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プロローグ~西暦2200年~

「戦艦が簡単に沈むかッ!!」


その言葉こそ、自分の胸を鷲掴みにするものだった。

大海原の上に細長くもどっしりとした船が海を切り裂くように走っている。その上には巨大な三つの土台からそれぞれ三本の筒が伸びており、それらは敵に向けられている。突然の轟音と共に吐く炎と煙、そして赤く輝く弾。9つの流星は敵の金属でできた壁をぶち抜き、そこから爆発の炎と煙が逃げていく。

『軍艦』……しかも、300年前もの世界を巻き込んだ戦いで人々によって造られ、使われ、そして沈んでいったそれらこそ、自分の心を奪った張本人……いや、張本艦だろう。

1920年代当時、世界最大の16inch(406mm)砲を搭載した戦艦である長門型戦艦『長門』『陸奥』、コロラド級戦艦『コロラド』『メリーランド』『ウェストバージニア』、ネルソン級戦艦『ネルソン』『ロドニー』を総称した『ビッグセブン』。

自動装填装置を搭載、前級のボルチモア級とオレゴン・シティ級の約2.5倍もの主砲火力を誇った『デモイン級重巡洋艦』。

酸素魚雷の開発に成功した大日本帝国海軍が旧式の球磨型軽巡洋艦に五連装魚雷発射管を8基搭載する改装を行った重雷装艦『北上』『大井』。

同様に40ノットもの最高速を誇り、五連装魚雷発射管を3基登載した駆逐艦『島風』。

1年間に50隻を建造、アメリカ海軍の誇る圧倒的物量を姿にした『カサブランカ級護衛空母』や同様に24隻を建造しその大半が戦後を迎え、更に大半が改装されて冷戦で活躍した『エセックス級航空母艦』。

そして大艦巨砲主義の集大成ともいえる、全長263mの巨体に世界最大の艦載砲である46cm三連装砲を3基も登載した『大和型戦艦』。

その他にも沢山の艦艇が当時の設計者が頭を悩ませ、多くの人々がその設計の元に汗を流しながら造られ、そして多くの軍人が乗り込んで海を走り、その砲に火を吹き、小さな航空機を飛ばし、当てて当てられ、爆発し、沈んでいった。

自分にとって昔の人々が造ってきた艦艇こそが最も最大の人類の英知であり、最高の作品であり、今の俺にとっての唯一のロマンであった。

ああ、昔の人の船が乗れたり使えたらなぁ……


~~~~


「……ん!……みくん!」


「……ん、んぅ?」


耳から、普段聞いてる少女の声に学校のチャイム、そして赤く染まった空を飛ぶカラスの鳴き声が重なる。机に突っ伏したまま動かずにいた為、どうも骨の節々がぎしぎしと軋む。

突っ伏した頭を上げると、そこに制服を着た一人の少女が顔をしかめて俺を見つめていた。ゆっくりと曲げた背中と重ねた両腕を伸ばす。


「やっと起きた~。もう下校時刻よ」


「……ん、あぁ。そうなのか……」


座ったまま大きく背伸びをすると、机に入れてある筆箱と艦艇の資料を通学バッグに入れるとプラスチックの椅子を立ち上がる。窓から見える町を見ると、もう夕焼けで影ばかりが作られていた。


「ふわぁ……眠いなぁ」


「相当眠りが深かったようだね……どんな夢を見てたの?」


「扶桑型戦艦の艦橋天辺から水平線を見た」


意味分かんない、と見事に渋られる。

そりゃそうだ。もうこの地球の西暦は2200年を過ぎているからだ。田舎のような緑溢れる地域は無くなり、ほとんどがコンクリートや金属に囲まれた町なのだから。環境?もう地球環境を汚さないエンジンとかできて政府開き直ったよ。平均温度は何故か2000年代当時のまんまだし、何か気持ち悪い。しかも、2100年代まで現存していた1900年代の艦艇が全て解体されたのだ。アイオワも、イントレピッドも、ベルファストも、三笠も全て鉄と化した。


「ハァ……」


「どうしたの、戦海(いくみ)君。ため息なんかついて」


「この世界がつまらなすぎるんだよ」


「何よそれ。VRの世界でもないリアルなのに現実逃避?」


「んなわけねえだろ」


そう返すと、隣の少女……山本(やまもと)波華(なみか)は話を続けなかった。

俺は東郷(とうごう)戦海(いくみ)。名前が女らしいのはNGワードだ。だが苗字でわかるように、300年前の『日本海海戦』でバルチック艦隊との戦いで勝った名将『東郷平八郎』の子孫なのだ。

とすると、同様に隣の波華はあの大日本帝国海軍の大将『山本五十六』の子孫なのだ。今は、軍人家系ではなくなり一般人だが海軍軍人を祖先に持つよしみで仲が良い。

コンクリートの校舎を出る。そこには、賑わっていた陸上部や野球部、サッカー部の姿は何もなかった。校門にぽつりぽつりと黒い人影が見えるくらいしかいない。俺と波華もその一人なのだろう。

そうして、家への帰路の歩く。俺達の実家は元々祖先の軍人が生まれた所にあるため、全く別の場所である。だが、どういう偶然か俺と波華の家は隣同士である。よくある幼馴染み同士のテンプレだな。


「んじゃ、波華。宿題分からねえと言って二階から飛び込むなよ……今いいとこだからよ」


「うぐっ……な、何で分かったし」


「宿題のとこお前じゃ分からんとこばっかだから」


「うええええぇぇぇぇん!!!教えてよ!」


だが断る、その一言で波華の願いを一蹴すると我が家へと入っていった。家に入ってもほぼ無機質、化学繊維の絨毯とか人工的に作られた野菜とか全く自然らしさがない。


「あら、お帰りなさい戦海。ご飯あと一時間程度でできるから」


「分かったお母さん。俺着替えてくるね」


リビングを見ると母が料理し始めているのが見える。それを確認すると二階をかけあがり自室に入ると制服を脱ぎ、部屋着を身に付ける。通学バッグから宿題を取り出して手早く終わらせる。これでもテスト上位の一人だからほぼ簡単である。進級できるかどうかの波華には無理だろうけど。

勉強道具を全て通学バッグに戻すと、近くのテーブルに置いてある巨大な模型を机に置き、ニッパーやヤスリなどを引き出しから取り出し、部品のある空箱のケースをその横に置いた。


「さてと……やりますか!」


ほぼ80%完成させている模型を今日終わらせる覚悟で組み立てを始める。12.7cm連装高角砲や25mm三連装機銃のカバー、艦尾クレーンとカタパルトを取り付け、艦橋の組み立てを行う。

俺の趣味は模型の組み立てや資料の読書だ。ほぼ大体の1900年代の艦名や兵装を言えるし、有名な軍人もわかる。あっ、流石に3ケタもの同型艦が建造されたアメリカ駆逐艦とか2700隻建造された『リバティ戦時標準船』の名前全部知らないけど。


「…………よし、できた!」


艦橋が出来上がった!これで__


ドゴオォォンッ!!!!


「え__」


この直後、俺は凄まじい痛みと共に意識を失った。

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