魔石ランプ
とはいえ、これだけ魅力的な商品を目にすると、俺も何か欲しくなってくる。
「俺も何か買おうかな……」
部屋で幻想的な光を放つランプを眺めながら眠ったりしてみたい。
「気楽に知人にお贈りしたいのであれば、こちらの商品がおすすめです」
などと悩んでいると、すぐにオーケンが案内してくれる。
移動すると、先ほどよりも小さめのランプが並んでいた。
こちらは先ほど見たランプよりも大きさや色の鮮やかなさ少し劣るものの、値段は手ごろなものになっている。
価格も金貨数枚から数十枚と落ち着いたもの――って、金貨数十枚で落ち着いた値段と思うなんて金銭感覚がおかしくなっているのかもしれないな。
心の中で苦笑しながら商品を眺めると、一対のS字状になったランプが目についた。
シェードの部分は小振りだが、ベースの曲線をしっかりと生かしバランスよく仕上がっている。
柔らかなグリーンとクールなブルーの輝きが、エルナ母さんとノルド父さんのよう。
なんだかあの二人にお似合いな気がする。
「こちらのランプが気になりますか?」
「ええ、両親の合いそうだなと」
「確かに! すべてを包み込むエルナ様と落ち着きのあるノルド様の雰囲気にピッタリです!」
エルナ母さんにそこまでの包容力があるかは微妙なところだが、女性であるロレッタが頷いてくれるのであれば間違いはないだろう。
「このS字ランプをお願いします」
「ありがとうございます」
値段は二つとも金貨三十枚。ただのお土産にしては少し高いが、家族への贈り物とカウントすれば痛くない。
「ついでにエリノラ姉さんとシルヴィオ兄さんのお土産も買おうかな」
どうせ王都のお土産を要求されるのはわかっているし、まとめて姉弟のお土産をここで買ってしまおう。
シルヴィオ兄さんはランプだな。よく部屋で本を読んでいるし、落ち着いて読書をできるランプを買ってあげたい。
「これ、アルのお兄さんに合いそう!」
ランプを見て回っていると、ラーちゃんが駆け寄ってきた。
その小さな腕の中には本が抱えられている。
「……本?」
「開いてみて!」
ラーちゃんから受け取って本を開いてみると、ページが開かれ、温かな光が放たれた。
「わっ、なにこれ? 本型のランプ?」
「そうみたい! 面白いでしょ?」
「うん、面白い。シルヴィオ兄さんへのお土産はこれにするよ。ありがとう」
「えへへ」
見つけてくれたお礼を伝えると、ラーちゃんは嬉しそうに笑った。
オーケンから説明を聞くと、本をモチーフにしたライトだそうだ。取り出して開けば点灯し、閉じれば光が消える。なんて面白いんだ。
シルヴィオ兄さんへのお土産の品はこれ一択だ。これ以外に考えられない。
「さて、残りはエリノラ姉さんか……」
家族の中でエルナ母さんの次にお土産を贈るのが難しい相手だ。
「アルのお姉さん?」
「うん。なんかいい感じのものある?」
「うーん、わかんない」
先ほどの活躍を期待して尋ねてみたが、ラーちゃんにピンとくるものはなかったようだ。
屋敷にきてくれた時も、俺やエリックと一緒にしたし、あんまりエリノラ姉さんと接点もなかったからな。イメージできるものが思い浮かばなかったのだろう。
ラーちゃんが選んでくれれば、エリノラ姉さんに渡す時に言い訳できるというのに残念だ。
ラーちゃんの力を借りられないのであれば、自分で選んで決めるしかない。
エリノラ姉さんが部屋にランプを置いて、光を鑑賞……そんな可愛いげのあることをする姉ではないのはわかりきっている。
仮に買ってあげたとしても無造作に床に置いて踏んづけて割ったり、室内で素振りをして壊したりする未来が容易に想像できた。
「姉へ贈り物をしたいのですが、ランプ以外におすすめはありますか?」
「こちらの装飾品はいかがでしょう」
オーケンに案内してもらった先には、魔石を加工して作った腕輪、指輪、ネックレス、耳飾りなどの装飾品を中心とするものだった。
そういえば、エリノラ姉さんは耳飾りをつけていたな。
前回もヘアゴムやシュシュなどを贈ったら、それなりに喜ばれた。
装飾品をチョイスするのは悪くない気がする。
耳飾りを中心的に眺めると、蝶の羽を模したものがあった。
黒と翡翠のカラーが走っており、羽の繊維や鱗粉まで細かく見える。
「そちらは蝶の耳飾りといいまして、本物の蝶の羽を使用しております」
「やっぱり本物の羽を使っているんですね」
「はい。裏表と違う表情をお楽しみできるだけでなく、魔力を込めれば灯りにもなります」
「あ、光った」
魔力を流してみると、蝶の羽がほのかな光を灯した。
耳盛りとして綺麗なだけでなく、灯りとしても使用できるらしい。
耳飾りならエリノラ姉さんも既に見に着ける習慣がついているし、実用的な機能もあると知れば悪い気はしないだろう。
「では、これもお願いします」
「ありがとうございます」
購入の意思を告げると、オーケンが丁寧にレジの方に持っていってくれた。
「これで家族へのお土産は決まったし、お会計をしようかな」
「アルの分は買わないの?」
「あ、忘れてた」
家族へのお土産を買うのに夢中になって、自分の分をすっかり忘れていた。俺も何かランプが欲しいって思っていたのに。
「アルはどんなランプが欲しいの?」
「寝室に置けるランプが欲しいな。寝る前に綺麗な灯りを眺めたり、本を読んでゆっくりできるような」
「一緒に探そ!」
「私もお手伝いいたします」
「うん、お願いするよ」
希望のランプを言うと、ラーちゃんとロレッタが意気込みながら返事してくれた。
俺のためのランプを見つけるために、各々が動き出す。
気に入ったものを見つける過程を楽しんでいるとわかっているのか、オーケンは口を挟むことなく温かく見守ってくれている。そんな配慮がありがたい。
「アルフリート様、このランプなんて綺麗ですよ」
そう言ってロレッタが持ってきてくれたのは、赤と黒を基調とした六角ランプだ。
それぞれの面に赤、橙、桃といった暖色系の色が散りばめられている。
「確かに綺麗だけど、ちょっと色が強いかな」
寝る前に眺めることになるので、色味の強いものは遠慮したい。どちらかと言うと、柔らかな色合いの光がいい。
「なるほど」
詳細な希望を伝えると、ロレッタはランプを元の場所に置いてまた探し始める。
「アル、これは?」
ラーちゃんのいるところに寄っていくと、大きな貝殻の形をしたランプが置いてあった。
貝殻が丁寧に区切られており、海を模しているのか淡い寒色系の色合いをしている。
「うーん、爽やかで綺麗だけど、ちょっと大きいかも」
「そっかー」
色合いは落ち着いていて綺麗なのだが、なにぶんランプがデカかった。
屋敷のベッドサイドに置けないし、部屋の隅に置いても圧迫感が出そうだ。
もう少しコンパクトなものの方がいいかもしれない。
そう思ってコンパクトなランプが置いてあるところに移動してみる。
こっちはとてもコンパクトだ。小さなテーブルに載るようなサイズから手の平サイズまでと小さい。これならうちの部屋でも使いやすそうだ。
後は気に入ったデザインや光の色をするものを選ぶだけだ。
「うん? なんだこれ?」
小型のランプを物色していると、球体型のランプが目についた。
つるりとした真っ白な表面をしている。
他のランプはとてもデザイン性が高いのに、このランプは控え目な感じだ。
「なんか蓋が開いた」
手に取ってみると、球体の上部分の蓋が取れた。
覗き込んでみると、中央に窪みがあり何かを設置するような凹凸がある。
「もしかして、こちらにある属性魔石をはめ込むんじゃないでしょうか?」
「なるほど!」
傍に置いてある水魔石を手に取り、球体の中にはめ込んでみる。
魔力を流し、裏面にあるスイッチを押すと、球体の上部から光が放射され、天井が淡い青色の光が照らし出された。
「おー、綺麗だ」
しばらく観察すると、今度は風魔石を設置してスイッチを押してみる。
すると、天井に緑の光が放射された。
「いろんな光が見れるんだ!」
「素敵ですね!」
魔石を変えて、その日の気分に合わせて光を眺めることができる。
とてもいいじゃないか。
火魔石、土魔石、光魔石とすべての属性を試し終えると、ずっと控えてきたオーケンが歩み寄ってきた。
「通常魔石では単色の光ですが、上質な魔石をはめ込めばもっと繊細な光を表現することもできます」
そう言ってオーケンが手渡してきたのは、青と水色の入り混じった透明感のある魔石だった。
強い魔力がこもっており、一目見ただけど上質なものだとわかる。
なんの魔石か尋ねるのが怖いので、何も聞かずにランプにはめてみる。
すると、天井に海が広がった。
そう錯覚するほど鮮やかな青色の光が照射されているのである。
三人揃って思わず感嘆の声が漏れた。
「魔力を調節することで色合いを変えることも可能です」
オーケンがランプに触れて魔力を強めると、深海のような暗い海のような色合いになったりオーロラのような強い色の入り混じる色に変化した。逆に魔力を弱めると、浅瀬のような淡い海のような色
合いになったりもする。
実に複雑な色合いだ。上質な魔石を使っているからこそ、写し出せる色合いなのだろう。
ベッドで仰向けになって様々な光を楽しむ。いいじゃないか。
「これにするよ」
当初とは方向性が変わったけど、俺の寝室にピッタリのランプを買うことができたと思う。




