似た者同士
『転生大聖女の目覚め』の書籍1巻は6月2日発売。
早いところでは本日から並んでいるところもあるそうです。
アニメイト、メロンブックスさんでは特典もあるのでお得です。
「あー、寒い寒い」
朝食を食べ終わった俺はダイニングからリビングに移動。
リビングの中央にあるコタツへと足を滑り込ませる。
すると、足が弾力のある何かにズブリと呑み込まれた。
「うわっ!?」
得体の知れない感触に驚いた俺は、すぐに足を引っ込めてコタツから出る。
慌ててかけ布団をめくってみると、コタツの中にはビッグスライムが入っていた。猫かよ。
「なんだ……お前か。ビックリした」
どうやら俺はビッグスライムの身体に足を突っ込んでしまったようだ。
「俺も温まりたいから入れてよ」
「…………」
俺がそのように言うも、ビッグスライムはまるで動く様子がない。
こいつは怠惰さにかけては他の生き物に追随を許さない奴だ。主であろうと快適なポジションを譲ろうとしない図太い精神をしている。
俺の言うことなんて聞くつもりはないようだ。
いつものようにビッグスライムの身体を変えて、スペースを空けようとするがふと思い留まる。
さっき足を突っ込んだ感触は中々に気持ちがよかった。
別に退かそうとせずに、そのまま足を突っ込んでやればいいのでは?
そう考えた俺は裸足になって足を突っ込んだ。
すると、ビッグスライムの身体はズブリと俺の足を呑み込んだ。
コタツの熱によって温かくなったゲルが俺の足を包み込む。
「ああ、これは形容しがたい心地良さだ……」
全身を使ってクッションとするのとは違った心地良さ。
部分的なお陰か座った時のように意識を持っていかれることはないようだ。
これなら意識を保ちつつだらけることができる。
「朝から心地よさそうだね」
「うん、気持ちがいいよー」
ビッグスライムに足を突っ込んで寝転がっていると、リビングにやってきたシルヴィオ兄さんがクスクスと笑いながらやってきた。
本を手にしていることから、コタツに足を入れて読むつもりなのだろう。
シルヴィオ兄さんがどんな反応するか気になった俺は、注意することなく注視する。
「じゃあ、僕もお邪魔しようかな」
すると、シルヴィオ兄さんはかけ布団をまくって、コタツへと足を入れた。
「ふわっ!?」
「あはははははは!」
シルヴィオ兄さんの驚いた様子がとても面白く、俺は声を上げて笑った。
「今の感触は一体……?」
「ビッグスライムがいるんだよ」
「ああ、ビッグスライムが……」
中を覗き込んだシルヴィオ兄さんが安心したように息を吐いた。
普通、コタツの中に何か生き物がいるなんて思わないよね。屋敷にはそれなりの数のスライムがいるが、コタツに入り込んでくるのはコイツだけだ。
「って、アルはビッグスライムの中に足を入れてるの?」
「うん、温かくて気持ちがいいよ」
「……前みたいに変になったりしない?」
「大丈夫。これなら意識は飛ばない」
以前、ビッグスライムに腰かけて大変な状態になったのは記憶に新しい。
しかし、この状態ならば大丈夫だ。こうして意識を持てている俺がなによりもその証明だった。
「それなら、少しだけ……」
俺の様子を見て安心したのか、シルヴィオ兄さんが警戒を解いてゆっくりと足を入れる。
すると、シルヴィオ兄さんは吐息のような息を吐き。
「ふわぁ……」
とてもだらしない顔をした。
「シルヴィオ兄さん?」
「あー……あはは、気持ちいい……」
心配になって思わず目の前で手をかざすと、シルヴィオ兄さんは熱に浮かされたように呟いた。
一部分だけとはいえ、シルヴィオ兄さんには荷が重かったようだ。
普段から怠惰な日常を味わっている俺は平気であるが、そういった快楽に慣れていないシルヴィオ兄さんには刺激が強かったようだ。
「シルヴィオ兄さんは、もうちょっと怠惰に生きる必要があるね」
せめて、ビッグスライムに足を入れても意識を失わないくらいの怠惰な日常は送らないと。
まずは朝の二度寝から始めることだね。
●
ふと目を覚まして周りを見ると、リビングだった。
どうやらコタツに入って寝転んだまま二度寝をしていたらしい。
柔らかなビッグスライムに足を呑み込ませて、足先を温めながら眠るのはそれはもう最高の怠惰だった。
ふと横を見ると、シルヴィオ兄さんはさっきと変わらぬ様子で意識を飛ばしている。
まだビッグスライムの心地良さを乗り越えることはできないようだ。
シルヴィオ兄さんは普段から勉強をしたり、読書したり、ノルド父さんの仕事を手伝ったりと忙しい。
こうやって無理矢理休みをとらせてあげるくらいが、ちょうどいいだろう。子供のうちから無理をするのは良くないからね。
「それにしても平和だ」
その原因はわかっている。エリノラ姉さんが絡んでこないからだ。
前回のグラビティ事件が発覚し、エリノラ姉さんにはさらなる魔法の授業が追加された。
さすがにデバフ魔法をかけられたまま二週間も気付かない間抜けさに、エルナ母さんも危機感を持ってくれたようだ。
そんなわけで今日も朝から魔法の座学をやらされ、エリノラ姉さんは今も勉強中。
俺とシルヴィオ兄さんはこうやってリビングで平和を謳歌できているわけである。
いやー、平和な時間があるって素晴らしい。
「エリノラ姉さんは毎日朝から晩まで勉強するべきだね」
「そんなの絶対無理。死ぬわ」
寝転びながらぼやいていると、エリノラ姉さんが覇気のない反論をしながらやってきた。
エリノラ姉さんがコタツに足を入れると、ビッグスライムは形を変形させて場所を空けた。
お前、俺がやってきた時はそんな気遣い見せなかった癖に……。
仮にも野生を生き抜いた魔物だけあって、この屋敷のヒエラルキーを把握しているようだ。そんなところが小賢しい。
エリノラ姉さんはコタツに足を入れるなり、テーブルに突っ伏した。
使い慣れない脳を使って、すっかり気力を消費したようだ。
「これくらいで疲れるだなんて情けないわね」
続いてリビングにやってきたのはエルナ母さんだ。
精魂尽き果てたエリノラ姉さんを見て、ため息を吐いていた。
「そうだよ、エリノラ姉さん。いつもの根性はどうしたの? まだ朝の一コマしか終わってないよ」
剣の稽古で俺が言われていることをここぞとばかりに言ってあげると、エリノラ姉さんは気だるそうにしながら一言。
「…………うるさい」
俺がそんな反論をすれば、きっと叩かれているだろう。
エリノラ姉さんもできない側の心理を理解し、もっと優しくなってくれると嬉しいものだ。
「エリノラはすっかりダメなようだし、休憩時間の間は外でアルに魔法でも教えましょうか」
「えっ、本当? エルナ母さんが魔法を教えてくれるなんて随分久しぶりな気がする!」
具体的にはエリックの領地に行った時以来だろうか。
「アルは基本を全て押さえているし、教えなくとも勝手に学んでいくもの」
「じゃあ、今日は何を教えてくれるの?」
「変わった魔法の使い方よ。以前、ノルドがグラビティを弾いてみせた時のようなね」
「なるほど」
グラビティを弾かれるとは思っていなくて、あの時は驚いたものだ。
とにかく、エルナ母さんはそういった魔法の応用を教えてくれるらしい。
エルナ母さんにどんな意図があるのかは知らないが、魔法を使って遊ぶのは好きなので嬉しい。
「魔法を使うだけだし着替える必要もないわね。このまま外に行きましょう」
流石はエルナ母さん、融通が利いて素晴らしい。
ノルド父さんはこういうところが真面目だから、きっと稽古服に着替えるように命じたに違いない。
「わかった」
リビングから移動するエルナ母さんの後ろをついて移動。
廊下を歩いて、玄関にまでやってくるとエルナ母さんは振り向いて酷く真面目な表情で、
「外は寒いから火魔法は絶やさないように」
エルナ母さんのこういう面を見ると、やっぱり俺はこの人の息子なんだなと思う。




