魔法についての考え方の違い
ハッピーバレンタイン!
ラーちゃんの直球な疑問の言葉にギデオンが崩れ落ちる。
「黙れ! 今に見ていろ! お前よりも多くの詠唱破棄を獲得し、いずれは無詠唱を使いこなしてみせる!」
そんな捨て台詞を吐くギデオンにラーちゃんは目を丸くして驚いている。
シンプルに自分よりも年上の兄ができないとは思っていなかったらしい。
……うん、変にからかわれるよりもこっちの方が心にくるかもしれない。
バカにはされないが、ギデオンが懸念していた以上のことが起こってしまった気がする。
「詠唱破棄は難しいよ?」
「凡夫なラーナにとってはそうでも天才である俺にとっては簡単だ」
ラーちゃんは俺の厳しいサイキックの訓練にもついてきて無事に詠唱破棄ができるに至った。四歳でありながらこれだけの魔法技術があることを考えると、天才だと思うのだがミスフィード家の中で
はそうでもなかったりするのだろうか?
「さあ、アルフリート。俺に詠唱破棄について教えろ」
「その前にギデオン様の知っている魔法を発動する原理を説明してもらっていいでしょうか? 昨夜にちらっと言っていたことを」
なんか魔法とは魔力を練り上げ、魔法言語を云々とか彼は言っていた気がする。
「なにを今更なことを言っているのだ?」
「いいからお願いします」
教えろって言われても、正直俺は魔法学園とやらに通っているわけでもないし、ギデオンの方が魔法の知識については遥かに上だと思う。そんな彼が詠唱破棄をできないっていうのは、詠唱破棄や無
詠唱に対する間違った認識をしているのではないだろうか?
「魔法とは魔力を練り上げ、魔法言語である呪文を紡ぐことによって発動する力のことだ。命令式である呪文をすっ飛ばして現象を起こすなどあり得ない」
怪訝な表情を浮かべるギデオンだが、圧を強めると渋々ながらも昨夜に少し語ってくれた魔法理論を丁寧に説明してくれた。
それをひと通り聞いた俺は思わず首を傾げる。
「んー、なんか俺の知っている魔法の定義と違いますね」
「……どういうことだ?」
「魔法とは願いであり、人それぞれのイメージによって詠唱は異なり、具現化する現象も異なるものではないのですか?」
「なんだその曖昧な定義は? それでは俺たちの想像で魔法が発動すると言っているようなものではないか」
「ええ、まさにその通りですけど?」
少なくとも俺はそれで魔法が発動できている。
「魔法言語による詠唱はあくまで人々の想像を補うためものであり、魔法の安定化を図るために命令式があるのだと俺は思っているのですが……【火球】」
試しに火球をイメージして魔力を流してみると、俺の手の平に火球が生まれた。
「ば、バカな……!?」
詠唱することなく魔法を発現させると、ギデオンが酷く驚いた様子で後退った。
さらに生み出した火球の形を大きくしたり、細長くしたり、小さな竜を模した形にするとギデオンは目を大きく見開く。
「これで想像による魔法の発現ができると理解してもらえたでしょうか?」
「それでは俺がやってきたことは、凡夫どもが使うための画一的な魔法を学んでいただけだったのか?」
わなわなと身体を震わせながら言葉を絞り出すギデオン。
言いたいことはわかるけど、ちょっと言い方が酷い。
「いえ、想像による魔法の発現は不安定な部分も多いので、いつでも安定した速度で安定した出力を出すことのできる魔法も大事だと思いますよ。想像というのは意外と曲者でちょっとした想像のずれ
などによって発現する現象が異なる結果になってしまったり、思いもよらない魔力消費を強いられることもありますから」
実際に戦闘をすることになれば、そういったずれは命取りになってしまうのでどんな時でも安定的に発動できる魔法は素晴らしいものだと思う。
まあ、俺は無詠唱での発動に慣れてしまっているので、逆に詠唱をすると魔法が不安定になってしまうので唱えることはほとんどしないんだけど。
「アルフリートの言っている曖昧な理論とやらでラーナもできるのか?」
「できるよ。【サイキック】」
ラーちゃんは自らのヘアゴムを外すと、詠唱破棄をしたサイキックで宙に浮かべた。
「な、なんだとッ……!?」
ギデオンが怪奇現象でも見てしまったかのような表情を浮かべた。
そんな兄の様子を見て、ラーちゃんはご満悦の表情を浮かべてヘアゴムで髪をくくる。
が、自分では上手く結べないらしく、かなり不安定なツインテールとなってしまっていた。
上下の位置がずれている上に左右で房の大きさが違う。ラーちゃん自身もそれがわかっているのだろう。自らの髪を触って不満そうにしている。
「アル、結んで」
「いいよ」
俺はラーちゃんからヘアゴムを受け取ると、白金色の髪を丁寧に束ねてあげた。
「よし、可愛くなった」
「ありがと!」
髪が左右均等になって嬉しいのかラーちゃんが嬉しそうに笑う。
「……なぜ貴様は男の癖に髪を結ぶことができるんだ」
「日常的に姉の髪を結んでいますので」
「いや、それは使用人の仕事だろう」
そうなのだろうか? 少なくともスロウレット家では弟の仕事だ。
エリノラ姉さんの教育により、シルヴィオ兄さんも簡単なヘアアレンジをすることができる。
「さて、ギデオン様も想像で魔法を発動してみましょうか」
「あ、ああ。そうだな。凡夫のお前たちがやってみせているのだ。俺にできないわけがない!」
ギデオンは強気な台詞を言い放つと、腰から短い杖を抜き放った。
「【火球】ッ!」
高々と魔法名を叫んだがギデオンの杖の先からは、魔法の発動兆候である魔法陣すら浮かび上がることはなかった。
「「…………」」
「【火球】【火球】」
ギデオンが魔法名を連呼するが、杖の先からは火球が出現する気配はまったくない。
そんな彼を俺とラーちゃんは無表情で見守る。
あれだけ強気な台詞を言っていただけにどう声をかけたらいいのかわからない。
「これは何かの間違いだ。ラーナにできて俺にできないわけがない……おい! 魔道人形を持ってこい!」
ギデオンが命じると、周囲に控えていた使用人たちがえっちらおっちらと黒い物体を持ってきた。使用人たちが地面に設置したのは黒い全身鎧を身に纏った人型の的だ。
「なんだかただの的じゃなさそうですね?」
「強靭で魔力抵抗の高いアダマンタイトを宮廷鍛冶師に加工して作らせている。ちょっとやそっとの魔法では壊れはしない」
アダマンタイトってかなりの高級品だったよね? 武器や防具にするでもなく、ただの的に使ってしまうんだ。
「というか、なんでわざわざ的なんて出すんです?」
「攻撃用の魔法じゃないと面白くないだろ」
別に的にぶつけるなんてことはしなくても水球や火球をその場で出すだけでいいと思うんだけど、ギデオン的にはしっくりこないらしい。
まあ、本人が一番やりやすいのであれば、文句をつけることはない。
「今度こそどうだ! 【火球】ッ!」
ギデオンが魔道人形目掛けて杖を放ちが、火球が発動することはなかった。
「ダメみたいですね」
「くっ、俺の脳内はいつの間のか凡夫の画一魔法に汚染されているというのか……」
言い方は酷いが、ギデオンはすぐに詠唱破棄ができない自分を受け入れたようだ。
無理もない。急に想像で魔法が発現すると言われても難しいだろう。
「まずはじっくりと想像で魔法が発動できるという認識を持てるようにしましょう」
「……そうだな。よし、俺がその認識を持てるようにアルフリートが魔道人形に魔法を放てみろ」
自身の不甲斐なさを認識したとはいえ、その上から目線の物言いは変わらないらしい。
ここまで態度が一貫しているとかえって清々しいものだ。
「いいですよ」
自身と同じ魔法が詠唱破棄でも行われている光景を何度も見れば、ギデオンも魔法が想像で発動できることに対して強い認知を持つことができるだろう。
「その前にあの魔道人形簡単に壊れたりしませんよね?」
「魔法耐性の高いアダマンタイトを使っていると言ってるだろう。そんな心配はいらん」
そう言われると、どのくらい防御力があるのか気になる。
アダマンタイトに魔法をぶつけるなんて経験は早々無いので少しだけ威力を高めてみるか。
俺は右手を掲げる。
魔法陣が展開し、右の手の平に小さな炎が収束していく。
生成した火球は小さいが魔力圧縮が行われているために密度と威力は高い。
バグダッドに向けた魔法に比べれば威力は児戯に等しいものであるが、これくらいならアダマンタイトで作られた魔道人形も耐えられるだろう。
「【火球】」
後ろでややギデオンがたじろいだような声を上げるが、俺は構わずに詠唱破棄で火球を射出した。
ヒュンッと音を立てた俺の火球は魔道人形へと一直線に突き進んで直撃した。
そして、魔道人形とやらが爆散した。
「あれ?」
慌てて近寄ってみると、魔道人形とやらは木っ端微塵になっていた。
それはもう言い訳の余地もないレベルに。
「ギデオン様、魔道人形が壊れたんですけど……」
「当たり前だ! あんな魔力密度の魔法を放てば、いくらアダマンタイト性の魔道人形であろうと壊れるに決まっている!」
ええー? バグダッドの一件もあったから一応威力は抑えていたつもりなんだけどな。
攻撃魔法ってあんまり使う経験がないからか威力の調節をするのが難しい。
「すごーい! パパ以外で魔道人形を壊している人、初めて!」
壊れた魔道人形を見て、ラーちゃんが目をキラキラと輝かせていた。
どうやらシューゲルも魔道人形を壊せるくらいの威力の魔法を放てるらしい。
さすがはミスフィード家の当主であり、魔法学園の長だな。
「……あの、これの修理費用とかって」
これほどのアダマンタイトを使用し、宮廷鍛冶師に作らせている特注の品だ。安いわけがない。
「フン、魔道人形一体を壊したくらいで費用を請求するほど狭量ではない。仮にも魔法技術を教わっている身だしな」
「ありがとうございます」
ミスフィード家の財力を示すように追加の魔道人形を並べる使用人たち。
本当にお金というのはあるところにたくさんあるようだ。羨ましい。
俺ももっとお金持ちになれば、いい材質の素材を集めて、高クオリティの玩具なんかを作って優雅にスローライフをおくりたいものだ。
私にチョコをください。




