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お嬢様の機嫌を損ねたら××  作者: 丸晴eM
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01.お先真っ暗プロローグ 

 まず最初にはっきりさせておくけど、私は悪くない。


「下町の食堂とやらに行ってみたいわ」


 うちのお嬢様は唐突にこんなことを言い出した。おそらく私に話しかけたのは初めての事であるにもかかわらず。


「それは…なぜです?」

「アンデル様はね、民の生活を知るために時々城下へ視察に行かれるそうなの。あぁお優しいアンデル様…素敵」


 悪いのはお嬢様にこんな情報をもたらした、昨日のお茶会に居た噂好きの誰かさん。

そして、お忍びがバレてるうかつな王子様がそもそもの元凶だと思う。

 断るなり窘めるなりするであろう侍女ではなく、口答えができる立場にない下っ端お針子の私に目を付けたお嬢様もなかなか性格が悪い。


「メリル、ここがいいわ入ってみましょう。もしかしたらアンデル様がいらっしゃるかも?」


 自分で言って、キャアとはしゃいだ声を出すお嬢様。


「ここは食堂ではございません、酒場です。お嬢様が入られるような場所では…」

「ここがいいの。ごらんなさい、とっても賑やかだわ」


 ご覧の通り、とってもガラが悪いんですけど。

お嬢様のチョイス、まじないわー。場違い過ぎて、一歩入っただけで注目の的だ。


「ヒュー、別嬪さんのお出ましだ。ご注文は?」


 話し声、笑い声、手を叩く音、からかうような口笛。

酒場は昼間でも客が多く、確かに賑わっていた。

丈夫そうな装備の人も多いから、冒険者御用達の店なのかもしれない。

冒険者って血の気が多いっていうかガラが悪いっていうか…とにかくとってもハズレ。


「いけませんお嬢様、別の店にしましょう。ここはお酒を飲む場所なのです、お嬢様はお酒呑まないでしょう?」

「そ、そうね…不躾に見られて、気分が悪いわ」


 流石にないなと判断されたのか、あっさり踵を返す。


「やっぱりあちらの店にしましょう、行くわよ…あら?髪がほどけて…」

「あー…やられましたね」


 髪を緩く編んでいたリボンは、そう簡単にほどけるものでもない。

リボンの上から被せるように付けていた髪飾りごと、故意に誰かが引っ張ったのだろう。恐らく、先ほどの酒場にいた誰かが。

すぐに気付かなかったということは、刃物で切り取られたのかもしれない。


「やられた?どういうことなの」

「自然に落ちたとは考えにくいので、すれ違ったどなたかに盗まれたのではと」

「あれは誕生日にお父様が下さった大切な物よ、取り返してきて」


 何でそんな大事な物付けてきちゃったのかなー。街に出るだけなのにハリキリすぎなんだよ。


「誰が犯人か分かり兼ねますし、難しいかと…」

「駄目よ。貴女があんな場所に連れて行ったんでしょう、何とかしなさい」


 私、いいって言ってないし。勝手に入ったのお嬢様だし。


「お許しくださいませ…」


 酒場に居た誰かだとは思うけど、見つかるはずない。素直に返してくれるハズないし、皆口裏合わせするだろうし、最悪いちゃもん付けたって逆ギレされるかもしれないし。

どうしようもないので、謝るしかできない。私、悪くないのにね。


「聞きたくないわ。謝って許せる問題ではないのよ」


 はぁ?理不尽すぎる。

やっぱり貴族のお嬢様ってのは我儘なのね。ちょっと意味が分からない。

給料で選んだお屋敷だったけど、1年前の自分の判断を恨むしかない。

最後まで悩んだ、そんなに給料が変わらなかった商家に雇ってもらえばよかった。


「あの髪飾りは守護の御守りで、ドラゴンの鱗が使われていたとても貴重なものなんだから」


 全然守れてないんですけどー。絶対詐欺なんですけどー。


「…申し訳ございません」

「聞かないったら。何とかするまで、うちに帰ってきちゃ駄目よ」


 最悪。正式に解雇してくれないのなら、退職金も出ないし次の職も探せない。

まぁ何とかできるハズもないので、こっそり屋敷に帰って荷物持ち出して、離れた街にでも行ってー…


「とは言っても誰が持っているのか分からないなら、どうしようもないわ」


 ん?


「おっしゃる通りだと存じます」

「貴女に弁償できるとは思えないし、そもそも一点物だったらしいし…いいわ、私が手配しましょう」


 …ん?


「ドラゴンの鱗を取ってきなさい。そしたら許してあげるわ」


 それ、無くなった髪飾りを見つけるより無理なやつですからね。

さて帰ったら荷物をまとめて、ドラゴンを探しに行くフリで離れた街にー…


「馬車を出して、黒の森まで送ってあげるわ。そこから先は自分で何とかなさい。私は新しく作り直してくれるデザイナーを手配して待ってるわ」


 あ、これ逃げられないやつ。


「お嬢様…私はドラゴンを見たことがないのですが…」

「ドラゴンはね、綺麗なお姫様が好きなのよ。攫ってしまう習性があるの。もう着ないドレスをあげるから、寄ってきた隙に剥がせばいいのよ」


 人間の爵位や出自なんてきっと分からないだろうから、着飾っていれば騙されるに決まっているわとのこと。それ、何情報よ…何処情報よ…。

習性とか図鑑にでも出てきそうな紹介してるけど、絵本の話ですよねそれ。

あー、頭痛くなってきた。お嬢様はもう15歳になるはずなのに、本気で言ってるのだろうか。


「あら、やっと後悔した顔したわね?いまさら遅いんだから!」


 お嬢様は、貴族だ。

人の悪意や敵意には敏感で、そんなとこだけ察しが良い。

 ぬかった。侮った。私が、お嬢様が悪いのにと思っていたことなんて筒抜けだったのだろう。偉そうに、勝ち誇ったように笑っている。

いやでも…本当にどう考えてもお嬢様が悪い案件だったんですけど?

まぁ盗んだヤツが悪いんだけどさー。どっちにしろ私、悪くないじゃん。

反省なんかできるか!


「逃がさないわよ、森で怯えて、反省なさい!」


 そして私は、八つ当たりというか濡れ衣というかで魔物の住む黒の森へと拉致された…。

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