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陽キャと魔法

「起きろ!いつまで人の布団で寝ておるのじゃ」


 アスピルは大声と共にカーテンを思いっきり開けた。

 窓から眩しい光が差し込み、寝ているタイヨウの顔に直撃した。


「うーむ、昨晩のことは夢じゃなかったか……」


「なにをぶつぶつ行っておる。早くこの服に着替えるのじゃ」


 タイヨウは『魔族のローブ』を手に入れた。

 魔族のローブは、太古の魔術が施してあり、多くの攻撃魔法を軽減する特殊効果がついている。

 この世に一つしか残っていない極めて希少なものだった。


「ダサいし古いよコレ、そろそろ雑巾に加工したら?」


 アスピルは早くも『ズツー薬草』を噛りつきたくなった。


「ワガママを言わずさっさと着替えてついて来い。別の部屋で魔物(モンスター)の将軍たちが『就任式』のために集まっておる」


 タイヨウは『魔族のローブ』に着替えながら質問をした。


「就任式?『誰』が『何に』なんの?」


「『お前』が『魔王』になるんじゃろうが!」


 昨日はけっこう飲んでたからよく覚えてないが、そんなような話をした気もする。


「わかってるよ、冗談に決まってるじゃん。ところでマジで俺が『魔王』になんの?」


「うむ、よろしく頼む」


 うむってアンタ……

 ゴミ捨て当番変わるんじゃないんだからそんな軽く決めていいのか?


「魔王って言っても俺、魔法使えないぜ?」


「じゃあ使えるようにしてやる、そこの椅子に座れ」


 アスピルは自分の胸ポケットに手を入れ、何かを探し始めた。


「どら、ええもんあるかなぁ?……あった、『幸せの水』ゥ~!!」


 アスピルは急にしゃがれ声を出して、謎の小瓶を取り出した。


「なにその小瓶?」


「これは『幸せの水』といってな、飲むと魔法適性のあるものは魔法が使えるように素晴らしい水なんじゃ」


 小瓶にやたらにリアルなドクロのイラストが描いてあるのが非常に気になる。


「魔法適性がない場合はどうなんの?」


「……もがき苦しんで死ぬ」


「おい!絶対飲まないぞそんなもん」


『不動の石となれ!!』

 

 アスピルは呪文を唱え、タイヨウのおでこを人差し指で突いた。


「なんだこれ、体が動かないんだが。おい、なんとかしてくれ」


「わがままをいう甘えんぼさんには、余が特別に飲ませてやろう」


 アスピルがにやりと笑った。


「絶対飲まんからな。んん!!」


 タイヨウは強固に口を閉じた。

 どうだ、これなら飲ませるのは無理だ。


「ふふふ、無駄じゃ。ほれ」


 アスピルがタイヨウの鼻をつまんだ。


「んん、んん…プハァー」


 タイヨウの息継ぎに合わせ、アスピルは小瓶を口にねじ込んだ。

 タイヨウの喉元を苦い液体が通り過ぎた。


「うげぇ、飲んじゃったよ。死ぬ!死ぬ!」


「はっはっは、それだけ元気なら大丈夫じゃろ。どうだ、痛みはあるか?」


「いや、痛みはないが…」

 

 痛みはないがなにも変化がないぞ。

 ただの苦いお茶かなにかを飲まされただけなんじゃないか。


「魔法を使える実感がないんじゃろ?心配するな。修業を積んで魔力を高めれば徐々に魔法が使えるようになる」


「なんだすぐ使えないのかよ。修業してる暇なんてねぇよ今日から魔王なんだぞ」


「わがまま言いおって……しょうがない奴じゃな」


 アスピルは椅子の後ろに回り、後ろからタイヨウを抱きしめた。


「どうだ?なにか感じるか」


「ほんのりアスピーのちっぱいを感じる」


「ちっぱいとはなんじゃ?身体が熱くないか?」


「言われてみれば、そんな気もする」


 お腹が誰かになでられているようにほんのりと暖かい気もする。


「余の魔力がほんのちょっとだけ分けられたはずじゃ」


「ホントかよぉ、嘘くせー」


 苦い水飲まされて、気功っぽいことされて、こんなんで魔法が使えるわけないだろ。

 アスピーが適当なこと言ってるに違いない。

「嘘ではない!立つがよい」


 アスピルが椅子に縛り付けられたタイヨウのおでこをつついた。


「お、動ける。もうその動けなくなる魔法やめてくれよ、エコノミー症候群になりそう」


「いいから親指と人差し指を立てて見よ」


 言われるがままに指をピストルのような形にした。

 さっきのアスピーみたいにダサい呪文とか唱えさせられたら嫌だなぁ。


「呪文とか恥ずかしいんだけど、俺もうハタチっすよ?」


「呪文を詠唱するほど難しい魔法じゃない、人差し指に熱が集まるイメージをするんじゃ」


 なんか宗教くさいなぁ。

 こんなことしてなんの意味が……ん?


「人差し指の先がすげぇ熱い」


「ぬはは!タイヨウの魔力が指先に溜まってきたじゃろう!

余が与えた魔力、返せとは言わんから大事に使うんじゃぞ」


「そんなことより指先が熱くて堪らないんだが、どうすればいいの?」


「大げさな奴じゃな、ぬるま湯に浸した程度じゃろうに……」

 

 ぬるま湯?ライターで炙られてるみたいだぞ。


「手を放すような感覚で力を抜けば指先から炎がでるはずじゃ。そしたら指先の温かさも消える」


「どこ向けて解放すればいいの?」


「天井にでも向けて放ってみよ。どうせ線香程度の炎が出るだけじゃ」


「いいの?本当に出すからな!」


 ドゴォォォォオオオオ!!!!

 

 タイヨウの指先から大きな竜の形をした炎が飛び出し、天井を突き破り空へと消えていった。

 ぽっかりと穴が開いた周りが激しく燃えていた。


「あわわわ……タイヨウ、お前はなんということを……」


「え!アスピーが天井に向けて放つように言ったじゃん」


「お前に魔力を与え過ぎた。とにかく火を消さなくては、おいタイヨウお前も水を出せ!」


「水?アスピーこれしょんべんなんかじゃ消えねぇよ」


 火の手が回るのが早い。

 炎は天井から壁へと伝わりつつあった。


「オロカモノ!!もうよい、余がなんとか消すからタイヨウは別の部屋に集まっている魔物(モンスター)の将軍たちに避難するよう伝えてくれ」


「わかった!死ぬなよアスピー」


 タイヨウは大急ぎで長たちの待つ部屋へと向かった。

ネタバレ:タイヨウは幼いころ、映画の主人公のマネをしてライターで指を炙って火傷したことがある

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