も練習をする。

 途中で投げ出すことはなく、それ自体はアインス兄様の真っ直ぐな良いところではあるのだが、融通がきかないとも言えるその性格は時として厄介すぎる。


「もちろん、的の中心部に当てられるようになるまでだ」

「そうですか。それで、いつから練習を?」

「昼食後からだ」


 昼食後、ね。

 そういや、昼飯食べ終えたらすぐに出てったなアインス兄様。

 で、今は午後5時近くだったはずだから単純計算して4時間以上やってることになるが、おそらく使用人がオレが呼んだことを考えると――。


「兄様、休憩はされてますか?」

「していないが」

「休憩をなさってはどうです。適度に休むことで上手くいくこともよくあることですから」


 使用人たちもオレの言葉に賛同してくれて納得はしてくれているみたいだが、どうにも止めようとはしない。あと一押しって感じではあるんだけど。


「うーん、でもそうなると困りましたね」


 オレは困ったというふうに息を吐けば、アインス兄様は矢に伸ばしかけた手を止めてオレを見る。


「どうした、何か困りごとか?」

「はい。実はフェリクスから宿題を出されたのですが、オレには難しくアインス兄様に手伝ってもらえたらと思っていたんです」


 これは事実で、時に出されるフェリクスからの無理難題は普段の勉強と違ってかなり苦戦することも多い。

 だからアインス兄様の手を借りれたらとは思っていた。アルク兄様は体調が悪いから頼めないし。


「明日までにやらなくてはならないのですが」


 期限は特に決められていないが嘘も方便。

 アインス兄様を止めるためには必要なのでためらうことはない。


「手伝おう。少し待っていてくれ」

「ありがとうございます、アインス兄様」


 そう言ってアインス兄様は弓矢の片付けをして、夕食後からオレの宿題を手伝ってくれることになった。

 これには使用人たちもホッとした様子だった。


 ☆☆☆


「これがフェリクスから出された問題なんですけど」


 部屋にきてくれたアインス兄様の前にトランプの束をオレは広げる。

 これがフェリクスからの宿題で、カードの一枚一枚に数字も振られているが、中央には数字ではなく文字が複数飛び飛びに書かれている。

 一週間前に出されて考えてはいるのだが未だ答えにたどり着けてない。


「……言葉遊びのようにも見えるが」

「分からないんですよね」


 床にカードを全て並べて見るが、すぐには解決の糸口も見つからない。

 カードを重ねてみたり、文字を組み合わせ単語や文章を作ってみるがそのどれもが答えにならず、時間だけが過ぎていく。


「何か手かがりでもあればいいのだが……。トーレ、どうしてこの問題を出されたんだ?」

「あー、ちょっと町に出たくて、ですね」


 誤魔化すにはちょっと難しいので、オレは躊躇いつつもアインス兄様に正直に話す。

 お忍びで町に行くこと自体がまずやるべきことではないのは重々承知で、怒られるのではないかと思ったがアインス兄様はオレを怒ることはしなかった。


「そうか。それでどこに行くつもりだったんだ?」

「え、あ、刺繍糸とかを自分の目で見たくて。店には作品も飾ってあるという話も聞いたので」


 父上や母様たちに頼めばいいと言いかけて兄様は途中でやめて、おそらくそれがヒントになるとカードを真剣に眺めていく。


「……そう、か」

「分かったんですか?」


 アインス兄様は頷いてカードを並べていく。

 完成したのしばらく眺めてオレもそれが何を表わしていたのかのに気がついた。


 この城の地図だ。

 文字は部屋の頭文字や見張りの居場所で、オレたちの知らない場所がある。つまりこれは城の抜け道が書かれたパズルだったってことだ。


「ありがとうございます、アインス兄様」

「兄様だからな、これくらいは出来なくては。ところでトーレ、1人で行くつもりではないよな」

「お忍びですから、護衛なんてつけられるわけないですよね」


 それを聞いたアインス兄様はオレがフェリクスに問題の答えを伝えに行く際に一緒に行くと言って、翌朝フェリクスのところは2人で向かった。


「おや、意外と早かったですね」

「アインス兄様のおかげで」

「そうでしたか。さすが年長者だけありますね」


 アインス兄様は自慢げに胸を張ったあと、オレと一緒に町に行くと言い出した。


「トーレ1人で行かせるわけにいかない。それに民と同じ目線で物事を見るのは勉強になる」

「ふふ、分かりました。では、町へ向かう際服はお2人分用意しておきますね」


 いくつかの約束事をフェリクスとして、オレたちは2人でこっそりと町に出た。


 初めて自分たちの足で歩く町は珍しいものばかりが溢れていて心が踊った。

 金を騙し取られそうになったりとトラブルにもあったのだが、アインス兄様が気づいて対処をしてくれたため被害は出なかった。


 オレにとってはやはり、頼りになる兄様なのだ。

長男ですが側妃の子なので継承順位は2位。

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