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ふたつ

作者: すっちー

雪がしんしんと降りしきるなかに歩くふたつがいた。

「ねぇクロ、これはどこまで行くの?」

ひとつはまだ幼い少女で、肌は雪のように白く綺麗である。

「分からない…………どこまで行くんだろう」

もうひとつは身長が高く全身が真っ黒で、まるで人の影のようだ。

「ミリアはもう疲れたのかい?」

少女は立ち止まり自身の手袋に優しく息を吹きかけると「少し寒いだけ」と言い、再び白い息をしながら歩き始めた。

「そうか、これは早く終わらせよう」

この言葉を最後にふたつは黙々と歩き続ける。真っ白な世界の中でひとつの足跡だけが伸びていくが、やがてはそれも雪に隠されてしまうだろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


空がオレンジ色に染まり始めた店先に立つふたつがいた。

「ミリア、これはどうだい?」

ひとつはまだ幼い少女で、肌は雪のように白く綺麗である。

「少し暑い………」

もうひとつは身長が高く全身が真っ黒で、まるで人の影のようだ。

「お嬢ちゃん、ひとりでどうしたんだい?」

店の奥から老人が心配そうに訊ねるが、少女は小さく首を振り、また遠くを見つめ始めた。

「ありゃ、いつの間にか消えちまった………」

ふたつは黙ったままずっと遠くを見つめている。老人は首をかしげながら戻っていくが、やがてはそれも忘れてしまうだろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


風がそっと優しく草を撫でてゆく丘の上に寝転がっているふたつがいた。

「ミリア、これはいいだろう?」

ひとつはまだ幼い少女で、肌は雪のように白く綺麗である。

「………………」

もうひとつは身長が高く全身が真っ黒で、まるで人の影のようだ。

「そうか寝てしまったんだね、おやすみミリア」

真っ黒なそれは暖かな青空を見上げ「ふぅ」と息をつき目を閉じた。

「………………………………」

並び合うふたつは夢の世界へ旅に出る。暖かな風がとても心地いい音をたてながら通り過ぎていくが、やがてはそれも雷雨とともになくなってしまうだろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


まだ薄明るい道を小鳥の歌を聞きながら歩くふたつがいた。

「ねぇ、クロは寂しくないの?」

ひとつはまだ幼い少女で、肌は雪のように白く綺麗である。

「う〜ん、そうだなぁ……………」

もうひとつは身長が高く全身が真っ黒で、まるで人の影のようだ。

「私はとても寂しい」

真っ黒なそれは急に立ち止まると、少女の前にしゃがみ込み小さな手を握った。

「僕は寂しくないよ」

ふたつは再び横に並び歩き始める。小鳥の楽しそうにさえずる声が胸を踊らせるが、やがてはそれも聞こえなくなってしまうだろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ひっそりとした街のすみで雨宿りをしているふたつがいた。

「これは行けないね」

ひとつはまだ幼い少女で、肌は雪のように白く綺麗である。

「私はこれでもいい」

もうひとつは身長が高く全身が真っ黒で、まるで人の影のようだ。

「そうか」

少女は真っ黒なそれに「そう」と呟くと小さく微笑んだ。

「僕もさ」

ふたつは灰色の空を見上げる。銀色に光る雫を落とす空はより黒くなってゆくが、やがてはそれも暖かい日差しが照らし始めて消えてしまうだろう。

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