三家共同事業
「転生して田舎でスローライフをおくりたい」の書籍12巻が発売中です。巻末にエルナ視点とルーナ視点の書き下ろしがあり、書店特典としてショートストーリーがあります。是非ともよろしくです。
閃いた。
「ドール子爵がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「うむ、入ってもらえ」
建前を本物にするための事業を考えついたと同時に、ドール子爵が到着したようだ。
執事が談話室の扉を開けると、ドール子爵がぬっと入ってくる。
スロウレット家の屋敷では一部の入り口では頭をぶつけそうになっていたが、ミスフィード家の立派な屋敷ではそんな気配はなかった。
オールバックにモノクル眼鏡、口元には整えられた髭。
身長二メートルほどの高さを誇る大男は、収穫祭を前にスロウレット家にやってきたグレゴール=ドール子爵だ。
傍らには専属メイドのティクルの姿もある。
彼女は俺の視線を気づくと、小さく会釈をしてくれた。
なんかちょっと目の辺りにクマがあるように思えるが大丈夫だろうか? 人形を動かすことに夢中になりすぎて、睡眠時間を削っていないか心配だ。
二人と出会うのは秋以来だが、ひとまず元気な姿をしているようで何よりだ。
「お久しぶりでございます、シューゲル様」
「久しいな、ドール子爵。忙しい中、突然呼び出してすまなかったな」
口では謝りつつも、まるで悪びれた様子が見えないシューゲル。
「いえ、シューゲル様やアルフリート殿がお呼びとあらば、いくらでも時間を捻出する次第です」
ドール子爵は、シューゲルのそんな態度にまるで気にした様子は見せなかった。
中身は人形大好きなおじさんだが、ドール家の当主としての振る舞いや腹芸はしっかりできる。さすがだ。
「して、本日はどのような要件でしょう?」
「アルフリート殿が水魔法を使ったウォーターショーを見せてくれてな」
シューゲルがウォーターショーについて語り出すと、露骨にがっかりした様子になった。
俺がいるのできっと人形に関する事業だと思っていたのだろう。
気持ちはわかるが、話は最後まで聞いてあげてほしい。
「アルフリート殿にウォーターショーの利用について相談を持ち掛けたのだが、ドール子爵との事業で使うつもりだと言われてな」
「ほう!」
「そんなわけでドール子爵に招集をかけた次第だ」
つまらなさそうにしていたドール子爵だが、話の経緯を聞くなり目を輝かせた。
「ウォーターショーと私の人形劇をどのように組み合わせるのか、聞かせてもらおうではないかアルフリート殿!」
どっかりと隣のソファーに腰を下ろすと、ずいっと前のめりになる。
横からはドール子爵、前からはシューゲル。圧迫感がすごい。
「ドール子爵、事業内容については口にしても?」
ドール子爵との人形計画は、スロウレット家とドール家で考案したものだ。
それをシューゲルの前で話してしまってもいいのだろうか?
「シューゲル様であれば問題ない。仮に広まったとしても、人形への情熱は誰にも負けない自信がある」
仮に広まるようなことや、横取りされるようなことがあっても、ドール子爵には自領で作り上げた質の良い布や糸、人形製作技術はあることはもちろん、人形を愛する情熱があるので気にしていないようだ。
「私は他人の事業を掠め取るようなことはしない」
ドール子爵だけでなく、シューゲルもそのように言っているので問題ないだろう
二人からの視線が突き刺さる中、俺は咳払いをして考えていた言葉を吐き出す。
「ドール子爵は、王都で人形劇を成功させることを目標としています」
「うむ! アルフリート殿が伝授してくれた魔法で人形を自在に動かし、声優が声を入れることによって命を吹き込む。そんな新たな人形劇を広めたい!」
「人形劇も勿論素敵ですが、どうせやるならば人形の魅力を劇だけに留まらせず、そのさらに先へと昇華させたいと思っています」
「人形劇のそのさらに先……? アルフリート殿の考案した人形劇よりも素晴らしいものがあるというのか?」
「あります。それはテーマパークです」
「「テーマパーク?」」
「入場者の想像力に働きかけるテーマによってすべての設備を組み立て、遊びを演出する大規模娯楽施設です」
「くっ! アルフリート殿の考えについていけない! 人形のことは私が一番に理解せねばいかないというのに! すまないが、私にもわかるように砕いて説明してくれるか?」
俺の考えを理解できないのが心底悔しいのか、グレゴールが血涙を流す勢いで懇願してくる。
グレゴールのテンションについていけず、若干引き気味なシューゲルは置いておいて説明を続ける。
「入場者がテーマの魅力にとらわれ、時間を忘れて物語の世界に浸ることのできる遊びの空間を作り上げるんです。わかりやすい例を出すと、ゲコ太の冒険の世界を体験できるような娯楽施設を」
「ゲコ太の世界を体験だと!?」
俺が砕いて説明をすると、ドール子爵が雷に打たれたかのような反応を見せる。
「というのは、ゲコ太と一緒に森の中を歩いたり、トルトルやアースモと川を泳いだり、町でアルフに追いかけられたり、そんな体験ができるというわけか!?」
「ええ。極限までそれに近い体験ができるように再現するのです」
「お、おおおおおおおっ!」
「しかし、それがどのようにして人形劇やウォーターショーと繋がるのだ?」
グレゴールが興奮した声を上げる中、シューゲルが冷静に割って入るように尋ねる。
うん、そうでもしないと話が脱線して進まないからね。
「テーマパークにおける重要なものがキャラクターだからです」
「キャラクター?」
「人々を魅了する実在の人物、あるいは架空の人物や動物を配置することにいって、テーマパークは出来上がります。つまり、客を呼び寄せる魅力的なマスコットキャラが必要であり、そこに行けば出会えることが重要なんです」
「つまり、ゲコ太たちを等身大の人形として作り上げ、人々と触れ合わせるのか!」
「そういうことです! 魔法で操作するもよし、中に人間が入ってなり切るも良しです!」
さすがはグレゴール。俺と一緒に人形劇を考えただけあって、俺がどんな施設を作り上げたいか何となく理解してくれたようだ。
「? どういうことだ? よくわからん」
俺とグレゴールには以前作り上げた脚本というわかりやすい共通の作品があるが、シューゲルにはそれがないためにしっくりとこないようだ。
なにかシューゲルにもイメージしやすく、そんな世界に浸りたいと思える物語はないだろうか。
……あっ、あったな。
「テーマパークに行けば、ドラゴンスレイヤーであるノルド、魔法使いエルナを存分に眺め、触れ合うことができるという認識で問題ないかと」
「ああ、それはわかりやすいな。王都に住む者であれば、そのような娯楽施設があれば大挙して押し寄せるだろう」
そんなに断言できるほどに人気なんだ。
もし、テーマパークができたら、こっそりと一区画を使ってドラゴンスレイヤーのアトラクションを設置してもアリかもしれないな。
まあ、それは遥か未来の話なので端に置いておこう。
「なるほど。繋がった。アルフリート殿はウォーターショーを物語の世界観を表す催し物の一つとしてテーマパークに組み込みたいのだな?」
「その通りです」
俺たちの話を聞いて、シューゲルは俺が考えている事業にたどり着いたようだ。
どうだろう? ウォーターショーを断る口実として、でっち上げたにしては中々に説得力があるものではないだろうか? 短時間で思いついた自分を褒めてあげたい気分だ。
ふふふ、どうだ? ここまで大規模な構想があれば、シューゲルも茶々を入れようなどとは思えないだろう。
「それなら問題ない。そのテーマパークとやらにミスフィード家も噛ませてほしい」
などとほくそ笑んでいた俺だったが、シューゲルの口から予想外な言葉が出てきた。
「え?」
「人形劇同様、そのテーマパークを作るには魔法の力が必要だ。違うか?」
「え、ええ。観客を楽しめるアトラクションや世界観を表現には魔法の力が必要ですね」
人形劇やダンスなどの演出で魔法が必須なことはもちろん、ジェットコースター、観覧車、バイキング、迷路などを再現しようと思ったら魔法の力に頼らざるを得ない。
「であれば、魔法を必要とする施設の作成にはミスフィード家が協力し、そこで働く魔法使いもうちが用意しよう。その上資金も提供する」
テーマパークを作る上でもっとも困難な点は、広大な土地の確保やアトラクションなどの設置費用といった金銭的な問題と、それらを運営、管理してくれる膨大な魔法使いの確保。
ドール家とスロウレット家は子爵と男爵にしては財政が豊富な方であるが、小領地にしてはという但し書きがつくのであって、建国時から王国を支えてきた公爵家ほどの財力は持っていない。加えて、王都に大きな土地を確保できる伝手も皆無だ。
しかし、ミスフィード家が噛んでくるとなると、それらの問題は一発で解決となるだろう。
「ミスフィード家としての狙いは、テーマパークを魔法学園の生徒の就職先にしたいということでしょうか?」
「察しがいいな。アルフリート殿。そうだ。長らく戦争をしていない王国では、魔法使いの需要が低くなっていてな。魔法学園を卒業したものの、魔法の道には進めずに自領に戻る者も少なくないのだ」
優秀な魔法使いを欲しがっている商人や冒険者が聞けば、悔し涙を流しそうな台詞だ。
とはいえ、シューゲルの言っていることも間違いではないのだろう。
王国が魔法使いに求めるのは軍事的な側面だ。
しかし、長らく戦争も起こっていない平和な王国では、軍事に予算が少なくなってしまうのも当然のこと。
軍事力を維持するために極端に縮小することはないだろうが、能力の低い魔法使いを大量に雇い続けることはないだろう。
そういえば、エリノラ姉さんも騎士として求められる力量などが年々上がっていると言っていたな。その後に「あたしは余裕だけど」という自慢の注釈が入っていたけど。
「私は生徒が魔法使いとして生きられる道をより多く用意してやりたいのだ」
真剣な視線でこちらを見据えるシューゲルの表情は、まさに教育者そのものだった。
「そちらはテーマパークを運営できる魔法使いが手に入り、ミスフィード家が運営する学園側としては生徒のための太い就職先を確保できる。互いに利益ある提案だと思うがいかがだろうか?」
いかがも何もマズいに決まっている。
誤魔化すためにでっち上げた適当な大規模事業が現実身を帯びてしまった。
ダメに決まっている。
大きなことをする時は、ノルド父さんとエルナ母さんに相談をしてくれと口を酸っぱくして言われているのだ。
前代未聞の規模の事業なのに俺はまるで相談をしていない。こんなの絶対に怒られるに決まっている。
「素晴らしい! ミスフィード家が協力して頂けるとなれば、アルフリート殿の考案した事業も成功するに違いない! 我々としては願ってもいない提案です!」
何とかして断ろうと考えている間に、ドール子爵が立ち上がって感激したように言った。
ちょっと待って。我々ってスロウレット家も含んでるよね!?
「それは良かった。それでは人形劇だけでなく、これから作り上げるテーマパークの詳細を詰めようではないか」
シューゲルはにっこりと笑みを浮かべて手を差し出すと、グレゴールは慌てたように大きな手を差し出して握った。
そして、二人の視線が期待するようにこちらを向く。
そもそも提案したのを俺だし、ここまで来たらやっぱり白紙で……なんて言えるはずもないよね。
「色々と困難はあるでしょうが、私たちが力を合わせれば事業は成功するに違いないでしょう」
俺は顔が引き攣りそうになるのを必死に堪え、当たり障りのないセリフを述べながら二人の手に自分の手を重ねた。
「異世界のんびり素材採取生活」の書籍3巻とコミック2巻は7月発売予定です。こちらも両方書き下ろしあります。




