04.スパルタ入浴
服を脱がされるぐらいなら自分から脱いだ方がダメージが少ないかもしれない…と、運ばれながら考えていたけれど、その必要はなかった。
ぽい
どぼーん
「ぎゃわんぎゃわんっ!?」
服のまま、川に投げ込まれた。川幅100mはありそうな、大きな川。
人間が住んでいそうな立派な屋敷が見える。今あそこから出て来たのか…。
もし川から逃げるとしたらどっちに向かえばいいのかな?川を下ると帰れるのか森の奥へ流されていくのか…究極の二択だけど一応選択肢に加えておこう。
あれ、暖かい…これ温泉?自然のものなのか…それとも、野性味溢れる魔物流お風呂場なのかな?
お風呂にしたら深いけど、川だとしたらそんなに深くない。足の裏をしっかりつけた状態で、水面は肩ぐらいだ。
足がつかないリオを見ると、必死に犬かきをして岸に向かっている。
「はい、100回吠える」
それって100まで数える、的な?
「わん、わん、わん、ごぼ、ぎゃん、わんっ」
リオは指示を理解しているようだ。賢いなぁ。助けなくても大丈夫そうなので、私は自分に専念する事にする。
頭まで潜って、フェイスラインで切りそろえた髪をわしゃわしゃ。石鹸はないけど、二日間洗えていない髪を洗う。
ぷは
息継ぎ。ドレスが水をふくんで、重い。
「ぎゃわーんっ!」
何かまた叫んでるぞ。あ、執事さんの所に辿り着いてる。ゴールの賞品はなんと石鹸らしい。
泡まみれにされたリオは再びリリースされた。
だっぱーーんっ
最初よりうんと遠くへ投げられてる…。泡は欲しいけどあんなに投げられたら足がつかないかも。
ドレスで身動きが取りづらくて、岸に戻るのも大変なのにこれはヤバいかも。
よし、本格仕様でドロワーズもコルセットもつけられてるから、一番上のドレスは脱いじゃおう。
あぁー…背中の複雑に結ばれてるリボンが外れない!
「あぉん?」
おっと、泳ぐの早いな!もう私の所まで帰って来たのね。
丁度いいから犬の手でも借りましょうか。
「リオ、ここ。これ解いて」
「わん!」
びーっ。ぎゅううう。
「いったた、苦しっやめてやめて」
だめだこりゃ引っ張るぐらいしかできないっぽい。
ぶちっ
「きゅーーーん…」
「あ、千切れた」
リボンが、リオの爪に引き裂かれて切れた。一気にドレスが緩む。
「いいのよリオ、ありがとう。そんな悲しい声出さないで」
「くぅん」
ドレスとペチコートをその場で脱ぎ捨てる。水に広がって、大きな花のようだ。
さて身軽になった所で、岸へと向かう。しかし執事さんが居ない。
「え、部屋まで自力で帰ってこいってこと?」
「あん?」
私まだ泡貰ってないのになー。あ、タオルと石鹸が落ちてる。勝手に使わせてもらいますよー。
わしゃわしゃあわあわ。
「うぅー…」
リオは石鹸が嫌みたい。遠巻きに私の様子をうかがっている。
執事さんが帰って来ないなら、下着も脱いじゃうんだけど…とりあえず気持ち悪いから靴は脱いだ。
ドレスは捨ててしまってもいいけど、靴はこの先も必要だから流されないように気を付けないとね。
「いやーーーっリルちゃん!大変!剥けてるわ!」
「お嬢、俺に責任はありませんよ。お湯で腐ったわけではないのです!リオが千切ったのですよ」
おっとぉ、ドレスの事か。服だと認識されてなかったねそういえば。
とりあえず、頭が泡まみれなので、自ら川に入って流す。
「な、な、なんてこと…!リオ、だめでしょこんな酷いことしちゃ。め!」
「うぅー、わんわんわん!」
えっと…服じゃなくて体だと思っててなおこの窘め具合なの…?これ体だったら死んでるよね?甘すぎない?
あとリオは多分オレは悪くないぜ!みたいな弁解をしてそう。うんごめんね、濡れ衣よね。
どういう反応をすればいいのか分からないから、あえて平然としておく。
服の裾を絞って、濡れたまま靴を履く。タオルで頭を拭きながら、お嬢さまに近づいた。
「案外平気そうですね」
「そ、そうね。ちょっとしょぼくなっちゃったけど」
そういえばお花みたいなドレスを気に入って拾ってもらえたんだった。もう流されていっちゃったんだけど、軽率だったかな!?いやでも溺れる可能性があったししょうがないよね…。ま、まずかったかな。
「あ、脱皮したんじゃないかしら?リルちゃんは爬虫類系なのかも」
「では餌は虫ですね」
「いっ…ぎゃわん!」
嫌!無理!聞いただけでぞわっとした!やーだー!
言葉にできない分精いっぱい首を横に振りまくる。
「リルちゃんはねー、甘くておいしい物と柔らかい物が好きなのよ。そんな気持ち悪いの持ってこないでよね」
どちらかというと歯ごたえのある物の方が好きだけど、もうそれでいいです。
あぁよかったゲテモノ食べさせられるところだった…いや出されても食べないけど。
「綺麗になったから戻りましょうね、お昼寝の時間よ」
「寝る子は育ちますからね」
濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪いけれど、我慢して後に続く。
このまま屋敷に入るの申し訳ないな…歩いた後に水が落ちちゃう。
「コイツらの毛を乾燥させてから連れて行きます」
扉の前で躊躇していたら、執事さんの小脇に抱えられた。
そして厨房のかまどでよーく炙られてから、ようやく部屋へと戻れたのであった。
…リオの尻尾の先っちょが焦げてるけど、私は燃えずに済んでよかった!