両親へのお土産
お出かけを終え、ミスフィード家の屋敷の寝室でまったりしていると扉がノックされた。
返事をすると、扉を開けてミーナが入ってきた。
「どうしたの?」
「アルフリート様宛に品物が届いています」
ああ、午前中に買った魔石細工の商品だが、既に屋敷に届いているようだ。
さすがは高級店。即日の配達だな。
「こちらに運びますか?」
「うん、お願い――いや、やっぱり俺も運ぶのを手伝うよ」
品物の値段が値段なのでミーナ一人に運ばせるのはとても怖い。昨日の朝もミスフィード家の食器を落として割りそうになっていたからね。
「大丈夫ですよ。そこまで重い物でもありませんし、アルフリート様は休んでいてください」
「あっ、そう? 気を付けて運んでね? 落っことしたら割れちゃうかもだし、一つで金貨三十枚以上とかするから」
楽できるのならそれに越したことはない。ミーナが責任を持って運んでくれるというのなら素直に頼むことにしよう。
「すみません! 手伝ってください! 私一人だと手が震えて落っことしてしまいそうです!」
注意事項を伝えると、けろりとしていたミーナが深く頭を下げて頼んできた。
「う、うん。そうしようか……」
使用人としてどうなんだと思わないでもないけど、もしものことを考えれば俺も同じことをするだろうから叱責することもできない。
高級品を無理矢理運ばせるのも可哀想なので手伝うことにした。
ミーナに案内してもらって一階まで降りると、エントランスの端にいくつものトランクケースが置
かれてある。
品物が高額だけに木箱なんて粗末な包みをしていないようだ。
ケースを少しだけ開けてみると、中には大量の緩衝材が入っている。それらをかき分けると、魔石ランプが収納されているのが見えた。
うん、間違いなく俺の買った品物だな。家族全員の分がしっかりとある。
「それじゃあ、運ぼうか」
「はい」
ミーナが二つのトランクを手にし、俺は残りの三つのケースをサイキックで浮かべる。
全部、俺が運んだ方が安全で楽だけど、よそ様の屋敷で使用人が何も物を持たないというのもよろしくないからね。
廊下を進んでいくと、やがて二階への階段に差し掛かる。
何気ない階段だが、両手に高価な割れ物を持っているとなれば話は別。
ミーナは階段を前にして緊張の表情を浮かべていた。
「大丈夫。俺がいれば、ミーナが階段で転んだとしても品物は守ってあげるから」
「アルフリート様! ――って、あれ? それって転げ落ちる私はスルーってことですか!?」
「そっちはどうしようもないかな」
「……私の感動を返してください」
サイキックは人間に直接の効果は及ばないから仕方がない。
他の魔法を使えば何とかなるかもしれないが、それは俺の反射神経次第。
咄嗟の状況で品物より、ミーナを優先して守る自信が俺にはいまいちなかった。
とはいえ、商品の安全が保たれていると聞いて安心したのだろう。
ミーナから緊張が抜け、無事に寝室に運び込むことができたのだった。
●
「さて、どうしようかな……」
寝室でトランクを前にして俺は悩む。
割れ物なので亜空間に収納して持ち帰るのが一番安全だ。
しかし、ミスフィード家の屋敷に送ってもらった手前、ミスフィード家の使用人やエルナ母さんたちも購入を知っている可能性が高いな。
「アル、入るわよ?」
なんて悩んでいると、ノックと共にエルナ母さんの声が響いた。
返事をすると、エルナ母さんだけでなくノルド父さんも入ってきた。
「屋敷に品物が届いていたけど何を買ったの?」
「厳重なケースをいくつも運んでいたから気になってね」
亜空間に収納していなくてよかった。
ついさっきミーナと一緒に運び込んだのに、部屋になければどこに隠したのかと怪しまれるところだった。
「魔石細工だよ。主にランプを買ったんだ」
「ランプ?」
「うん、綺麗な光を眺めながら寝たいと思ってね」
「その理由を聞くと、アルらしいね」
買った理由を述べると、ノルド父さんがクスリと笑った。
「それにしても随分と買い込んだわね……?」
五つもケースがあっては爆買いしたと思われても不思議ではない。
「皆へのお土産だから。一応、二人の分もあるよ」
「あら、どんなものかしら?」
「見せてくれるかい?」
両親へお土産ってなんか恥ずかしいけど、ここまで目を輝かせられると嫌だとは言えない。特にノルド父さんは息子からのお土産が嬉しいのか、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
期待の視線を浴びながら、ケースを開けてS字ランプを取り出した。
「綺麗なランプだね」
「でしょう?」
テーブルの上に置かれた一対のS字ランプ。非対称になっている二つのランプは光を灯さずとも、透き通っていて美しい。
ノルド父さんが感嘆の声を上げる中、エルナ母さんは真剣な顔でランプを見つめていた。
「……この美しい魔石の加工技術に洗練されたデザイン……もしかして、オーケン魔石細工店のランプ?」
「多分、そこだね」
店の看板は見てなかったけど、店主はオーケンだったので間違いないと思う。
「あそこは紹介制のお店で貴族であっても入れないはずだけど」
「ラーちゃんが紹介してくれたから入れたんだ」
「なるほどね」
疑問が解けたとばかりに頷くエルナ母さん。
平然としているけど、ちょっと羨ましがっている気がする。
紹介制だからいきなり二人を連れていけるかはわからないけど、王都滞在中に時間が余っていたら、連れていってもいいか聞いてみよう。
「光が見たいわ」
「うん、つけるね」
エルナ母さんの要望に応えて、俺は室内の灯りの魔道具を切り、テーブルの上にある二つのランプに魔力を込めた。
すると、暗くなった室内を淡い二つの光が照らした。
「まあ、綺麗だわ」
「うん、本当に……」
透き通るグリーンとブルーの魔石の輝きを見て、二人がため息を吐くかのように呟いた。
キラキラとした光は宝石のように幻想的な美しさをしている。
「ねえ、アル。どうしてこれを私たちに買ってくれたの?」
しばらく光を眺めていると、エルナ母さんがポツリと尋ねてきた。
急にこんな綺麗なランプを俺が買ってきたら不思議に思うよね。
こういうのをお土産にするのが柄じゃないと自分でもわかっているから、絶対に聞かれると思っていたよ。
「……二人のイメージにピッタリだと思ったからかな」
「うふふ、そう……ありがとう、嬉しいわ」
「ありがとう、アル」
そう答えると、エルナ母さんとノルド父さんが身を寄せてきて頭を撫でた。
「ただのお土産だよ」
「それでもアルが僕たちのことを考えてくれたのが嬉しいのさ」
なんでお土産を買った方がこんなにも気恥ずかしいのだろう。
だけど、二人が喜んでくれたのなら買った甲斐があるというものだ。




