プロローグ
俺、八神 颯太
Fラン大学一年生文学部所属。
文学なんてこれっぽっちも興味がないのに文学部。
教科書さえまともに読んだことない。
今日も寝坊して、1、2時限目をすっとばした。
入学したての新鮮な気持ちは、1か月もすれば消えた。
あとは、マンネリの日々だ。
おもしろくない授業、面白くないバイト、面白くない俺。
このまま、こんな毎日が続いていくのだろうか。
俺の吐き出す二酸化炭素と体臭で充満した部屋に具合がわるくなり、部屋の窓を一気あけた。
その瞬間、黒い小さな物体が無数に飛んできた。
やべ!!!! スズメバチだ!!!!!
窓を勢いよく、閉めた!
一気に目が覚めた。
俺の知らない間に、奴らはとんでもなくデカい巣をつくってやがった。
どーすんだよ!これ!
こえーよ!
てか、なんで俺いままできづかねーんだよ!!!
俺は、そのときポストに入っていた便利屋のチラシを思い出す。
ゴミ箱にそのまま捨てたような・・・。
ゴミ袋の山の中からチラシの入ってそうなやつを開ける。
あった!!これだ!!
『なんでもござれ! いつでもお役に立ちます!
便利屋 虎えもん 』
ドラえもんのパチもんみたいな名前だったから、憶えてたんだ。
ひとまず、急いで電話をかける。
3コールもしないうちに相手がでた。
「あなたのおそばに、いつでも虎えもん 担当の 岩橋でございます!」
「ああ・・・あの、自分の住んでるアパートに部屋の窓のすぐ近くに、スズメバチがどでかい巣を作ってまして・・・」
「ああ、ハチの巣駆除ですね!!」
「そ・・・そうです。あの・・・いくらくらい費用のかかるもんなんでしょうか?」
「ハチの巣の大きさと駆除の難易度にもよります。
電話である程度聞き取りさせていただければ、概算費用をお伝えすることできますが?」
「あ、お願いします」
「アパートの階数と足場が組めそうな場所があるかと蜂の巣の大きさを教えてください」
「えっと、1階でアパートの前にちょっとしたスペースがあるので、そこに脚立おいて作業できると思います。
ハチの巣は、縦の長さが35cmで横が30cmくらいかなと・・・」
「かしこまりました。概算で12、000円になります。現場で再度確認してお見積りさせていただき、了承いただいた上で作業に入ります。
今お話し聞いた限りでは、15、000円まではいかないかと思われますのでご安心ください。
それでは、駆除の日取りですが、いつを希望されますか?」
「できたら早い方がいいんですが・・・。」
「では、今すぐ向かうこともできますが」
「お願いします!」
俺は、早くこの厄介な奴らとおさらばしたかった。
いくら毎日が面白くないとはいえ、平穏を脅かすものがほしいとは思っていない。
スリルが欲しいわけではない。
俺は、ドキドキしながら部屋で待機した。
散らかりまくった部屋を一応片づける。
ゴミ袋の山をダッシュで捨てに行く。
網戸だけにして、窓を開けたかったが、網戸にはでっかい穴が開いていた。
くそ、使えねぇ~。
そうこうしているうちに、ドアのチャイムが鳴った。
もう虎えもんが来たのだろうか。
ドアを開けて応対する。
背の高い黒髪長髪のイケメンとガタイのいいマッチョが二人立っていた。
「お待たせしました。虎えもんの黒崎とこっちのマッチョが高木です。
ハチの巣の駆除ということですが、ちょっと拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「は・・・・はい。 ちょっと散らかってますが、ひとまず窓から確認してください」
「「お邪魔いたします」」
二人の図体のデカい男と細身でチビの俺とはいえ、3人も入ると6畳一間の部屋が異常に狭く感じられた。
黒髪のロンゲの黒崎が、窓の外を見て、「ああ。なるほど」と言いながら見積書を記入する。
マッチョの高木のほうは、「準備してくる~」といって、外へ出て行った。
「さきほどのお電話で概算をお伝えしたと思いますが、その通りの金額で12,000円で駆除させていただきますが、いかがでしょうか?」
「あ、もうじゃあそれでお願いします」
「了解しました。では、取り掛かります」
そういって、すたすたと俺の横を通り過ぎて、外へ出て行った。
数分もたたないうちに、二人とも白い防護服に着替え、ハチの巣の真下へ来ていた。
「殺虫剤かけろ」
「おう」
手際よく、なんの躊躇もなく蜂の巣へ向かっていく二人。
いくら防御服を着ているとはいえ、怒り狂ったスズメバチが二人の周りを飛び回る。
ぼとぼととスズメバチが地面に落ちていく。
数分間殺虫剤をかけ続け、蜂の動きがなくなったのを見計らって、大きなビニール袋を取り出し、
蜂の巣を覆う。
そして、口をむすび、ハチの巣の根元に切れ目をいれて、左右に少しずつ揺らしながら、根元からちぎりとった。
この間わずか15分。
死んだ蜂を片づけ、道具を収納する。
男たちのその鮮やかな手つきに俺は、ただ茫然とするほかなかった。
かっこいい・・・。同じ男として、こんな仕事人になりたい・・・。
俺は、何かこれまでにない感動と躍動感で胸がいっぱいになっていた。
ただの蜂の巣の駆除だったが、俺にとっては死にそうなくらい怖かった。
それをいとも簡単に、取り除いた彼ら。
年甲斐もなく、ヒーローのように思えたのだ。
防護服を脱ぎ、ロンゲの黒崎が、報告と料金回収にやってきた。
俺は、言われた通りの金額を支払った。
「すごいっすね! 怖くないんですか?」
俺は、アホな子供みたいなことを聞いた。
それまで無表情だった黒崎が、少し笑って答える。
「仕事ですから」
―― これが、俺と虎えもんの出会いだった。
俺は、見逃してなかった。
チラシには同時にアルバイト募集の文字があったのを!
すぐさま電話して、明日面接を取り付けた。
絶対合格してやる!
虎えもんの仕事人として、デビューするのだ!!
読んでいただいてありがとうございます。
まったりと綴っていきたいと思います。
評価、感想お待ちしております。