久しぶりのウーシー肉
『異世界ゆるりキャンプ』の書籍2巻が本日発売!
よろしくです。
魔石細工のお店で会計を済ませると、俺たちは手ぶらで馬車に戻る。
買った商品は今日中にミスフィード家の屋敷に送ってくれるとのことだ。
当然、無料。さすがは高級店だけあってサービスが手厚い。
繊細な商品だけあって持ち歩くのは怖いので助かる。
「いいランプが買えてよかったね」
「二人が色々と探してくれたお陰だよ。ありがとう」
「どういたしまして」
二人が色々なランプをおすすめしてくれたからこそ、好みのものを絞り込んで見つけることができた。
一人で探していれば、あのランプに出会うことはなかっただろう。
家族へのいいお土産も買うことができたし、大変満足だ。
ちなみにミーナ、サーラ、トールたちへのお土産は魔石の端材を買ってある。
魔石を加工する際に発生する端材だが、これまた綺麗なのだ。
それらをペンダントにするなり、腕輪にするなり、自分たちで加工すると面白いだろう。
「次はどうされますか? このまま違う店を回ってもいいですし、休憩も兼ねて昼食を召し上がるのもよろしいかと思います」
馬車が進むと、ロレッタが尋ねてくる。
魔石細工の店で長居していたために結構な時間が経過している。
正午には差し掛かっていないが、それよりも少し前といったところか。
「ラーちゃん、疲れてない?」
「大丈夫!」
気になるのはラーちゃんの体力だが、実に元気な様子。
顔色も良く、無理をしているといった雰囲気は感じられない。
「じゃあ、昼食にしようか」
「えー? わたし、疲れてないよ?」
先ほどの問いかけのせいで、幼いながらもラーちゃんは気を遣われていると察したらしい。
唇を尖らせて不満そうな顔をする。
「高級店は新鮮で楽しいけど慣れていないからね。俺が休憩したいんだ」
ぶっちゃけ俺が疲れているだけである。
「そうなの?」
「うん。だから、次は中央区の屋台街を回るのはどうかな? あそこでのんびりと歩きながら昼食を食べたい」
「行きたい! ロレッタ、いい?」
すぐにロレッタに尋ねるところ、普段から中央区に近寄らないように言い含められているのだろう。
ラーちゃんほどの身分の子であれば、治安のいいところ以外は近寄らないようにするのが安全だからね。
「いいですよ。ただし、くれぐれも私たちから離れないようにしてくださいね?」
「わかってる! ありがとう、ロレッタ!」
馬車の中でなければきっと飛び跳ねていただろう。それくらいラーちゃんは喜んでいる。
ロレッタも佇まいからして武術の心得はあるようだし、俺も付いている。
はぐれさえしなければ何も問題はないだろう。
そんなわけで俺たちは馬車の進路を変えて、大通りを南下していく。
王都の大通りの道幅は広いが、その分通行人も多い。
混雑していると馬車では中々進めないこともあるのだが、俺たちの馬車にはそのようなものは無縁だ。
「すごい。人がサーッと引いていくや」
「皆、やさしいね」
優しいというより、畏怖の気持ちが大きいだろうね。
なにせこちらの馬車にはミスフィード家の紋章がついているから。
公爵家の威光を借りて、民を押しのける快感がちょっと癖になりそうだ。
意味もなく王都の大通りをこの馬車で闊歩してみたい。
なんてバカなことを考えながら景色を眺めると、中央区にある広場で馬車が停まった。
「馬車で進めるのはこの辺りまでですね。ここからは徒歩で向かいましょう」
これ以上先は人も密集している。馬車で進んでも徒歩で進むような速さと変わりない。
ロレッタの言葉を聞いて、俺たちは馬車から降りた。
「南に進もうか」
「うん!」
御者の人にはここで待機してもらい、俺たちはメインストリートを南下。
程なく進むと、通りの両脇に屋台が並び始めた。
昼食時に差し掛かる頃合いとあってか、あちこちで客を呼び込む威勢のいい声が響き渡っている。
相変わらずここは賑やかだ。
毎日来ると辟易するかもしれないが、たまにやってくると新鮮で楽しいものだ。
「ラーちゃんは、なにか食べたいものがある?」
「あれが食べたい!」
尋ねてみると、ラーちゃんが指を差した。
その先を辿ってみると、冒険者らしき男性が豪快に串肉に食らいついている。
「串肉が食べたいの?」
「うん! おいしそう!」
普段、食べないスタイルだから気になったのかもしれない。
公爵家のお嬢様には似合わないかもしれないが、後ろにいるロレッタも特に文句を言う様子はない。
「わかった。串肉を食べようか。串肉にも色々あるけど、どんなものがいい?」
「どれがおいしいかな?」
串肉が食べたいという気持ちはあるが、鶏肉や豚肉といった具体的な指定はないようだ。
どうしたものかと考えていると、不意に見覚えのあるおっちゃんが目に入った。
初めて王都に訪れた時に買ったウーシーの肉の屋台である。
「なら、あそこのウーシーの串肉なんてどう?」
「じゃあ、それで!」
ラーちゃんからの同意もとれたので、俺たちはウーシーの屋台へ移動。
「おっ、坊ちゃん。また来てくれたか!」
「覚えててくれたんだ」
「へへ、客を相手にする商売だかんな。そう簡単に忘れやしねえよ」
この屋台にやってきたのは約一年ほど前だ。
王都にやってきた初日とエリックと一緒にいた時のみ。
たった二回だけなのに、覚えてくれたことが嬉しい。
「ウーシーの串肉を三本お願い」
「あいよ。焼き上がるまで少し待っててくれ」
三本分の銅貨を支払うと、おっちゃんが網の上でウーシーの串肉を焼いてくれる。
そんな動作をラーちゃんが興味深そうに見つめていた。
「今日は随分と可愛らしい嬢ちゃんを連れてるじゃねえか。彼女か?」
その話題は退屈しのぎとしてやるには、少し心臓に悪い話題だ。
ラーちゃんが彼女ってなに? なんて聞いてきた日にはなんて答えればいいのやら。
「違うよ」
「なんだ、ちげえのか」
俺はそれ以上話題を広げることなく、素気なく答えて話題を閉めた。
おっちゃんも冗談のつもりだったのか、朗らかに笑うだけで特に掘り下げたりはしない。
よし、後は適当な話題を振って、ラーちゃんが今のやり取りに関心を持たないように――
「アル、彼女ってなーに?」
遅かった。恐れていた質問が飛んできてしまった。
しかし、恐れることはない。ここにはそれを教えてくれる適任者がいる。
「それはね、教育係のロレッタに教えてもらうといいよ」
「ええ!?」
丸投げされるとは思っていなかったのか、ロレッタが素っ頓狂な声を上げた。
ロレッタはラーちゃんのお付きの侍女であり、教育係も兼ねていると知っている。
そういったことは彼女にやってもらうに限る。
俺だって何度も修羅場をくぐっているんだ。四歳の少女を煙に巻くなど容易いことだ。
「アルが教えて」
「え? なんで?」
「アルに聞いたんだよ? アルが教えてよ」
思いもよらないラーちゃんからの正論。
幼い故に教育係のロレッタに聞いた方がちゃんと教えてくれる云々なんて言い訳は許してくれないようだ。俺の口から聞きたがっている。
「……彼女っていうのはね、女性をさす言葉だよ」
「知ってる。別の意味を教えて?」
「別の意味なんてないよ」
「ある! じゃないとさっきの会話変だもん!」
「ほいよ! ウーシーの串肉だ!」
ラーちゃんが不満げな様子を見せるが、そこでちょうどウーシーの肉が焼き上がった。
非常にナイスタイミングだ。
「ほら、串肉ができたし食べよう」
おっちゃんから串肉を受け取ると、俺はラーちゃんとロレッタに手渡して屋台の前から離れた。
「お昼時だけあってベンチが混んでいますね。どこか空いているところを探して食べま――」
とロレッタが提案しようとするが、既に俺はウーシーの串肉を食べていた。
あっ、やっちゃった。
ラーちゃんのために教育のためにきちんと座って食べた方が良かったか?
「おいしい!」
なんて思っていると、横にいたラーちゃんが俺の真似をしてパクリとウーシーの肉を食べた。
「ラーナ様、道端で立ちながら食べるなんてはしたないですよ!」
「でも、アルや他の皆も立って食べてるよ?」
「それは、えっと……」
ここで肯定してしまえば、ここで立ち食いしている俺やその他の人たちを正面から非難することになる。
さすがにロレッタもそんなことはできないようだ。
「まあ、今日はそういうことをする日ということで」
「……はい」
混雑しているせいでベンチなんて空いていないし、探している間にウーシーの肉が冷めてしまう。郷に入っては郷に従えということだ。なんかごめんね。
「あっ、これ美味しいですね」
「でしょ?」
諦めた表情で串肉を口にしたロレッタが、目を見張りながら感想を漏らした。
自分の気に入っているものを、相手も気に入ってくれると嬉しくなるものだ。
パクパクと食べるロレッタを横目に、俺も二口目を口にする。
ジューシーで弾力があり、噛むとギュムッとしていて旨みが染み出てくる。
甘辛い濃厚なソースとの相性も抜群だった。
久しぶりに食べるウーシーの肉は格別だな。
「アル、次は違う串料理を食べたい!」
「じゃあ、今度は海鮮系とかいってみようか!」
「うん!」
食事作法といった堅苦しいのは抜きにして、俺とラーちゃんは屋台街を巡るのだった。




