豪腕の女オーク『オクエル』
城を閉ざす跳ね橋がキュルキュルと音を立てて降りた。
城の外には吸血鬼、狼人、夢魔など様々な夜行性の魔物がいたがどの種族もみな驚きを隠せなかった。
跳ね橋から姿が見えたのが我らが魔王アスピル様ではなく憎き人間だったからだ。
何故魔物しかいないはずの『ガラパゴ島』に人間が?しかも王城から?アスピル様は?
魔物達は一様に混乱していたが、そんなことはタイヨウは知る由もない。
大きな声で魔物達に呼びかけた。
「魔物のみんな〜!喧嘩しちゃ駄目だぞ!みんな仲良く生きようね!」
魔物達はその言葉の真意が全く理解できなかった。
我々を迫害する人間が魔物同士で仲良くしろ?
人間の軍が攻め入るから魔物同士で一致団結しろという宣戦布告なのだろうか。
突然のことにパニックになる魔物達の中、一匹の女の大鬼だけは冷静だった。
身長2メートルを超える大鬼は『オクエル』という名であり、魔王軍の将軍の中で最もえらい『大将軍』という地位である。
わかりやすくいえば『ガラパゴ島』で魔王アスピルの次に偉い存在であった。
オクエルは大地が震えるような大声で叫んだ。
「おい、人間よ!!!」
タイヨウはあまりの声の大きさに耳を塞ぎ、体を丸くした。
なんかいろいろとデカい緑色のネエチャンがいるぞ。
俺のダチ、バスケ馬鹿の黒人留学生マイケルより遥かにでかいぞ。
ジョーダンじゃないよ、まったく。
急にでかい声出すなよ。
「うるさ!っていうか魔物ってしゃべれんのか?」
タイヨウの発言にオクエルの緑色の顔が真っ赤に染まった。
「『しゃべれんのか?』だと!?今の侮辱で貴様が和睦の使者ではないことがわかった。
宣戦布告ならそう言え、今この場で『軍神オクエル』が相手をしてやる」
「え?なに?さっきの大声で耳がキンキンしてて聞こえないよ。まぁいいわ、そっちいくから」
なんだか知らないが武装してるし、たぶん城の警備で夜勤してるネエチャンなんだろう。
仕事熱心な人には『お疲れさんです!』を言ってやるのが俺の流儀よ。
「……近づいてくるだと」
人間でこの『軍神オクエル』を知らぬものはおるまい。
私はかつて魔物が人間どもと戦争をしていた時、多くの人間を蹴散らした伝説の戦士だぞ。
なぜ奴はあのようにヘラヘラ笑いながらなんの躊躇もなく私の元に近づいてこれる?
もしや奴は私を始末するための刺客なのか?
いつの間にか周りにいたはずの魔物達はいなかった。
オクエル以外はあまりの恐怖に逃げ出していたのだった。
オクエルは汗が止まらなかった。
大将軍として決して逃げるわけにはいかない、ここが死に場所になるかもしれないと覚悟を決めた。
オクエルは恐怖を払拭し、仁王のごとき形相で腰の紐に巻き付けられた斧を取りだし、肩に担いだ。
「こい!人間よッッ」
スパーーン
「イタッ!叩くなよもう!」
アスピルが王城から走って駆けつけ、タイヨウの頭を引っ叩いた。
「オロカモノ!何を勝手に跳ね橋を下げて外に出ようとしとる!人間と魔物の関係が悪いといったじゃろ。
お前が『国民』と合うのは余が明日、その存在を伝えてからじゃ」
「なんだよそれ、言われてないもん知らないよ」
「説明する前にお前が飛び出したんじゃろ!」
タイヨウとアスピルが口論をしてる中、オクエルは恐る恐るアスピルに尋ねた。
「アスピル様、そちらの人間は何者なのでしょうか?」
「こやつは余が召還したタイヨウじゃ、これからは『魔王』として余の代わりを務めてもらう」
タイヨウが敬礼のポーズをして二カッと笑った。
「タイヨウですよろしこ、まじで俺が『魔王』やるの?そういえば俺ってどうやって元の世界に帰るの?」
「どうやって帰るかだと?どうやって帰るのじゃろ…」
ネタバレ:オクエルは夜勤手当が付かないことを少し気にしている