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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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空のお散歩

『解雇された宮廷錬金術師は辺境で大農園を作り上げる』グラストノベルスから新作スローライフが書籍となって発売中です。よろしくお願いします。


 ネームに見送られて、俺とラーちゃんは寝具店を出る。


「いい買い物ができたね」


「うん! 新しい枕で寝るのが楽しみ!」


 ラーちゃんも自分だけの枕を作ることができて大満足のよう。


 届くのは一週間後。睡眠羊の枕を使って眠るのが非常に楽しみだ。


「もうすぐ夕方だね」


「……うん」


 ふと空を見上げれば、太陽がゆっくりと傾き始めている。


 あと一時間もしないうちに王都は茜色に染まっていくだろう。

 ラーちゃんを連れている以上、あまり遅い時間に帰宅するのはよろしくない。


 ラーちゃんも門限が迫っていることがわかっているのか、空を見つめる顔はどこかしょんぼりとしている。


 まだ遊び足りないのだろう。


「ラーちゃんにはいくつものお店を案内してもらったし、最後は俺がおすすめの場所に案内してもいいかな?」


「うん! 案内して!」


 王都に住んでいない俺におすすめの場所があるというのも変な話だが、ラーちゃんは特に懐疑的な言葉を放つことなく頷いた。


 ラーちゃんが同意すると、俺は通りを南下していく。


「馬車はこっちだよ?」


「俺のおすすめする場所は馬車じゃ行けないんだ」


 これから案内する場所は空だ。馬車で行けなくもないけど、かなり目立つし、風情がなくなってしまう。


 曲がり角を曲がって人気のないところに入ると、俺は無属性魔法のシールドを発動。


 二メートルほどの平べったい直方体を作り上げると、空への階段になるように連続作成。


「わっ! シールドがこんなにたくさん!」


 何百枚と出現したシールドにラーちゃんが驚きの声を上げる。


「これから空の散歩に行くよ。危ないから手を繋いでも大丈夫かな?」


「うん!」


 手を差し伸べると、ラーちゃんは小さな手を重ねてくれた。


 落っこちないようにシールドは大きめに設定しているけど、万が一のことがあったら怖いからね。


 もし、落下してしまっても俺と密着さえしていれば瞬時に転移ができるので安全だ。


 準備が整ったところで俺とラーちゃんはシールドの階段を登る。


「空への階段だ!」


 コツコツと階段を登っていくごとにラーちゃんは嬉しそうな声を上げていた。


 本日のラーちゃんの服装は空色のドレスだ。


 不届き者がいれば、下からあられもない姿が見えてしまう。


 高度が上がれば視認されることはないだろうが、もしものことがあるので俺はシールドに魔力を込めて、透けないように濃度を変更しておいた。


 俺とラーちゃんは手を繋ぎながらコツコツとシールドの階段を登っていく。


 いくつものシールドを乗り越え、結構な高さになってきた。


 俺は慣れているから平気だけど、ラーちゃんは怖くないのだろうか。


「大丈夫? 怖くない?」


「平気!」


 心配になって尋ねると、ラーちゃんはにっこりと笑いながら答えた。


 特に無理をしている様子はない。本当に平気で、この状況を楽しめているようだ。


 無邪気さ故に恐怖心が薄いのかもしれない。平気ならもっともっと高く進んでみよう。


「シールドってこういう使い方ができるんだ」


「薄く水平に展開してやれば足場にできるし、ちょっとした物置き代わりとしても使えるよ」


「アルの魔法の使い方って、変だけど面白いね」


「戦闘用の魔法を練習したところで戦い以外では使えないからね。俺は戦闘なんてしないから生活に便利な魔法を練習して使うよ」


 生涯に何回かしか使わない魔法よりも、生涯使い続ける魔法を練習し、習得した方がよっぽど人生が豊かになると俺は思う。


「わたしもアルみたいな便利な魔法が使えるようになりたい!」


 ラーちゃんも俺の魔法論に賛同してくれるようだ。実に素晴らしい。


「じゃあ、ラーちゃんも練習だね。この先の足場を作ってくれる」


「わかった!」


 ちょうど続きの階段がなくなってしまったので、追加分は練習も兼ねてラーちゃんに作ってもらう。


「『我は求める 堅牢なる魔力の障壁を』」


 サイキックは使い慣れたために詠唱破棄ができるようだが、シールドはできないみたいだ。


 まあ、そこはサイキックと同じように練度を高め、面倒くさい精神が芽生えればできるようになるだろう。


 ラーちゃんが呪文を唱え、階段の続きとなる障壁を作成してくれる。


「どう?」


「障壁全体にしっかりと魔力が張り巡らされているね。いいシールドだけど、もうちょっと魔力を薄くできる?」


 ラーちゃんの作成してくれたシールドは戦闘用として評価するなら問題ないが、ただの足場にするには魔力が多すぎる。


 このまま作成していけば、ラーちゃんの魔力量では二十枚ほどで底を尽きてしまう。


「これ以上薄くすると壊れない?」


「大人二人ならそうかもしれないけど、俺たちは子供で軽いからね。今の魔力の半分以下でいいよ」


「わかった。やってみる」


 ラーちゃんがもう一度呪文を唱えてシールドを展開。


「どう?」


「いい感じ!」


 先ほどよりも魔力量がしっかりと抑えられている。障壁としては頼りない強度だが、足場にするだけならこれで十分だ。


 俺とラーちゃんが足を踏み出して乗ってみるも割れることはない。


「本当だ! アルの言った通りだ!」


 自分の作り出した障壁の上でピョンピョンと跳ねるラーちゃん。


「極限まで魔力を節約すると、これくらいのシールドでもいけるよ」


 そう解説しながら俺は魔力を極限まで薄めた状態のシールドを展開した。


「え? こんなに少ない魔力じゃ壊れるよ?」


「大丈夫。割れる前にすぐ移動するから」


 俺はラーちゃんも手を引いて薄いシールドに乗る。


 そして、すぐに次の障壁へ移動。


 後ろでは二人分の体重を受け止めた衝撃で小さなシールドが割れていた。


「一瞬の足場になればいいから、その瞬間だけ耐えられればいいんだ」


「なるほどー」


 教本にある魔法は戦時を基本としていることが多いからね。生活に落とし込むために、余分なところは削って調整するのがいいと俺は思う。


 そんな感じでラーちゃんのシールドを練習しながら移動。


 気が付けば、俺たちは王都の遥か上空に到達していた。


 ここまでくれば王都の景色を一望するには十分だ。


 俺は足場となっている障壁を十メートルくらいの大きなものにし、転落しないようにシールドを変形させて手すりなどを作る。


「わー!」


「どう? 空から眺める王都の景色は?」


「すごく綺麗!」


 遥か上空から見下ろす王都の景色に大興奮のラーちゃん。


 俺の手を引っ張りながらあっちこっちとシールドの上を移動し、様々な角度から王都を眺め始める。そんな姿がとても微笑ましい。


「ミスフィリト城と同じくらいの高さだ」


「そうだね」


 そういえば、ミスフィリト城といえば、前回エリックと共に空に避難してきた時に可愛らしいお姫様がいたっけ。そんなことを思い出して、瞳に魔力を集めて視力を強化。


 お姫様のいた窓に視線を向けてみると、桃色の髪をしたメイドさんが見えた。


 随分と鮮やかな桃色の髪だ。冒険者のイリヤと髪色がとても似ている。


 イリヤのお姉さんは尊い人に仕えているメイドだとか言っていたけど、あそこにいるメイドだったりして。


 ちなみにメイドさんは見えるものの前回手を振ってくれたお姫様は見えない。


 場所を変えれば見えるかもしれないが、なんだか人の部屋を覗き見しているようで憚られた。今でもかなりグレーだし、これ以上視線を向けるのはやめておこう。


「ラーちゃんの屋敷はどこかな?」


「あそこ!」


 尋ねると、ラーちゃんがすぐに方角を示してくれた。


 さすがは王都に住んでいるだけあって土地勘はバッチリのようだ。


 指先を辿ると、真っ白な壁に青い屋根をしたミスフィリト家の屋敷が見えた。


 敷地が広いために外から覗くことはできないが、さすがに上空からはよく見える。


 というか、こうして上から見ると改めてミスフィリト家がどれだけ広い土地を所有しているか一目

瞭然だな。


 俺とグレゴールの遊園地計画に乗って、土地を確保するとか言ってくるのも納得だ。


「あっちが魔石加工のお店で、こっちがお昼を食べた屋台街だね」


 ラーちゃんが指さす。俺たちが今日巡った場所をなぞるように。


「あそこが中央広場ですぐ下にあるが寝具店だね。店の前には慌てふためいたロレッタが――」


 となにげなく呟いたところで俺とラーちゃんの思考が止まった。


「ロレッタ!」


「寝具店で寝かせたまま忘れてた」


 注文が終わったら起こしてあげようと思っていたが、すっかりと忘れていた。


 それはラーちゃんも同じだったらしく、たった今思い出したと言わんばかりの表情だ。


「ロレッタと合流しようか」


 ロレッタの顔が可哀想なくらいに真っ青になっている。


 早く合流しなければ大事になりかねない。


「えー、もうちょっと空のお散歩したーい」


「また一緒に出かけるから、その時に一緒に空のお散歩をしよう?」


「わかった! なら帰る!」


 もう一度遊ぶ約束を交わすと、ラーちゃんはすんなりと頷いてくれた。


「ん!」


 シールドの階段を降りようと足を踏み出すと、ラーちゃんが手を差し出しながら言った。


 短い言葉であるが、さすがにラーちゃんが何を求めているかわからない俺じゃない。


 手を繋ぐと、俺たちはシールドの階段を駆け下りた。


「ラーナ様、アルフリート様、申し訳ございません!」


 シールドの階段を駆け下り、ロレッタと合流すると彼女は深く頭を下げて謝罪した。


「いや、睡眠羊の枕を試してみてって言ったのは俺たちだから気にしないで」


「うん、気にしなくていいよ」


「うう、ですが……」


 などとフォローしてみるが、ロレッタは罪悪感が半端なさそうだ。


 理由があるとはいえ、仕事中に眠ってしまって主とはぐれるなんてお付きの侍女からすれば大きな失態だろう。


 とはいえ、どんなに真面目な人でも疲労していれば睡眠羊のフェロモンは眠りの本能へと誘う。ロレッタがどれだけ気を張っていても抗うのは無理だ。


「さて、そろそろ屋敷に帰ろうか」


「そうだね」


 ロレッタと合流すると、俺とラーちゃんはお店の前で待機していた馬車に乗り込む。


「ロレッタも早く!」


「あ、はい!」


 ラーちゃんが呼ぶと、落ち込んでいたロレッタも遅れながらも乗り込んだ。


 今回のことは仕方のないことだし割り切ってもらうしかない。


 ちょっと微妙な空気の中、馬車はミスフィード家の屋敷へと移動。


 ミスフィード家の屋敷にたどり着く頃には、空の色が薄暗くなってきてちょうど玄関の魔石灯が点灯し始めた頃だった。


 よかった。完全に暗くなる前に帰ることができて。


 ホッとしながらラーちゃんと一緒に馬車を降り、ロレッタが入り口の扉を開けてくれた。


 屋敷に入ると、ミスフィード家の使用人たちの他に何故かシューゲルまでもが出迎えに立っていた。


 俺を見た瞬間、彼の眉間に深いしわが寄って身体が震え始めた。


 ラーちゃんと日が暮れるまで遊んでいたので怒っているのだろうか? いや、でもまだ夕方だし、夜って言えるほどの時間帯ではない。俺たちの年齢を考えれば健全な時刻での帰還のはず。


「……アルフリート殿は今日一日で随分とラーナと仲良くなったのだなぁ?」


 堪えるかのような声音をしながらシューゲルが視線を向けてくる。


 彼の憎々しげな視線を追って手元を見てみると、俺とラーちゃんの手が繋いだままであることに気付いた。


 やっちゃった。目の前で溺愛している我が娘と手を繋いでいる男がいる。


 シューゲルが俺に怒りを抱くのも当然だ。


「あ、いや、これは何でもないです」


「なんではなすの!?」


 俺が慌てて手を離すと、ラーちゃんが傷付いたかのような顔になる。


「ラーちゃんと手を繋いでいると、シューゲル様が嫉妬するからかな?」


「じゃあ、パパも一緒に手を繋ごう? それならいいよね?」


「え? ああ、うむ」


 ラーちゃんがそう言って手を差し伸ばすと、シューゲルは般若のような表情を引っ込めて手を握った。そして、反対側に俺の手が握られる。


 なにこれ? どういう状況? よくわからないが、ラーちゃんのお陰でシューゲルからすっかりと毒気が抜かれたみたいだ。


 ひとまず、助かったという認識でいいのだろうか?


 ホッとしていると、不意に俺の耳元でふわりとした風が吹いた。


「次はない」


 どうやら俺にだけ聞こえるように風魔法で声を乗せた模様。


「はい」


 今回は許してもらえたが、次に同じことをしたら俺の命は消し飛ぶことになりそうだ。







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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
>生涯に何回かしか使わない魔法よりも、生涯使い続ける魔法を練習し、習得した方がよっぽど人生が豊かになると俺は思う。 まさしくその通りだと思います。目立ちたくないといいつつ冒険者として魔物狩りまくって…
[一言] シールドで滑り台を作っても面白そうです。
[一言] 今日、明日か更新嬉しいです
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