2位じゃだめなんですか
2組の自動ドアと2つの手動ドアのあるよく見かける普通のタイプの入り口から館内へ入る。
館内は外の人の少なさとはうって変わって大勢の家族連れで賑わっていた。
道は左右と直進の3つに大きく分かれていた。
「人、多いね」
結音は俺に言う。
「ね、駅の中はぜんぜん人いなかったのに」
「多分地元の人なんだろうね」
「うん」
「で、早く食べる店決めない」
「そうだね。早く決めよう。えっと和食、だったっけ」
「が、いいな。あくまで要望、ねっ」
「あ、地図あるから見よう」
俺は結音に館内案内板を指差した。
俺と結音は近くにあった館内の地図を見る。
「レストラン街は4階だって」
「じゃあ行こっか」
「うん」
入り口から見てまっすぐ進んだ先にあるエスカレーターに乗って4階まで上がる。
「あ、すごい人だね。丁度お昼時だからかな」
「そうじゃない。もう11時50分だよ」
「早く並ばないと、ねっ」
「それよりどこ行くか決めなきゃ」
「そうだったわね」
2人は昼食を取る店を決めるべくレストラン街の奥へ歩き出した。
そしてある看板が俺の目に留まった。
イルカで2番目のから揚げ・2位じゃだめなんですか、と書かれている。
俺は思わず足を止めてしまう。
結音も看板に気づいたみたいでフフッと笑う。
「全国2位のから揚げだって。それにしても2位じゃだめなんですかとかどっかで聞いたことあるような気がするね」
「なんかどっかの政治家の言葉じゃなかった。そんな1位になることにこだわる必要はないんじゃ無いですか、みたいな」
「ふーんそうだっけ」
「きっとそうだよ」
「きっとって何だよ」
「きっとはきっとだろ」
そこで結音は笑いだす。
俺もよく分からないがとりあえず笑っておく。
「じゃあ2位のから揚げ食べてみる」
「から揚げって和食じゃない気がするんですけど」
「でもこんな看板見たら食べたくなるじゃん」
「じゃあそうしよっか」
俺はのれんの前に開いてあったメニューを眺める。
思わず笑ってしまう。
「結音これみてよ」
「なに、あっ」
「2位のから揚げ定食、だって」
「正直でいいじゃん」
「しかも2番目においしいクセして値段は700円だって」
「えっすごいね。まあ1位にお客さん獲られたくないもんね」
「じゃ、入ろっか」
「うん」
結音がそう答えたので俺はメニューを閉じ元の場所に戻してのれんを開ける。
「いらっしゃいませー」
若い女性店員さんの威勢のよい声が耳に飛び込んでくる。
「すごい店員さん元気だね」
結音がそう言った所にさっきの店員さんが
「お客様は2名様でよろしいでしょうか」
「はい」
2人は口を揃えて言う。
「はい、かしこまりました。お席が開くまでもう少々お待ちください。2名様ご来店でーす」
「へいらっしゃーい」
厨房からも威勢のよい声が飛んでくる。
前には3人ほど座れるいすがあるが今は先に来たお客さんが座っているので座れない。
店内を見渡すと席は満席だった。
「すごい元気いいよね。なんかこっちも元気になってくる」
「ね。やっぱり挨拶って大切だね」
「うん」
それから前の人が店員に案内され俺と結音はあいた3人掛けのいすに座る。
5分ほどするとさっきいた店員が寄ってきて
「お待たせ致しました。こちらへどうぞ」
と言い俺たちをテーブル席へと案内した。
「こちらお冷になります。ご注文がお決まりになりましたらお声掛けくださいませ」
「はい」
ここは俺が代表して答える。
「ねえどうする」
「どうするってそっちはそっちで決めて良いよ、好きなもの」
「いや、半分にして、とかあるじゃん」
「そうする、じゃあ」
「うん」
そうすると決まったので俺はメニューを開き横にする。
「この2位のから揚げと食べなきゃ損する餃子を頼んで、あ。セットがあるよ」
「じゃあ私はAセットで」
「じゃあ俺はBセットで」
ちなみにAセットは飲み物とご飯、味噌汁がついてくるセットでBセットは飲み物と4位の炒飯、たまごスープがついてくる。
「じゃあ決まりだね。店員さん呼んじゃうよ、私」
「いいよ。お願い」
「分かった、あっすいませーん」
結音が前を通りかかった男性の店員を呼び止める。
「はいいらっしゃいませご注文でよろしいでしょうか」
「はい。私が2位のから揚げのAセットで」
「僕が食べなきゃ損する餃子のBセットで」
「お飲み物は何になさいますか」
「えっと私炭酸だめだから、アップルジュースで」
「それで僕がレモンティーで、お願いします」
「はいかしこまりました。念のためご注文を確認いたしますね」
そして店員さんは持っているIPhone7の画面を見ながら注文内容を確認する。
確認が済み店員はしばらくお待ちください、と言い戻っていった。
「からA餃Bでーす」
厨房からさっきの店員さんがオーダーを料理人に伝えているのが聞こえた。
するとすぐに厨房の奥のほうから
「はい喜んでー」
大きな声が返ってくる。
やっぱり挨拶、まあこれは挨拶じゃなくて礼儀だろうけど言われると心がなんだか温まる気がする。
前を見ると結音は机にあったメニューを見渡していた。
そしてたまにふっ、と笑い出すので気になってもう1つの方を取って開いてみる。
そこにはこの店のモットーとかが書かれていたが特にこれは面白い、とか言うほどの物はなかった。
ま、ただ結音の笑いのつぼが浅いだけだろうと思い、そのままにしてあげた。
しばらくして店員がお盆に落ちるんじゃないの、とこっちがそわそわするくらい大量の皿を乗っけて登場した。
「お待たせいたしました。こちら2位のから揚げAセットになります。それでこちらがたべにゃにゃ、失礼しました食べなきゃ損する餃子のBセットになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「はい」
代表としてここは俺が答えておく。
「では、伝票だけ失礼致します。ごゆっくりどうぞ」
そう言うと店員さんはお盆を持ち足早に去っていった。
「ごちそうさま」
「速くね」
「速くないよ。隼人が遅いだけ」
「ごめん」
「謝んなくていいよ。私だっていつもはそんなんだから」
結音が俺より早く食べ終わったことに俺は驚いた。
でも結音からもらった2位のから揚げは2位にふさわしい味だったから、つい箸が進んだのだろう。
俺が食べ終わったのは結音が食べ終わってから10分ほど経った時だった。
「ごちそうさまでした。遅くなってごめんね」
「いやいや大丈夫。食べてる間ずっと本読んでたし」
ニコッと笑ってカバンから最近人気のあるラノベを取り出し俺に見せる。
「ラノベ読むんだ」
「うん。前友達が良いよって言ってて学校の図書室にあったから借りちゃった」
「いいなあ学校にそんなん置いてて」
「前の図書委員がこういう本好きで勝手に購入しちゃうんだ、って司書さん言ってた」
「俺も頼んでみよっかな」
「そうしなよ。で会計行こうよ。食べ終わったし」
「そうしよっか」
俺は短くそう答え机の上の伝票を取りレジに向かう。
レジには誰もいないので横においてある桃色のボタンを押して店員さんを呼ぶ。
「はーい」
厨房から返事が聞こえてくるのと同時に厨房の反対側から店員さんが走ってきた。
一体どうなっているんだ、と思ったが口には出さなかった。
「会計お願いします」
と言い伝票を店員さんに差し出す。
「はい。少々お待ちください」
そう言って店員さんは伝票のバーコードを機械に読み取らせて言う。
「お客様は学生ですか」
「はい」
結音が言いながらうなずく。
「でしたら本日は休日なので半額になります。お会計が700円になります」
「あ、そんなサービスあるんですか」
俺は驚いたあまり口から勝手に言葉が出てきてしまった。
「はい。今年の2月から始まったサービスで、小学生から大学生までの2人以上のグループでご来店頂くと休日限定ではありますが代金を半額にさせて頂いております」
「そうなんですか。で700、円でしたっけ」
「はい」
どうやら本当に700円らしい。
俺は財布から1000円札を取り出し渡す。
「1000円からでよろしいでしょうか」
「はい」
「ではこちら300円とレシートのお返しになります」
「はい」
と言いながら受け取り財布の中にきっちりとしまう。
「じゃあ行こっか」
「うん」
財布をカバンにしまい終え背負い店を出る。
「ありがとうございましたー」
後ろから入店したときと同じ威勢のよい声が聞こえてくる。
そして俺たちは昼食をおいしい中華で済ませた後、いるスタ東風谷の中をくまなく探索した。
途中54アイスクリームと言う名前の俺が住む北イルカや結音の住むイルカにもないアイスクリーム屋さんに入った。
そこでは夕張メロンアイスと完熟マンゴーアイスを頼み、結音と分けた。
日本で有名な31アイスクリームではカップに盛ることも可能だがこの54アイスクリームではそのような制度、サービスとでも言うのだろうか、は無いので2種類ともコーンだった。
「いっただっきまーす」
俺と結音は2人で店の横のテーブル席に座り、アイスを食べ始める。
「おいしいね。すごい。甘くて舌がとろけちゃう」
そう夕張メロンアイスを頬張りながら結音が言った。
俺は完熟マンゴーを頼んだのでそちらを食べる。
「甘っ」
俺が初めてアイスに心から感動した瞬間だった。
その後結音のアイスと俺のアイスを交換して食べた。
結音の夕張メロンアイスはとてもおいしかった。
が、最初に俺が食べた完熟マンゴーアイスには叶わないな、と思った。