しあわせの糸電話
糸電話を壁に当てると色んなお話が聞こえる。
洋室1は近所のおばさんの世間話。
寝室は江戸幕末の武士の世間話。
風呂場はあるイタリア農家の言い争っている声。
長く聞こうとするにも、自分が何か見られているような気がして、糸電話をそっと離す。だが自分だけが夢の中から戻った気がして、心地良くなり、また好奇心にやってしまうのだ。
「糸電話盗聴」
妻が居留守の間、マイブームとなった。
この姿を見られると、どう弁明していいか分からない。
だがある日不覚にも見つかった。
妻は険しい表情を見せた後、口元が緩み
「ここに当ててみて、何のお話が聞こえる?」
我が子の笑う声が胎動から聞こえる。