ミニドラゴンの飛ばし方
『魔物喰らいの冒険者』コミック1巻発売中!
昼食を食べ終わると、俺はシューゲルから貰ったミニドラゴンと操作機を手にして中庭に出る。
操作機のスイッチを押すと、ミニドラゴンが翼をはためかせて上空へと舞い上がった。
俺は操作機のボタンを押しながら自由にミニドラゴンを飛行させる。
やっぱり、自由に飛ばせられるっていいな。
ミスフィード家の庭もかなり広いんだけど、好き勝手に魔道具を操作してミニドラゴンを飛ばすのは憚られるからね。うっかり室内で飛ばして調度品などを壊してしまえばとんでもない金額が請求されそうだ。
でも、ここはエルナ母さんの実家の庭なので安心だ。
庭で孫が魔道具で遊んでいようが怒るような者はいない。
「アル! そいつはなんだ!?」
俺が庭で遊んでいると、ラザレスお爺ちゃんがやってきた。
「ミニドラゴンだよ。シューゲル様から貰ったんだ」
説明しながらミニドラゴンを飛行させる。
左から右へ。右から左へと飛ばすと、それを追いかけるようにラザレスお爺ちゃんの視線も動いて面白い。
「すごくない? 翼だけじゃなく、首や尻尾も動かせるんだよ」
「すごいじゃないか!」
動きがわかるように近くにミニドラゴンを滞空させると、ラザレスお爺ちゃんが目を輝かせる。
「え! お爺ちゃんにもこの良さがわかるの!?」
「当たり前だ! ドラゴンだぞ!? こんなにも精巧なものを魔法も無しで飛ばせるとは素晴らしい!」
「だよねだよね!」
王都にいる人はミニドラゴンの良さをわかってくれない者ばかりだったのでテンションが上がった。
さすがはラザレスお爺ちゃん。この中では一番年を召しているはずだが、少年の心を忘れずに持っているようだ。
「アル、わしにもやらせてくれ!」
「いいよ」
ラザレスお爺ちゃんも興味があるみたいなので俺は快く操作機を渡した。
「どうやって動かすんじゃ?」
「こっちのボタンが上下左右への移動で、こっちのレバーを押しながらボタンを押すと水平にだけ移動するよ」
「なるほど! やってみよう!」
ラザレスお爺ちゃんがボタンを押してミニドラゴンを操作した。
すると、ミニドラゴンがふらふらと宙を飛ぶ。
上下左右に不安定に飛んでいる様子はまるで蠅が飛んでいるかのようだ。
……なんか美しくない。
「くっ、意外と操作が難しいぞ!」
ミニドラゴンの姿勢を安定させようとラザレスお爺ちゃんは奮闘するが、焦って逆のボタンを押してしまったり、誤って水平移動専用のレバーを押してしまったりしていた。
「貸してお爺ちゃん」
「待て! もうちょっとやればコツが掴めるはずだ!」
俺が手本を見せようとするがラザレスお爺ちゃんはすっかりと意地になっているようで操作機を返してくれなかった。
「あなた、孫から魔道具を借りているというのにみっともないですよ」
そんな様子を見かねたのかエレーナお婆ちゃんが縁側の方から呆れた声が飛んできた。
隣でお茶菓子を食べているエルナ母さんもどこか呆れた顔だった。
「うう、すまん。アル」
「交代で遊んでくれるなら別にいいよ」
これにはラザレスお爺ちゃんも我に返り、バツが悪そうに操作機を返してくれた。
俺が人生二周目じゃなかったら拗ねていたかもね。
操作機を返してもらった俺はラザレスお爺ちゃんに手本を見せるようにミニドラゴンを飛ばしてみせる。
「むむ、アルはミニドラゴンを飛ばすのが上手いなぁ」
「魔法で何かを操作することに慣れているからね」
サイキックを使用し、遠隔で物を操作することに慣れているし、前世の子供の頃にラジコンで遊んでいた頃の経験もある。空間魔法を扱っているお陰か空間把握能力にも自身があるので枝葉の間だろうがすいすいと飛ばすことができる。
「しかし、飛行は上手いが、どこか動きがぎこちないな」
「そうなんだよね。俺はドラゴンを見たことがないから」
図鑑などでイラストを見たことはあるが実際に飛んだ時の様子を見たことがない。
人形操作で培った経験を元にやってみてはいるが、どうにも違和感が拭えなかった。
恐らく生物としてリアリティが足りないのだろう。
「お爺ちゃんはドラゴンを見たことがある?」
「無い」
ラザレスお爺ちゃんはきっぱりと告げた。
そうだよね。普通に生きていたらドラゴンを目にすることなんてないよね。
「しかし、あいつならあるじゃろ?」
ラザレスお爺ちゃんが顎で示した先には、エルナ母さんの隣でぼんやりと縁側に座っているノルド父さんがいた。
……そっか! ドラゴンスレイヤーであるノルド父さんならドラゴンに詳しいに違いない。
そう思った俺はノルド父さんの方へと駆け寄る。
「ノルド父さん、ドラゴンの動きを教えて」
「え? ドラゴンの?」
「うん、ミニドラゴンをもっとカッコよく飛ばすために必要なんだ」
いまいちピンときてない様子だったが、俺は気にせずにノルド父さんを庭へと連れ出すことにした。
「ノルド、ミニドラゴンのカッコいい飛ばせ方を教えろ!」
「カッコいい飛ばせ方がどのようなものかはわかりませんが、僕が知っているドラゴンの動きや知識を教えましょう」
偉そうなラザレスお爺ちゃんの言葉にノルド父さんは苦笑しつつも頷いてくれた。
「ノルド父さん、ドラゴンってどうやって飛んでるの?」
「ドラゴンが空を飛ぶ原理なんだけど、翼で飛んでいるわけじゃないよ」
「「え! そうなの!?」」
「立派な翼があるから誤解されがちだけど、翼はあくまで飛行を補助するための部位でしかないんだ」
「じゃあ、ドラゴンはどうやって飛んでるの?」
あんなに大きな翼があるのに補助でしか使わないなんて意味がわからない。
「ドラゴンがあの巨体を浮かべられるのは風魔法のお陰さ。翼はあくまで飛んでいく方角の制御だったり、飛行による魔力を無駄に使わないように滑空するのに使うんだ」
ノルド父さんからもたらされるドラゴンの飛行の仕組みに俺はショックを受けてしまう。
「え? じゃあ、翼をはためかせてもドラゴンは空を飛べないの?」
「そういうことになるね」
「嘘を言うな! ノルド!」
「そんなのドラゴンじゃない!」
翼をはためかせても飛べないなんてそんなのはドラゴンじゃない。
ノルド父さんはきっと嘘をついているに違いない。
「嘘じゃないし、これは事実だよ! 僕は実際のドラゴンをこの目で見たことある! なんなら倒したことだってあるし、解体だってしたんだよ!?」
俺とラザレスお爺ちゃんが目を三角にして糾弾すると、ノルド父さんが必死の表情で事実だと訴えてくる。
「二人ともノルドの言っていることは事実よ。ドラゴンは身体には飛行を制御する風属性の魔石が肉体のどこかに埋め込まれているの。それを壊さない限り飛行能力を奪うことはできないわ」
俺たちが騒いでいるとエルナ母さんが援護射撃をしてくる。
「くう、エルナまでもがそう言うのであれば本当なのか……」
「そんなのドラゴンじゃない! 俺たちの知っているドラゴンは翼を立派にはためかせて悠々と空を飛ぶんだ!」
方角の調整や滑空するための魔力制御が翼の役割だなんてそんなのモモンガやムササビと変わらないじゃないか。
「ドラゴンスレイヤーの本の挿絵や劇ではちゃんと翼で飛んでいたよ?」
「あれは誇張された表現とわかりやすい演出ね。アルと同じように誰もがドラゴンは翼で飛ぶものと思い込んでいるもの」
僅かな希望に縋るように指摘してみせるが、エルナ母さんは動じることなくぶった切った。
なんということだ。俺たちは騙されていたらしい。
「ついでにモチーフになっている僕たちの台詞だけどかなり違うからね?」
ノルド父さんがそれとなく劇の脚本と現実が違うことを訂正してこようとするが、そんなものはどうでもいいので聞き流す。
「じゃあ、二人とも。翼で飛んでいると想定した場合のドラゴンの動きを教えてよ」
「だからドラゴンは翼では飛ばないのよ?」
「わかっている。だけど、翼で飛んだ方がドラゴンはカッコいいし、そっちの方がロマンがあるんだ」
現実のドラゴンが俺たちの想像とかけ離れているのであれば、俺たちが理想とするドラゴンの動きを作り上げればいい。
きっとドラゴンスレイヤーの小説の挿絵を描いた人も、劇の演出を担当した人も俺と同じことを考えて作ったのだろう。人々の思い浮かべるドラゴンはこうであると。
だったら俺も人々の夢を壊さないように感動とロマンを与えるべきだ。
俺がそのように主張をすると、エルナ母さんとノルド父さんは理解ができないような表情を浮かべたけど、なんやかんやとドラゴンの動きについて教えてくれるのだった。




