奈落の魔道士
ねっとりと濃い闇。蝋燭の明かり一つない、目を開けていても閉じていても全く景色の変わらない黒の世界。
「……奴は、思ったより使えませんでした」
フン、と鼻息と共に発せられた、若い女性の声。古びた椅子に座っているのか、キシキシと木材の軋む音が闇に響く。
「政治的な身分云々とはいえ、所詮非魔道士……さっさと手を切って正解でした」
馬鹿にしきったような女性の声に追随するように、数名の囁き声が部屋に満ちる。
そうだそうだと女性に同調する声。そうは言っても……と言葉を濁す声。
かつん、と小さな音が鳴る。
ごく小さな音だったが、口々に勝手なことを喋っていた者たちは水を打ったように静かになる。
「……確かに奴は無能だった。早々に歴史の舞台から退場して正解だっただろう。だが……今回の一件は、おまえの失態でもあっただろう」
声は努めて冷静で、咎めたりする響きはない。
だが、直前まで堂々と悪口を吐いていた女性は舌打ちし、ギシリ、と音を立てて椅子に深く沈み込んだ。
「……おっしゃる通りです」
「ほう、今日は素直だな」
「あのお方たちが入ってこられたのは計算外だったけれど、うまく動かせなかったのはわたくしの失態でした」
そうか、とゆったりした声が響く。他の者たちは息を呑んで、二人の対話を見守っているようだ。
闇が、蠢く。
「彼」から発される濃く、強い闇の気配に、皆背筋を震わせた。
「我らが栄光を手にするために……真に玉座に相応しい者のために」
どこか遠くで、山梟が低く鳴いた――




