第一話 面接
錦糸町の雑居ビルの中の4Fに虎えもんは入っていた。
錦糸町独特のあの雑多で胡散臭い雰囲気に、虎えもんは馴染みまくっていた。
1Fに虎えもんの立て看板が出してあったが、雨風にさらされてボロボロだった。
これって、マイナスイメージじゃね?と俺は思いながら、狭いエレベータに乗り込む。
4のボタンのところに、「虎えもんへようこそ!」とテプラが貼ってあるのだが、外れかかっており、グダグダ感がひどい。
俺の選択に間違いはないよなと改めて考え始める。
でも、迷う暇もなく、エレベータの扉があく。
エレベータを出ると目の間が壁で、左に階段、右に虎えもんのオフィスへと通じるドアがあった。
上半分がすりガラスになってて、うっすらと中が見える。
俺は、深く息を吸い込み、吐き出す。
行くぞ! 俺!
ドアを開けると、カウンターが執務室と待合室を区切るように部屋の真ん中で区切ってある。
待合室には誰もおらず、執務室内に女性1人と男性3人がいた。
ひとまず、挨拶だ!
「こ・・・こんにちは! 昨日お電話させていただきました八神と申します。
御社でのアルバイトを希望しております。今日は面接に来ました。
ご担当者の方をお願いします!」
元気よく、愛想よく若者らしく挨拶してみたつもりだ。
執務室の一番奥の大きな机に座っていた初老の男性が笑顔でやってきた。
「おお!! 八神君! 待ってたよ! はい、合格!」
「え?!」
俺が戸惑っていると、女性が声をかけてきた。
「うちは、まともに挨拶できて名前言えればひとまず合格なのよ~~。
堅苦しい面接は抜き!」
「そうそう! うちは現場主義だから!
仕事を通じてじゃないとその人のことはわからない!
だから、もしよければさっそく仕事してみない?
今日は大学休むっていってたよね?
うちとしては合格だけど、八神君としてうちが合格なのか見極めてほしいんだよね!
あ、申し遅れました。私が社長の内藤です。どうぞよろしく」
「私は、経理とか総務全般やってる鬼塚で~~す!」
女性が、ひらひらと手をふる。40代くらいだろうか。ちょっと化粧が90年代風だ。
社長の内藤は、たれ目の人のよさそうな軽快なおじさんって感じだった。
「んで、あそこで寝てるマッチョが、高木。
んで、あそこでガン飛ばしてる黒髪ロンゲのイケメンが、黒崎ね」
俺は、「昨日はありがとうございました!」と言って、ぺこりと頭を下げた。
黒崎は黙って会釈をする。
「え? なに? 黒崎と知り合いなの?」
「いえ、昨日うちの家の蜂の駆除をしてくださったんです。
その手際の良さに感動して、俺ここで働きたいって思ったんです!」
「ほう~~~、迷える子羊をさらに露頭に迷わせたな! 黒崎君よぉ~~」
と経理の鬼塚さんが、からかう。
黒崎は、なにも言わずにぎろっと鬼塚のほうを見た。
「そんなことなら、憧れの黒崎先輩の元で修行ってことで!
今、つなぎっていうか制服持ってくるからね。
身長は165cmくらいかな?」
社長が、その辺のケースから適当なつなぎを漁っている。
そ・・・それ、洗濯とかされてるんでしょうか・・・。
社長が、つなぎを鼻にあてて、クンクンしている。
おいおい。
匂いで判断かよ。
「あ、これでいいや。うん、大丈夫そう。着れる着れる」
まじかよーーー!!
「あ・・・ありがとうございます・・・」
この適当さ具合に若干不安になりながら、
黒崎のほうをちらりと見ると、あきらかに面倒くさそうな顔をしていた。
「黒崎くん! 期待してるよ!
この新人君を一日も早く一人で戦える戦闘員に育て上げるのだ!
社長命令だ!」
「へいへい」
黒崎は、背のびをしながら立ち上がった。
「おい、新人、行くぞ。ロッカーの場所教える。もらった制服に着替えろ」
「はい!」
俺は、黒崎の後に続いた。
全く整理整頓のされてないロッカールームに案内される。
ひ・・・ひどい・・・。
「男所帯だからな。うちは。汚ねぇのよ。俺がいくら片づけても2日もたねぇ。
もうあきらめた。ロッカーは、この5番使え。着替えたら仕事行くぞ」
そういって、黒崎は出て行った。
なんか昨日の印象と違う。
まあ昨日は、俺がお客さんで、お金払う側だったしな。
ちょっとクールだけど、悪い人ではなさそうだ。
背も185cmくらいあるかな。ロックでもやってそうなバンドマン風だ。
顔も声もいいとか反則じゃね?
俺は、とりあえず、そんなことを思いながら急いで、支給された制服という名の洗ってあるのかも怪しいツナギに着替えた。
さ~~て今日が俺の初仕事!
便利屋としてのデビューだ!