三つの名前 5
きらきらと輝くシャンデリア。ひとつひとつが細かな宝石細工のように礼儀よく立ち並ぶスイーツ。豪奢な衣装を纏った若者たち。
セフィア城夏の交流会は、漣のような笑い声や話し声に満ちていた。誰も、人より遅れて入場したレティシアの姿を目に留めることなく、それぞれの行動を続けている。
ひたすら食事に没頭する者。忙しく会場内を回って給仕をする下級生たち。恋人と一緒にフロアでダンスを踊る者。部下になるに相応しい人材を捜す騎士。必死に自分を認めてもらおうとアピールする魔道士。
そして――
「……遅かったな」
聞き慣れた低い声に、レティシアはゆっくり振り返った。
ビュッフェ台の間を縫うようにして歩み寄ってくるのは、赤髪の青年を筆頭とした友人たち。皆、騎士の制服や薄手のサマードレスを羽織っており、「ディレン隊」の風格を現しているかのように思われた。
「あまりに遅いから、他の魔道士に声を掛けようかと思っていたところだ」
「あれ、じゃあ私は不要だったかしら?」
辛辣な物言いに臆することなく、レティシアはおどけてそう言い返す。
レイドは軽く柳眉をひそめた後、ふっと小さく笑うと自分の隣に立つ少年を手で示した。
「それはどうだろうか……少なくともおまえがここで帰ってしまえば、こいつは相当残念がるだろうな」
「レイド」
「こいつ」と言われたクラートは微かに頬を赤く染め、そして照れたようにレティシアに微笑みかけた。
「……でも、レイドの言うことももっともかもね」
「クラート様……」
レティシアはしばし、クラートと見つめ合ってからレイドに視線を移した。レイドは半歩後ろに控えるセレナに目配せした後、手袋の填った左手を静かに差し出してきた。
「……是非、おまえの力を借りたい」
レイドが何を言いたいのか。なぜディレン隊の面々がレティシアの元へ集まったのか。考えずとも答えは出てきた。
レティシアは自分より一回り以上大きなレイドの手を見つめ、挑戦するように小さく肩を持ち上げて微笑んだ。
「私にそれほどの価値があるのかしら?」
「さあな。それは実際にやってみなければ分からないだろう。だが……少なくとも俺は、おまえと共に仕事をしたいと思っている」
ぶっきらぼうに、ほぼ棒読みで宣言された言葉。
だが、それだけで十分だった。十分、レイドの思いは伝わってきた。
レティシアが小さく笑うと、セレナもまた、ショールで口元を覆うようにして笑い返す。オリオンが呆れたように肩をすくめ、その背後では小柄なノルテがタルトを咀嚼しながら目を輝かせてこちらの様子を伺っている。クラートが、静かな笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。
レティシアは顔を上げ、憮然とした表情のレイドにひとつ、微笑みかけた。
「……了解、隊長」
固く握り合った手は、タコが当たって少しだけ痛かった。




