六将軍
城が燃えているなどとは知らない将軍たちは別の部屋でアスピルと新しい『魔王』が来るのを待っていた。
オクエルが集まった将軍達を見回し、ムッとした表情で発言した。
「おい、六将軍がなぜ5人しかいないのだ!今日は魔王の就任式だぞ」
「『大将軍』さんそうカッカしないでよ、アイツが来ないのはいつものことでしょ。それより人間が魔王やるって本当なの?」
魚姫のマリンはどこから情報を嗅ぎつけたのか。
魔物といえど年頃の娘が噂好きなのは変わらないようだ。
「自分はもう会ったっス。人間だけどタイヨウの旦那はいい人っスよ」
蜥蜴人のカネチョロに牛人のアステリオスが食って掛かった。
「流石はアスピル様に媚びへつらい、俺の地位を奪った男。もう新しい魔王様に取り入ったのか?」
「嫌な言い方しないでほしいッス、そういう好戦的な所がアンタを『上将軍』から降格させたんスよ」
カネチョロの言葉にアステリオスは顔を真っ赤にした。
今にも飛び掛かりそうなアステリオスを他の将軍はいつものことと気にも留めない様子だった。
狼人のウルモフが虚ろな目をしながらぽつりと呟いた。
「なんか匂わねぇ?」
「相変わらず眠そうな顔してるわね、におうってアステリオスのことでしょ?いつも牧場みたいな臭いがするもの」
マリンの指摘にアステリオスは大慌てで自分の匂いを嗅ぎ始めた。
「眠いのは夜行性だからしゃあないでしょ。早朝から呼びやがって……まぁいいや、なんか焦げ臭くね?」
「あんた寝ぼけてんじゃない?」
「いやなんか燃えてるって。あっ、誰かがこっちに走ってくる足音がする」
「さすが犬頭、相変わらず無駄に耳と鼻がいいんだから」
「犬じゃなくて狼だっての」
マリンとウルモフが話していると大きな足音と共に扉が開かれた。
「みんな揃ってる?」
カネチョロとオクエル以外の将軍は驚愕を表情をした。
魔王城に人間がいる。
それもうわさ通りならこの人間が新しい『魔王』である。
目の前の現実がとても受け入れられなかった。
「タイヨウの旦那。六将軍のうち一人は来てないっス」
「おお、カネチョロじゃん。お前『上将軍』とかいってオクエルの次に偉かったんだなぁ。これからよろしこ」
タイヨウの発言に『元』上将軍のアステリオスはムッとした顔をした。
「って悠長にしてる暇はないんだった。みんなすぐに外に出てくれ、いまこの城は燃えてるんだ」
「ほら、俺が言った通りだろ」
ウルモフが得意げな顔をした。
「なぜ燃えている?アスピル様は無事なのか?」
オクエルがタイヨウを睨み付けながら問いただした。
「ああ、俺が火をつけた。アスピーなら消火活動してるよ。とにかく念のため外出てちょ」
すべての将軍が言葉が出なかった。
全く状況がわからない、この人間はなにをいってるのだ。
将軍たちは先ほど『いい人っスよ』と発言したカネチョロを睨んだ。
カネチョロは汗だくになりながら下を向いた。
「ほらほらすぐに外に出て!俺はアスピーのとこ戻るからね」
タイヨウは扉の外へ出て行った。
部屋に残された将軍たちはわけがわからないまま外へと避難した。
「おーい、アスピー!犯行現場に戻ってきたぜ」
アスピルは泣きながら魔法で水を出して消火活動していた。
「ぜんぜん消えないのじゃ……水がいつもの半分しか出ない。お前に魔力を半分くらい持っていかれたらしい……」
目と鼻からでてる水も消火にまわせと言ってやりたかったが、流石にふざけている場合ではないのでやめておこう。
「屋根から壁に燃え移っとるやんけ。隣の部屋には何の部屋?」
「ふぇ?武器庫じゃが……」
タイヨウはアスピルを猫のように抱きかかえながら一目散で外に走り出した。
「おい、消火が終わってないぞ。離せ離せ!」
「危ないって!隣は武器庫なんだろ、つまり中には……」
二人の後ろから激しい爆発音がした。
武器庫の火薬に引火したらしい。
無事、城の外に逃げられた二人はただ城が勢いをまして燃えていくのをじっと眺めることしかできなかった。
ネタバレ:アステリオスの牧場臭はみんな我慢してた。とくにウルモフ。