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実りの聖女 ー渡り人の独り言

 やっぱりこうなったかー。

 馬車の外から聞こえてくる罵声に私、カオルは重い息を吐いた。


 私は十年前にいきなりこの世界にやって来た。召喚とかそんなんじゃない。スマホしながら歩いていたら、気がついたら知らない世界。

 まあ、びっくりして最初パニクったけど。

 けどこれって、あれじゃん。スマホで幾つか読んだことあるし、聞いたこともある。まあ、物語の中だけと思ってたけどさー。ほんとにあるんだね、異世界転移って。

 じゃあさ、私ってば、主人公、ヒ・ロ・イ・ンってヤツ?

 イケメン、ザクザク? ザクザクじゃないかー、イケメンホイホイ? 超モテ期?

 じゃあ、狙うのは最高峰、なんてね。


 日本ではあり得ない色彩の人に会って、城につれて行かれた。

 王さまって、王さまって、やっぱりこんな感じ? ディ●ニーによく出でくるチビでデブの王さま。なんでこんなんから、八頭身の超イケメンの王子(むすこ)がいるのか、ちょー不思議。

 ヒーローの王子さま、もちろんいたよ。それも二人も。


 第一王子、兄王子のほうはね、キリとした武道派美男。腰に剣ぶら下げてて、その格好がとっても似合う。とても強そうだし。鳶色の髪にブルーの瞳でちょっと睨むような目付きが堪らない。けどねー、既婚者なんた。赤ちゃん、いるんだって。ヤンデレで溺愛系だと思ったのに残念。私より一つ上でちょうどいいのに。


 第二王子、弟王子は可愛い系。金髪の兄王子と同じブルーの瞳。剣持っててもねー、使うというより飾り? 守ってもらうタイプ。私より四つしたの十七歳。婚約者いるんだってー。なら、メイン攻略対象者だよねー。けど、年下かー。たしかに可愛いけど…、ちょとないかな。弟王子はやっぱ弟くんだね。


 で、眼鏡かけた冷酷そうな宰相(おっさん)が色々説明してくれた。インテリ眼鏡イケメンって攻略対象者にいるよね? 宰相さんに聞いたら、兄王子の側近に息子がいるんだって。じゃあ、攻略対象者は兄王子? 子供いないんだったら略奪愛…? ムリ! ドロドロ嫌い。


 ふーん、渡り人、私みたいな人は希にいるんだって。界と界の隙間に偶然入り込んでこの世界に来ちゃう人が。で、偶然、帰る人もいるらしい。けど、元の世界に戻ったのかは分からないんだって。

 渡り人は、恵みをもたらすことが多いらしい。つまり異世界の知識や技術をこっちの世界で披露とびっくりされて便利だと重宝されるってこと?

 私? ムリムリムリ。なんにも出来ないよー。前に来た渡り人がけっこう教えてったみたいで、この世界、算数もバッチしだし。掛け算、割り算、表計算にグラフ、異世界では使われていなくて、物語(はなし)では『おおー』て感じが多いのに。

 たまに癒しの力とか、魔法とか持った渡り人もいるみたい。元の世界では使えなかったけど、異世界に来たら使えるようになったとか。そんな才能、なかったわー。ほんとになーんにも。だから、どうやってこの世界で生きようと思っていた時だった。


『実りの聖女』

 なんなの! その中二病みたいな名前。

 えっ? 私のこと?

 この国、私が来た年からいきなり豊作なんだって。それまで、ずっと収穫量が少なかったんだって。

 へー、そうなの。聖女がいるといないでは、他国との外交が変わってくるんだって。

 けどなー、たぶん…、だけど、私、聖女じゃないよ。ほら、手を翳しても植物育たないし。鉢植え育てててもみんなと同じだったし。

 うん、やっぱり聖女じゃないよ、私は普通の人だよ。


 兄王子から釘を刺された。弟王子の婚約者さんたちが研究してるんだって、収穫量が増えるように種や薬を。この国の作物は病気になりやすく、それで収穫量が少ないんだって。で、弟王子の婚約者の薬を一昨年から試してるんだって。豊作はその成果らしい。

 そうだよねー、やっぱりそうだよねー。役立たずだから何かあったらなーと思ったけど…、地道にいくしかないか。


 でも、あのチビでデブな王さまは私のおかげだと。薬は一昨年成果出なくて、今年は薬使って無いんだって。

 けど、去年は薬を使ってるんでしょ。今年の豊作も薬が残ってたかもしれないじゃん。鉢植えのも普通なんだし、その恥ずかしい中二病の名前、止めようよ。

 ちょっと待って! えー、公表しちゃったの。知らないよー。


 あー、面倒。色んな人から弟王子、勧められるようになっちゃった。聖女と王族の結婚、当たり前なんだってー。

 そう言われてもね、婚約者さんにむっちゃ()()()()()()()()()()()()んですけどー。そして、見事にスルーされてるだけどね。それがメチャ笑える。

 だからねー、おねえちゃん、見てるだけでいいんだわ。弟王子の必死さと、カタツムリより遅い婚約者さんの歩みよりを。

 頑張れ! 鈍感! と突っ込みしながら見てるのが楽しいから、ほっといてくれないかなー。お一人様で生きる気十分あるから。


 お茶会があった。

 兄王子も弟王子もちょうどいなくて…。

 どうも私のお茶に毒が入っていたみたいで…。

 婚約者さんが解毒剤作って助けてくれたけど…。

 犯人が何故か婚約者さんとなってしまったようで…。

 目を覚ました時には、婚約者さんは『実りの聖女』を殺そうとした犯人として捕まってました。

 兄王子がもっと調べるように王さまに言ったそうだけどねー、王さま、聞く耳持たず。終いには兄王子の関与を疑ったらしい。


 私もねー、冤罪だと思うよ。だってねー、婚約者さん、しそうにないもん。植物の毒と聞いたから余計に。婚約者さん、植物オタクで弟王子より植物が好き。その植物で人殺す? そーゆー趣味あるのなら、毒と分からない毒を使うと思うよ。植物オタクだからそーゆーの知ってると思うし。

 それに これ 私の死亡フラグぽくない? だから、回避に走ってみた。

『聖女はお優しい』

 はい、終了。私の株が上がっただけでした。死亡フラグ立ったよ、きっと。


 婚約者さんに助けてくれたお礼を言いたかったけど、会わせてもらえなかった。犯人とされた婚約者さんは護送車(檻が荷台になっている馬車)で、市中引き回しならぬ王都引き回しされていた。石を投げられまくったんだろうね、血塗れのボロボロでした。直視できないくらい。手当てもしてもらえなかったみたい。

 弟王子が帰ってきたタイミングでボロボロの婚約者さんはギロチン処刑。弟王子、茫然自失状態になっていた。

 私は心の中で二人に謝った。私がこの世界に来なかったら…。


 婚約者さんの冤罪を最後まで訴えていた兄王子、第一王子は臣籍降下させられた。公爵・侯爵をすっとばして高位貴族の中で最下位の伯爵として、一番大変な土地を任された。まあ、煩いから権力奪って追い払ったってワケだね。

 一時期、不穏な噂も不穏な動きもあったけど、宰相さんが頑張ったみたい。宰相さんの娘さん、兄王子の奥さんなんだって。宰相さんも出来た人だなー。ほんとは自分が一番悔しいだろうに。

 けど、なんかあったら宰相さんを頼ろう。公平なアドバイスが貰えそうだ。


 あれよ、これよで、王太子になった弟王子と婚約、婚姻。外面は仲良し夫婦。うーん、恨んでるはずなのに弟王子、優しい。うん、夫婦らしくしてくれたよ。目が死んでる時が多いのは隠せてなかったけど。時々黒く剣が汚れているのも隠せてないよー。そういう日は、どこそれで惨殺死体が発見(でた)と聞く。まあ、殺されて当たり前のヤツラだったけど。


 せっかくなんで、私、悪女らしく散財させてもらった。宝飾品を買いまくって飽きたと言って宰相さんにポイ。宰相さんに処分させて、また新しいのを買う。国庫を揺るがすほど買わせた。そうしないと、国王、何の準備か知らないけど武器買うんだよねー。武器買うよりもっと買わなきゃいけないモノあるだろうに。まあ、宝石買ってる私か言えることじゃないけどさー。


 婚約者さんが死んでから七年目、私がこの世界に来て九年目、偽聖女として噂が立ち始めた。収穫量がねー、下がったまま。まったく上がんない。

 私もねー、それまでに困ったときの神頼みはしたけど、無理だったわ。たぶん、婚約者さんの冤罪が晴れて私が仕組んだことにもなって、エンドかな?

 まっいっか。素敵な王子さまと結婚出来たし、贅沢三昧出来たから。悪女としては十分でしょ。

 あれ、弟王子も処罰されるの?

 権力を悪用して、収穫出来ないようにしていた? ああ、婚約者さんたちの研究が成果を上げていたのね。それを国内で活用させなかった。でもそれって…。


 二人とも婚約者さんと同じようにギロチンにかけられることになった。

 で、仲良く夫婦で貴族用の護送車(窓に鉄格子の入った馬車)に乗っている。弟王子が一緒だからね。私一人だったら、婚約者さんと同じ護送車だっただろうね、石投げ放題、当たり放題の。

 ちょっと宰相さんに頼んで寄り道をしてもらった。

「何処に行くのだ?」

 王都を出る門を抜ける。緑で一面の畑が広がる。このまま元気に育つといいんだけど。

「綺麗ですね」

 田植えをして少し経った田んぼを思い出す。水田が一面の緑に覆われていて、あれはあれで収穫の秋とは違う感動がある。稲が風でザザッと揺れるんだよ。むっちゃ綺麗。

「ああ…」

 婚約者さん、思い出しているかな?

「来世は婚約者(パトレシア)さんと見に来てくださいね」

 今世は私で我慢してね。

「らいせ?」

 この世界には輪廻転生の概念がない?

「全て忘れて生まれ変わる…」

「はい、出会えるといいですね」

「ああ。あなたにはお礼を言わなければならなかっんだ」

 改まってなんですか?

「彼女が犯人ではないと言ってくれてありがとう」

 ああ、だから弟王子に殺されなかったんだ。私が彼女がそんなことしないと言ったから。

「それから…」

 まだあるのですか?

「カオル、一緒にいてくれてありがとう」

 ここで名前を呼ぶの? こっちも情が湧かないように名前を呼ばないようにしていたのに。

「マルカケドさま、こちらこそお付き合いいただきありがとうございます」

 私は上手に笑えたかな?

カオルちゃん、もっと悪女のはずがこうなりました。

常識人です。

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