表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第二話  初仕事


 着替え終わって執務室に戻る。


「社長、じゃ行ってきます。作業時間は2時間半ってとこです。

 2トントラックで行きます」


「了解!! 検討を祈る!」


「行くぞ、八神」


「はい!」と言いながら、黒崎とともに会社を出る。


 黒崎は、迷わず階段を下りていく。

 エレベーターあるのに・・・。

 

「エレベーターはお客さん用。

 よっぽど急ぎ出ない限りは、階段だ!

 俺たちの仕事は体力勝負なんだ。

 階段で足腰鍛えとけ」


なるほど! そういうことか!

俺はようやく納得がいった。


1階につき、駐車場に向かう。

2トントラックの運転席に黒崎、助手席に俺が乗り込む。


「今日は、なんの仕事なんですか?」


「部屋の片づけ。片づけられない女の部屋」


「ま・・・まじすか?!」


俺は、女性の部屋に入ったことがない。

生唾を飲み込んだ。


そんな俺をあきれ果てたような顔で見ながら黒崎が言う。


「期待すんなよ」



――― 依頼主の部屋に到着した。

俺の期待を見事に裏切るような部屋だった・・・。

まず、一体どうやって今まで生活していたのか。


玄関はゴミ袋の山で天上まで敷き詰められていた。

出入り口がない。

この部屋の持ち主は、ゴミ袋の山の中を泳いで出入りしていたらしい。

どんな部屋だよ!!!


茫然と佇む俺をしりめに、黒崎が依頼人に段取りの説明をしていく。

依頼人は、20代の綺麗なOLさんだった。

まさか、こんな汚部屋に住んでるなんて夢にも思えない。


なんでここまでゴミをため込んだのか。

なぜ、袋にまで入れといて外に捨てにいかなかったのか。

俺だって数袋はためてしまうことはあるけど、ずっと気になってしまって結局は捨てに行く。


綺麗に着飾る暇があるなら、部屋片づけろよ!!!!

と言いたかったのをぐっと我慢して、顔にも出さず、笑顔で黒崎の隣で作業開始の指示が出るまで待つ。


「では、取り掛かります。もし捨ててほしくないものがあったら声かけてください。

 基本ゴミ袋に入ってるものは、すべて外に出していきますので」


黒崎は、クールだ。

この状態を見ても眉一つ動かさない。

慣れっこなんだろうか。


「この八神は、新人で今日が初仕事です。

 不慣れなため、何かご迷惑おかけするかもしれませんが、何かありましたら私まで遠慮なく」


黒崎がさりげなく、フォローを入れてくれた。

なんだかんだで後輩想いの優しい人なのかもしれない。


「よっよろしくおねがいしゃっす!」


気合を入れて、挨拶する。


「じゃ、ひとまず玄関から行くぞ。ざっと中身みて燃えるゴミと燃えないゴミに分けろ。

 あの2トントラックの緑のでかいBOXが燃えないゴミ入れだ。燃えるゴミはそこ以外にな。

 いちいち2階から1階のトラックにはこぶのは面倒だから、この大袋の中にある程度つめて、

 一階へロープで下す。

 俺が、おろすのやるから、お前下で受け止めて仕分けろ。いいな」


「了解っす!」


 俺は、ダッシュで階下へ降りた。

 トラックの荷台の上で待つ。

 ゴム手袋をはめて、マスクをする。

 正直、匂いが臭すぎて、耐えられなかった。 


 すぐに黒崎が、大きなゴミ袋の塊を下してきた。

 5、6袋のゴミ袋の塊を受け取り、仕分けしてく。


 一体、何年前のゴミなんだろうか。

 中身を直視するのが怖かった。


 ひとまず外から眺めて、触った感触で柔らかったら燃えるゴミとした。

 

 何往復もこのやりとりが続く。

 

「うまく、積んでいけよ。隙間なくな。まだまだあるからな!」


「はい!」


 20往復くらいしたところで、ようやく部屋を占拠していたゴミ袋の山は片付いた。

 

 ありえねぇ・・・。この中で生活していたとか・・・。

 すでに2トントラックの3分2が埋まっていた。


「八神、上がってこい。部屋の中片づけるぞ」


「はい!」


 もう俺さっきから、ハイしかいってねぇや。

 言葉が出ない。

 この汚さに。


 ゴミ袋がなくなり、玄関がようやく表れた。


 ふと目線を下げるとカサカサと動くものが・・・


 ゴ○ブリだ!!!!!


 俺は、思わずギャー――と叫び、飛びのいた。


 黒崎が驚いて、部屋から出てくる。

 

 「どうした?!」


 「ああ・・・あの、ゴ・・・ゴ○ブリが・・・」


 黒崎は、この上なくどうでもいいって顔して、大きなため息をついた。


「この仕事はな、常にそいつが付きまとう。

 いちいちビビッてたら、仕事にならねぇ。早く慣れろ。

 単なる虫だ。クワガタやらカブトムシと変わらねえ」


いや、全然違います!!!!!!


黒崎先輩!!!! ゴ○ブリとクワガタを一緒にしないでください!!!


あっちがダイヤモンドなら、こっちはウンコです!


俺は、この仕事を甘く見すぎていたのかもしれない。

便利屋というのは、人の嫌がる仕事を買って出てやって、それで金をもらうのだ。


俺の踏み入れた道は、人として茨の道だったかもしれない。

でも、強くなるための一歩だ。


ゴ○ブリがなんだ!

そうだ、虫だ! 単なる虫だ! 人間にとっては恐るるにたりぬ!!!!


「ゴ・・・ゴ○ブリは、倒した方がいいんでしょうか?」


俺が、部屋の中で段取りを組んでる黒崎に質問した。


「ほっとけ、きりがない」


各場所を点検し終えて、黒崎が指示を出す。


「お前玄関周りの足元を先に片づけろ、俺はトイレと風呂場やる。

 すいませんが、あいつを見ててくれませんか?

 必要なもの捨てそうになったら止めてください」


「はい」と依頼人が申し訳なさそうに返事をする。


俺は、足元を覆いつくす有象無象をみて、ため息が出そうになるのをぐっと我慢した。

玄関ですらこんななのに、水回りは一体どうなっているのか・・・。


考えただけで、気が狂いそうだ。

それを黒崎さんがやってくれてる。ありがたや・・・。いつかは俺も水回りデビューを・・・!


それにしても玄関になんでハンガーがこんなに大量にあるんだよ!

まとめられてない古い雑誌の束、汚れてカビの生えたよれよれの靴たち。


物が泣いてる。

悲鳴をあげて苦しんでる。


そんな気がした。


「ハンガーとりあえず全部捨てますね?

 靴は、必要なものだけちょっと別によけていただけますか?」


俺がそういうと「全部捨てていただいて結構です」とあっさり返事がかえってきた。


アンタにとっては、この可哀想な物達は全部ゴミだったんかい!

全てお金を出して買ったものだろうに。

どれくらい使われたんだろうか?

どれくらいの期間大事にされたのだろうか?


俺は、ゴミ袋に次から次に物を投げ込みならが、なんだか泣きそうになった。

物に情なんて映るものとは思わなかった。

でも、あまりにも無残で。

そんな感傷に浸る余裕なんて本当はなかったんだけど。


しばらくすると、俺の感覚もマヒしてきたのか、機械的に捨てていくようになった。


玄関から廊下にかけて、ようやく足元が綺麗にみえるまでになった。


「玄関と廊下のゴミ片づけ終わりました!」


「OK!! じゃ次部屋の中の床をいったん全部綺麗に片づけろ。それが終わったらクローゼットな。

 俺、キッチンと冷蔵庫やるから」


「了解っす!」


テーブルを中心として、ベッド周り、テレビ周り、タンス周りとずらっとゴミであふれかえっている。

飲みかけのペットボトルの多さに愕然とする。

そして、食べかけの以前は食べ物だったらしきものたち。


とにかく匂いがひどくてひどくて。


依頼主の女は、強い香水の匂いがした。

そんなウソの匂いでごまかしてんじゃねーよ!!!


俺は、いい加減ウンザリしたが、黒崎がてきぱきとおぞましい現場を片づけていってるので、

文句ひとついえず、ひとまずペットボトルを回収した。

ペットボトルがなくなっただけで、ずいぶんマシになった。

次に、食べかけの食料と雑誌類に、書類と空の菓子袋をガンガンゴミ袋に放り込んでく。


5分ほどかけて、ようやく床が見えた。

次に、脱ぎ捨てられているのか、洗濯してたたんでないのかわからない服の山に取り掛かる。


「この服達は、捨ててもよいものでしょうか?」

 

「はい、全部捨てちゃってください」


ごっそり服の山を抱え込んだとき、なにやらぬいぐるみらしきものがあることに気づいた。


「みぃちゃん!!!」


依頼主の女が叫ぶ。


ぬいぐるみと思っていたら、依頼主の飼ってた猫の死骸だった。


まじかよーーーーーーーーーーーーー!!!!


ひからびて、服と服の間に挟まっていた。


ありえねぇえええええええええ!!!


お前に猫なんか飼う資格ねぇから!


「埋めてきます・・・」依頼主は、そういって出て行った。



服の山を片づけ終えて、ようやく部屋が部屋らしくなった。


クローゼットを開けるとそこだけは、まあまあ片付いていた。

どうやら依頼主はこのクローゼットの中で生活していたようだ。


猫の遺体を埋めて戻ってきた依頼主が、クローゼットはそのままでいいといった。

俺は、ひとまず部屋にたまった埃を天上から落とし、掃除機で吸い取っていった。

そのあと、壁、窓、床の順で雑巾がけしていく。


あの汚部屋が信じられないくらい綺麗になった。

黒崎のほうもまた信じられない魔法で、魑魅魍魎がうごめいていた水回りを綺麗に仕上げていた。


所要時間2時間。

料金 13万円


これが高いのか安いのか。

よくわからなかったけど、俺はその金額に見合うだけの仕事はできたと思う。


女性は、深々と頭を下げた。

俺たちは、料金を受け取って、家を後にした。


トラックに乗り込み、そのままゴミ収集場へ向かう。


俺は、疲れ果てて、助手席で大きなため息をついた。

そんな俺をみて、黒崎が笑いながら声をかける。


「お疲れさま。よくがんばったな。

 心が何度も折れそうになったろ? 

 この仕事やってると何やってんだろって気になることがしょっちゅうだ。

 でもな、なんか終わるとスッキリするんだ。

 なんつーか、リセットっていうかな。

 人の家片づけながら、自分の中のゴミも一緒に片づけてる気分になるんだな。

 不思議だよ」


たしかに、俺の今の疲れは、心地よい疲れだった。

なんともしれない達成感と自分自身が浄化されたような・・・。

その不思議な感覚に俺は浸っていた。


「やってけそうか?」


黒崎がぽつりと聞いてきた。


俺は笑顔で答えた。


「がんばります!」



トラックが、郊外の街を走り抜けていく。


初日は、なんとかクリア!

俺は、少しは強くなったかな!





 


読んでいただきありがとうございます。

これはフィクションです。

作者の頭の中で考えたことですのでご了承くださいませ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ