進路相談
28日に書籍11巻発売です。
「冬の旅なので過酷なものを覚悟していましたが、暖かくて快適ですね」
馬車の中でミーナのほんわかとした声が響く。
コリアット村を出て数時間。俺たちの馬車は順調に進んでいた。
僅かに残雪があるが、ここ最近は暖かい日が続いていて馬車の進みを妨げるほどではない。とはいっても、まだ冬の真っただ中で寒いことに変わりはないので、俺は火球を浮かばせている。そのお陰で室内はとても暖かくて快適そのものだった。
「普通はこんな風に気軽に魔法で暖をとれないんだけど……」
「魔法使いが二人いると、魔力が贅沢に使えるのが強みだね」
魔法使いにとって魔力は極力節約するべきものだ。いざという時に魔力が使えなくて、戦えませんなんてことになったら本末転倒だからね。
「いや、そういう意味じゃないよ」
そういう意味での言葉だったのだが、俺とノルド父さんの考えていることは違ったらしい。
「そもそも普通の魔法使いは、何時間も魔法を使い続けるのが難しいのよ。単純に魔力が足りないし、維持するだけで神経が磨り減るから」
「それはいくらなんでも軟弱過ぎない?」
驚きのあまりエリノラ姉さんみたいな言葉が漏れてしまった。
いくら俺の魔力が多いと言ってもそれはないだろう。魔法なんて修練を重ねれば、息をするように使って維持することができる。俺にとっては歩くよりも簡単なことだ。
そのようなことを述べると、二人は揃って苦笑いになる。
「アルの周りに一般的な魔法使いがいない弊害ね」
「一番身近なのがエルナだから基準が高くなっているんだよ」
ノルド父さんの言葉に、エルナ母さんがちょっと嬉しそうにしている。
エルナ母さんが魔法使いとしてのレベルが高いのは明らかだからね。
「確かにAランク冒険者のエルナ母さんを基準にするのはおかしいね」
サルバやバグダッドにも魔法技術のおかしさを指摘されたので、最近はそう思うようになった。
「魔法使いの一般常識を学ぶ意味でも、魔法学園に通うのを僕はオススメするかな」
「そうね。シューゲル様はミスフィード家の学園長ですもの。話し合いが無事に終わったら、学園について相談するのもいいわね。入学年齢に達していないけど、アルの才能だったら入学させてもらうことも――」
「却下」
二人の会話が妙な方向に傾き始めたので、被せるようにして否定した。
「どうして嫌なんだい?」
前々から二人が俺を魔法学園に入れたがっているのは知っていたが、ここできっちりと言っておかないとラーちゃんのパパ相手に何を言うかわからない。
「学園に通いたくないからだよ」
「どうして通いたくなくないのかしら? 学園に行けば、友達だってできるし色々なことが学べるわよ? アルは魔法も好きでしょ?」
ノルド父さんとエルナ母さんが揃って不思議そうに首を傾げる。
学園に行きたくないっていうのが心底理解できないような感じだ。
前世でたとえるなら、子供が高校に行きたくないって言ってるようなものか。
「確かに魔法は好きだけど、わざわざ学園で学ぶほどでもないよ。独学で勉強できるし、エルナ母さんだって教えてくれるから」
「確かにそれもそうね」
「エルナ、納得しちゃダメじゃないか!」
「そ、そうだったわ!」
ノルド父さんに突っ込まれて、エルナ母さんが我に返った。
別に俺はすごい魔法使いになりたいわけではない。スローライフをおくるための有意義な魔法の研究に興味はあるが、そのために学園に通って自由な子供生活を棒に振っては本末転倒だ。
「友人作りはどうだい? 学園に行けば、たくさんの人と知り合いになれるよ?」
「別にそこまで貴族の友達は欲しくないかな。爵位の高い貴族とか鼻持ちならない奴が多いし、進んで仲良くなりたいと思わない」
「わかるわぁ」
俺の言葉にエルナ母さんが深く頷く。
ノルド父さんとエルナ母さんは平民から成り上がった貴族だ。超絶な人気とは裏腹に、貴族の一部からは妬まれたりもしている。そのせいで貴族との付き合いで気苦労が堪えないのだ。
「ユリーナ子爵、メルナ伯爵、ウラジー公爵、シルフォード男爵、ドール子爵とだって仲が良いし、貴族との交流はそこまで欲しいと思わないよ」
「ミスフィード家やリーングランデ家の令嬢とも仲が良いですし、アルフリート様って意外と人脈が広いのでは?」
「ここまでピンポイントに有力貴族と繋がりが深いのも逆にすごいわね」
アレイシアとラーちゃんの家と繋がりが深いのかは疑問であるが、人脈が多いと受け止められるのは悪くない。
「そ、そうかもしれないけど、もっと友達は欲しいよね、アル?」
「いんや、全然」
カグラに行けば、春や修一、小次郎がいるし、ジャイサールに行けば、サルバやバグダッド、マヤだっている。冒険者にはモルトやアーバインたちだっているし、コリアット村の村人とも仲が良い。別に寂しくもなんともないし、躍起になって求める必要はない。
思い返せば、昔に比べて大分友達が増えたものだ。
「で、でも、学園を卒業しておいた方が、将来はなにかと選択肢も広いし……」
「リバーシやスパゲッティ、コマ、卓球とかの権利で一生分に近い金額は稼ぎ続けてるけど……」
「それもいつまで続くかわからないだろ?」
「人生ゲームにけん玉、輪投げ、小魚すくい、キックターゲット、投球ターゲット、グレゴールとの人形劇事業とか控えてるよ?」
ノルド父さんは、将来の収入を不安に思っているようだが、とんでもない。
これ以上市場に出すと、家族が混乱するので抑えているのであって、まだまだ稼げるものはたくさんある。現在小出しにしているものだけど、これだけの利益なのだ。
既に俺がどこかで働く必要はないのだ。
そのことを丁寧にプレゼンすると、ノルド父さんはついに黙り込んでしまった。
「アルフリート様は随分と将来のことについて考えてらっしゃるのですね」
「だって、働きたくないから」
「働きたくないがために、幼い頃からそこまで努力しているのがすごいです」
……うん? ミーナの言葉を聞くと、それもある意味本末転倒状態な気がする。深く考えるのはやめよう。これものんびりスローライフをおくるための必要な努力なんだ。
「とにかく、俺は魔法学園に行かないよ。食っちゃ寝しては遊んでって生活を満喫するんだ」
そう。俺は今度こそのんびりとしたスローライフをおくると決めているんだ。だから魔法学園になんて絶対に通わない。
シルヴィオ兄さんの補佐をするなり、氷室の管理者になるなり、趣味程度の働きで安定した収入を得る。それで問題ない。
そう宣言すると、ノルド父さんとエルナ母さんは顔を見合わせて複雑そうな顔になった。
「逆になにが不満なの?」
二人が何を懸念してそこまで学園に通わせようとするのか理解できない。
「うーん、アルの人生設計に問題はないよ。子供の頃からしっかりと勉強もして、魔法も磨いているし、既に大きな収入だってある。大人になって生きていくのに心配はないさ」
「魔法の才能があるから、宮廷魔法使いっていう選択肢もあるけど、本人がやりたくないっていうなら無理に勧められないもの」
「じゃあ、今のままでいいじゃん」
「そうなんだけど、このまま屋敷に置いておくのはとても心配なんだ」
「大人になっても一日中、屋敷に籠ってそうだわ。すごくダメな子にならないか心配よ」
悩ましそうな表情で告げるノルド父さんとエルナ母さん。
俺は二人からそっと視線を逸らした。
その懸念についてはどうしようもない。それが俺の目標なのだから、暖かい眼差しで見守って欲しいものだ。
コミカライズ更新されてます。ついに第三王女の姿が‥‥?




