ポダ村で一泊
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休憩を挟み、順調に進んでいくと夕方くらいにポダ村にたどり着いた。
雪が思っていたよりも残っていたせいで、やや遅くなってしまったが誤差の範疇だ。
道程は概ね予想通りの結果だろう。
急に領主であるノルド父さんがやってくることになって村長夫妻は驚いていたが、以前と同じようにすぐに休める家を手配してくれた。
ロウさんはこの村に友人がいるらしく、そちらに泊まるらしい。
ロウさんとは別れ、村長が手配してくれた家に向かう。
俺たちが泊る家は、一般的な平民が生活する一階建てのものだ。
床には民族風のカーペットが敷かれており、イスやテーブル、ソファーといった生活家具が一式揃っている。
台所には竈や調理道具、調味料などが一式揃っていた。
普段から旅人を招いたり、いつでも俺たちがやってきてもいいように整えてくれているらしい。ポダ村の人たちの優しさを感じた。
いつもの習慣でスリッパを探してしまうが、ここは屋敷ではないので存在しない。
「土足で家に上がるのは久し振りね。前まで当たり前だったのに、なんだか違和感があるわ」
「屋敷ではアルの作ってくれたスリッパで生活しているからね。すっかりそっちに慣れちゃったね」
スリッパを探してしまったのは俺だけじゃないらしい。
エルナ母さんとノルド父さんも顔を見合わせて苦笑していた。
屋敷では常にスリッパを履いているが、外では土足、あるいは下靴で生活するのが普通だからね。外に出るのが久し振りだとついつい忘れそうになる。
玄関に上がるとミーナとサーラが俺たちの上着を回収して、素早くハンガーにかけてくれた。
魔法でお湯を作って手を洗って、うがいをするとソファーで一息。
「ふう……」
屋敷じゃないけど、家に入ってくるとそれだけでホッとするものだ。
ソファーがちょっと硬くて革のきしむ音が気になるが、屋敷にある最高級のソファーと比べちゃダメだ。
「アル、魔法で火をお願いできるかい?」
そのままボーっと座っていると、ノルド父さんに頼まれた。
部屋には暖炉が備え付けられていて薪の束がある。とはいえ、薪だって村からすれば貴重な資源だ。できるだけ消費したくないとノルド父さんは考えているのだろう。
「いいよ」
俺もその意見に反論はない。魔力は有り余って困っているくらいだしね。
俺は火魔法を発動して、暖炉に火球を生み出す。家の中が温かな光に照らされた。
暖炉に薪もなく、地面から浮いて火球が存在しているのは少し不思議な光景だった。
「助かるよ」
領主なのに横柄に振舞わず、村人に配慮できるからノルド父さんの人気は高いのだろうな。
サーラの淹れてくれた紅茶を飲んでいると、あっという間に日が暮れてきた。
火球の光だけでは心許なくなってきたが、ミーナがリビングに魔道ランプを設置してくれた。
サーラとミーナからチラチラと視線が飛んでくる。彼女たちが何を求めているか理解した俺は、ソファーからゆっくりと立ち上がった。
「暗くなる前に夕食の準備をしようか」
「はい!」
本来なら料理人であるバルトロに任せるところであるが、彼は屋敷でお留守番だ。
サーラはそれなりに料理ができるので任せてしまってもいいが、薪を使わずに調理をする方針なので魔法の使える俺が手伝った方がいい。
そういうわけで俺とサーラ、ミーナで台所に移動して料理の準備を始めることに。
調理道具を用意していると、ミーナが調理台に木箱を置いて蓋を開けた。
中にはニンジン、カボチャ、大根、ネギ、キノコなどが入っている。
「なにを作りましょうか?」
「雪兎のコンソメスープにしよう」
「かしこまりました」
コンソメスープは屋敷でも何度か作ったことのある料理だ。そう難しくない。
魔法で火を熾し、竈を使えるようにする。
その上に水を注いだ鍋を設置し、お湯を作る。
その間に手分けしてスープに使うニンジン、大根、ネギ、キノコなどの食材を食べやすいようにカットしていく。
採取した雪のお陰で保冷効果があるが、冷蔵庫のように完璧ではない。数日もすれば傷んでしまうことだし、ケチケチする必要はない。
まだまだ馬車の中には干し野菜やドライフルーツ、干し肉といった保存食もあるし、この村で食材を買わせてもらうこともできるからね。
いつもの美味しいものを作って食べよう。
「なんだか私たちだけ手伝わないのは罪悪感があるわね」
「そうだね。僕らも何か手伝おうか?」
屋敷と違って厨房が隔離されているわけではなく、リビングと台所は隣接している。
くつろいでいる目の前で料理をされると落ち着かないのかもしれない。
「気持ちは嬉しいけど、屋敷と違って台所が広くないから……」
シルフォード領の時のように外で料理となれば、皆でというのも悪くないが、限られたスペースでの料理となると返って不便だ。
「わかった。その代わり後片付けは僕たちがやるよ」
主人であるノルド父さんが手伝う必要はないけど、何かしていないと落ち着かないのかもしれないな。こういうところがスロウレット家らしい。
三人で手分けすると、スープの具材となる野菜のカットがすぐに終わった。
その頃にはちょうど鍋の水も沸騰していた。
さて、ここからコンソメを作るために一から出汁を……なんてことはしない。そんなことをしていたらかなり時間がかかってしまう。
そんな問題を解決するために持参したのが、コンソメキューブだ。
乾燥させた野菜などを砕き、調味料を加えて押し固めて作っている。
沸騰したお湯の中にこれをポンと入れ、カットした野菜と一緒に煮込むだけでコンソメスープになってくれるのだ。
外でいつでもコンソメスープが飲めるように、バルトロに作ってもらった。
とはいえ、これだけでは少しパンチが足りない。
それを補うために昼間に仕留めた雪兎を使う。
モモ肉だけ使うことも考えたが、それほど肉が大きいわけでもないので全部使ってしまおう。
食べやすいようにカットするとフライパンで軽く炒める。
表面がほんのりと茶色くなったら、火を止めてコンソメスープの中に投入。
これで肉のいい出汁が染み込んでくれるはずだ。
後は灰汁を取り除きながら、塩胡椒を加え、味を調え煮込んでいくだけだ。
サーラは大根やキャベツを刻んでサラダを作り、ミーナは持参した黒パンを暖炉にある火球で炙っていた。
魔道コンロはないし、調理スペースも広くない。屋敷に比べれば雲泥の差だったが、普段とは違った環境で協力して料理するのも楽しいものだ。
しばらくすると、コンソメスープがすっかり煮込まれた。
試しに味見をしてみたがかなりいい感じだ。さすがバルトロ配合のコンソメキューブだ。
リビングのテーブルには既に食器が並んでいた。
サーラの作ってくれたサラダやミーナが炙ってくれた黒パンも切り分けられている。
サイキックで大きな鍋を運び、鍋敷きの置かれたテーブルへと乗せた。
「はい、雪兎のコンソメスープのできあがり」
メインとなるコンソメスープが載ったことで、夕食の準備は整った。
「あら、とても美味しそうだわ」
「うん、いい香りだ」
雪兎が丸ごと入っているので見た目のインパクトも十分だ。
椅子に座ると、サーラがコンソメスープを茶碗に注いで配膳してくれた。
「サーラとミーナも一緒に食べましょう。温かいうちが美味しいもの」
「ありがとうございます」
エルナ母さんの言葉にサーラが微笑み、ミーナが嬉しそうな笑みを浮かべた。
椅子が一つ足りなかったが、俺が土魔法で作ってあげればいい話だ。
ミーナとサーラの準備が整うと、和やかに乾杯。
「うん、雪兎の肉がとても柔らかいね」
「ええ、とっても美味しいわ」
ノルド父さんとエルナ母さんは早速コンソメスープを食べており、目を細めて満足そうに味わっている。
俺もコンソメスープを食べようと匙ですくうと、ごろりとした雪兎の肉が乗った。
ぱくりと頬張る。
じっくり煮込まれた雪兎の肉はとても柔らかい。
しっかりと脂が蓄えられており、鶏肉のような味わいだ。
肉汁とコンソメの旨みが合わさってとても美味しい。
「野菜の旨みがギュッと詰まっていますね」
「美味しいです~」
サーラは優雅に匙を動かし、ミーナは頬に手を当てて実に幸せそうな顔をしていた。
やっぱり寒い季節には、こういった温かいスープ料理が美味しいよね。
普段の何倍も美味しく感じられる。
箸休めのサーラの作ってくれた冬野菜サラダをいただく。
オリーブオイルと塩を使ったドレッシングがかけられており、野菜本来の甘みを感じながらパクパクと食べ進められる。
冬って野菜がさもしいイメージがあるけど、冬野菜は甘みがギュッと詰まっていてとても美味しい。
サラダで口の中をサッパリとさせると、ミーナが炙ってくれた黒パンをコンソメスープに浸して食べる。
表面はパリッとしており、中心部分はスープに浸されて柔らかくなっている。
そのまま食べるには少し硬いパンだけど、こうやってスープに浸せば食べやすい。
それにコンソメスープが染み込んでいるのでとても美味しいのだ。
皆で談笑しながら食べ進めると、あっという間に夕食を食べ終わった。
「旅の最中なのにこんなに美味しい料理が食べられるなんて幸せです」
「普通はもっと寂しい食事になるのだけど、料理の得意なアルがいてくれて助かるわ」
「こういう旅だからこそ食事くらい楽しまないと」
一般的な旅の食事は知らないが、いつもより不便だからこそ食事は手を抜きたくない。
穏やかな生活は素晴らしい食事に支えられるのだ。
さて、夕食が終わったら風呂に入って寝るだけだ。
ただこの家には浴場がないので俺が用意してやる必要がある。
上着を羽織って外に出て、家の裏に回ると土魔法で小屋を作る。
浴場と脱衣所だけでいいので造りはとても簡単ですぐにできた。
湯船に魔法で作ったお湯を注ぐと、もうもうと白い湯気が漂った。
灯りとなるライトボールを天井に設置し、タライや風呂椅子を土魔法で作ってしまえばお風呂場の完成だ。
だが、俺はここで満足しない。
冬のお風呂で億劫になるのは浴場までの道のりだ。
廊下や脱衣所なんかが寒いと気が滅入ってしまう。あの過酷な道のりに心を折られて、風呂を諦める紳士淑女も多いことだろう。そうならないために対策が必要だ。
「玄関から通路を引いて小屋と繋げちゃおう」
家を出て小屋まで移動するのに寒い思いをするのは嫌だ。だったら、直接通路をつなげて囲ってしまえばいい。
風は防げても通路が寒いと意味がないので、火球を浮かばせておこう。
「これで通路も寒くないや」
明るい上に通路も暖かい。これなら浴場への移動で寒い思いをすることがないし、湯冷めだってしないだろう。
通路の出来栄えに満足して家に戻る。
「えっ!? 今、外に変な通路ができてませんでしたか!?」
玄関に戻ると、振り返ったミーナが後ろにある通路を見て驚きの声を上げた。
「ああ、外にお風呂を作ったからその通路だよ」
「魔法でお風呂を作ったのはわかりますが、通路はなんのために?」
「え? 移動するのに寒いとか嫌じゃん。湯冷めしちゃうし」
「……アルフリート様がいると冬の旅も快適ですね」
俺の返事を聞いて、ミーナが呆気にとられたように呟いた。




