フィッティング
『転生貴族の万能開拓』コミック4巻発売中。
「では、お二人の首や頭の高さを測定し、実際に寝ていただきながらフィッティングをしていきましょう」
素材の選定が終わると、ネームが大きな銀色の道具を引っ張り出してきた。
「針みたいなのがいっぱいついてる!」
「首や頭の高さを計測するための道具です」
棒がたくさん生えているようで物騒な見た目をしているが、どうやら計測器のようだ。
「リラックスした体勢でお立ちになってください。後ろから計測器を当てます」
ネームに背中を向けると、背中の中心から後頭部にかけて計測器を押し当てられた。
カシャンッと何かが凹むような音がする。
「はい、計測完了です。こちらがアルフリート様の睡眠時の姿勢です」
振り返ると、計測器についていた銀色の棒がアーチを描いていた。
「これが俺の姿勢ってわけですね?」
「はい! このアーチを埋める形に枕を作成すれば、首や頭に負担がかかることはないということです!」
姿勢を一発で形にすることができるとは便利な道具だ。さすがはオーダーメイド。
「では、ラーナ様も失礼いたします」
同じようにラーちゃんの背中と後頭部にも別の計測器を押し当てる。
すると、銀色の棒がラーちゃんの姿勢をなぞるように凹んでアーチを描いた。
「もう終わり?」
「はい、計測完了です」
計測器を一回押し当てると計測は完了。
何度も物差しを当てられることを覚悟していたので、この時短術には感謝だ。
「お次はフィッティングとなります。まずはアルフリート様の方から仰向けになってくださいませ」
ネームに言われて、再びベッドで仰向けになる。
「あれ? でも、睡眠羊の枕だとまた寝ちゃうんじゃ……」
「ご安心ください。お試し用の枕はフェロモンを抜いておりますので」
「なるほど」
何度も寝てしまってはフィッティングができないからな。
「少し頭を上げてもらっていいですか?」
「はい」
頭を上げると、ネームが枕の下に何枚かのシートを入れた。
「アルフリート様の姿勢ですと、このくらいの高さでいかがでしょう?」
「あっ、いい感じです!」
入れ終わって頭を下ろすと、ピッタリと枕がフィットするのを感じた。
これだけ頭や首にフィットする枕は生まれて初めてだ。
目をつぶって鼻で呼吸すると、違和感がなくスーッと空気が入ってくる。
試しにネームがシートを一枚抜いたり、足したりしてみせてくれる。
「高さを調整してみましたがいかがでしょう?」
「最初の枚数が一番いいです」
「かしこまりました。お次は横の姿勢を調整しますので、横向きになってください」
どうやらこの枕は横も調整できるようだ。
枕の端を使うように頭の位置を変えて、横向きの姿勢になる。
シートを入れていない場合ではしっくりこない。しかし、ネームがちょうどいい枚数のシートを足すと、横向きもフィットするようになった。
「いかがでしょう? こちらではあれば背骨のラインに対して真っすぐになっていますので首への負担も最小限のはずですが、違和感などがあれば調整いたします」
試しに寝返りなどをしてみるが、まったく違和感はない。
中央との高低差も気にならないし、横向きで呼吸も楽だ。
「バッチリです!」
「ありがとうございます」
俺の枕のフィッティングが終わると、次はラーちゃんが仰向けになって枕の高さを調整。
「いかがでしょう?」
「わっ! これしっくりくる!」
幼い故に感想がやや曖昧なので調整に少し時間がかかったが、ラーちゃんもしっくりとくる高さのものを見つけられたようだ。横向きも同じように調整。
「では、こちらの高さで枕の作成にとりかかられていただきます」
計測した数値を記載した書類を見せてくれるが、具体的な数値を知ってもよくわからない。
とにかく、その数値が俺たちの姿勢にピッタリだということはわかるので頷いておく。
ちなみに値段の方は、俺の買った魔石ランプよりも高い。
だけど、睡眠に関しては妥協したくないので、その金額を受け入れた。
「問題ありません。よろしくお願いします」
「納品に関しましては一週間後を予定しております。無料でお送りすることもできますが、いかがしましょう?」
「わたしの屋敷に送ってー」
「かしこまりました」
店頭での受け取りにするかよ迷っていたら、ラーちゃんがあっさりと言ってくれた。
さすがはお嬢様だけあって配送サービスに慣れている。
「枕が届くまで帰っちゃダメだよ?」
袖をくいっと引っ張りながら上目遣いに言うラーちゃん。
可愛すぎて母性がくすぐられる。
「そんなにすぐには帰らないから安心して」
「やったー!」
どっちにしろ遊園地のことを考えると、すぐに帰ることはできなさそうだからね。
ノルド父さんも最低でも一週間の滞在は視野に入れているはずだし。
「あっ、ネームさん。気になることがあるんですが聞いていいですか?」
「なんでしょう?」
「……この睡眠羊のフェロモンを強めることってできませんか?」
さっきフィッティングをする際の枕は、フェロモンを抜いているとネームは言った。
つまり、フェロモンの調整ができるということだ。抜いたものがあるということは、強めたものだって作成できるはず。
「いけません。あまりにもフェロモンを強めてしまうと、望まない睡眠を人に与えてしまいますから」
「望まない人に睡眠を与えたいから強めにしたものが欲しいんです」
ハッキリと告げると、ネームが呆れたような顔になる。
だけど、こっちは死活問題なんだ。
フェロモンを強めた枕があれば、稽古に誘ってくるエリノラ姉さんを眠らせたり、面倒くさそうな用件を持ってきたノルド父さんを眠らせて撃退することができる。
ビッグスライムのクッションとの合わせ技を使えば完璧だ。
「申し訳ございません。当店の信用にもかかわりますので」
「ですよねー」
この店の枕を使って事件でも起こそうものなら、信用にもかかわってくる。
さすがに無理は話か。
「これは独り言なのですが、ご自身で睡眠羊の毛を手に入れてフェロモンを調整する分には問題ないかと」
落胆していると、ネームが小さな声でそんな呟きを漏らす。
そうか! その手があったか!
「では、枕を追加でもう一つお願いします」
希望の光を手にした俺は、追加で睡眠羊の枕を注文することにした。
睡眠羊の毛については入手が難しいようだが、トリーに何とかして手に入れてもらうことにしよう。




