二人の秘密
5月26日に書籍12巻が発売予定です。
そういうわけで俺が先導して扉を開けてみる。
扉の先には真っ暗な部屋が広がっていた。
「暗いからちょっと明るくするよ」
「うん」
ライトボールを浮かべると、真っ暗な部屋が照らされた。
室内には妙に生活感のある家具があるのだが、他の部屋と比べて整然としていない。
家事に慣れていない男が自分なりに整理整頓してみたと言わんばかり。
「ただの部屋?」
室内を見渡してラーちゃんがガッカリそうな声を漏らす。
これだけ派手な隠し扉を用意しておいてただの部屋というのは納得がいかない。
間取り的にこれ以上奥に空間があることはあり得ないので、何かがあるとすれば下だろう。
そう考えて赤いカーペットを捲り上げると、木製のハッチが出てきた。
「ビンゴ」
「なにこれ!?」
「多分、下に続く階段があるんだ」
「へー! でも、開かないよ?」
「そんな時は無魔法のサイキックを使えば解決」
ハッチにかかっている鍵の構造を確認すると、サイキックを使って開錠した。
「サイキックで鍵が開けられる!? すごい! どうやるの!?」
「これに関しては後で教えてあげるよ」
「わーい!」
ハッチを開けると、下へと続く階段が見えた。
階段の長さからして俺の滞在している二階にたどり着くわけではなさそうだ。
「降りてみよう」
「うん!」
ここまで来ると、最早引き返すという選択肢はなかった。
まったく日光が入らないせいで階段も真っ暗だ。
光源が足りないのでライトボールを増やして、階段を明るくした。
ラーちゃんが転ばないように逐一様子を見ながら階段を降りていく。
この階段はどこに繋がっているんだろう? 下っている感じからして二階ではなく、一階なんじゃないかと思う。
屋敷の一階の東側と言えば、厨房や配膳室の他に使用人の寝室なんかが……。
「あっ」
「どうしたの、アル?」
「……いや、なんでもないよ」
脳裏に妙な推測が浮かんでしまったが、俺はすぐに打ち消した。
いくらなんでも邪推が過ぎる。
ミスフィード家は魔法貴族だ。当主であるシューゲルが隠している秘密の部屋には、きっと素晴らしい魔法研究の数々があるに違いない。
きっと、そうなのだ。というか、そうであってほしい。
「扉だ!」
そうであってほしいと願いながら階段を下っていくと、扉が見えた。
「危ないものがないか確認するから、ちょっと下がっててね」
「うん!」
俺との約束をしっかり覚えているラーちゃんは素直に下がってくれた。
安全かどうか確認するというのは建前だ。
もし、ここにあるものが俺の予想通りのものであれば、ラーちゃんを通すわけにはいかない。
扉に魔法的な仕掛けがないか確認するフリをしつつ、俺は扉の隙間から中を伺う。
さすがに真っ暗で様子がわからないので、こっそりとライトを照射してみる。
すると、俺の予想した通りに寝室があったではないか。
当主の寝室と使用人の寝室が繋がっている理由なんて一つしかないだろう。もうちょっと違うところに繋がっていれば、いざという時の抜け道などと誤魔化すことができただろうが、これは確実にアウトだ。
硬派な見た目とは違って、シューゲルは随分と好色らしい。
ラーちゃんやシェルカから不穏な話を耳にしていたので焦りはしないが、なんとも言えない気分だった。
「アル、どう? 扉の先に入れる?」
後ろで待機しているラーちゃんがワクワクとした顔で尋ねてくる。
この先にはラーちゃんのパパが、使用人との逢瀬を楽しむための部屋があるんだよ。なんて娘であるラーちゃんに言えるはずがない。そんなことを言ってしまえば、ミスフィード家はとんでもないことになりそうだ。
「うーん、魔法で施錠されているせいで開かないや」
「アルのサイキックでも開けられないの!?」
「うん、俺の魔法でも無理みたい」
「えー!」
そのように言うと、ラーちゃんがすごく残念そうな顔になる。
無理もないここまでやってきてお預けだというのだから。
本当は魔法で施錠なんてされておらず、物理式の鍵だからサイキックで開けられるんだけど、ラーちゃんをこの部屋に通すわけにはいかない。
ラーちゃんは扉に触れると、ドアノブに触れてみる。
当然、そこには物理的に鍵があるので開くことはなかった。
ラーちゃんの顔がとても不満そうだ。
「扉を壊しちゃお?」
「さすがにそれは危ないし、屋敷の皆に怒られるよ」
「えー、中に入りたいー!」
秘密の扉を前にしてラーちゃんが駄々をこねる。
とはいっても、その願いを叶えるわけにはいかない。何とかしてラーちゃんの意識を逸らす必要がある。
「今の俺達じゃ実力が足りないんだよ」
「あっ! なら、パパに開けてって頼めばいいんだ!」
娘の逢瀬の部屋に入れろと言われて、開ける父親がいるだろうか?
「ラーちゃん、ここはシューゲル様の秘密の部屋だよ? 秘密の部屋は誰にも教えないから秘密の部屋なんだ」
「そっか! 秘密の部屋だもんね!」
当たり前のような俺の台詞に、ラーちゃんはハッとしたように頷いた。
「もし、秘密の部屋が他人にバレたら、ラーちゃんはどうする?」
「……別のところに移動させるか隠す」
「そうだね。そうさせないためにも俺たちがシューゲル様の秘密の部屋を知っていることは内緒にするべきなんだ。俺とラーちゃんだけの秘密だよ」
「私とアルだけの秘密!」
二人だけの秘密というのが嬉しいのだろう。ラーちゃんはとてもご満悦だ。
「もっと魔法が上手くなった頃に、俺達でここに入るっていうのも面白いね」
「それ面白い! わかった! 私、もっと魔法を頑張る! その時は一緒にこの部屋に入ろうね?」
「そうしよう」
……うん? これはこれでヤバい約束な気がする。
深読みすると、俺とラーちゃんが大きくなったら逢瀬の部屋を使おうみたいな意味にならないだろうか?
いや、さすがにそれは考えすぎだな。これはただの時間稼ぎだ。
ラーちゃんが秘密を守って大人しくしている間に、シューゲル様になんとか伝えて様々な魔道具と魔法研究で溢れた素晴らしい秘密の部屋にしてもらおう。
「それじゃあ戻ろうか。長居してると、シューゲル様にバレるかもしれないし」
「わかった!」
俺達の秘密を守るために、ラーちゃんは軽い足取りで階段を登っていく。
ラーちゃんの素直な心を利用して騙すのは非常に心苦しい。トールやアスモを騙す時は罪悪感の欠片も抱かないけどな。
とはいえ、幼いラーちゃんに真実を見せるわけにはいかない。
ミスフィード家の平和を守るために、ここはグッと堪えるしかなかった。




