大きな駄々っ子
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「「カレーが食いてえ!」」
朝からうちの屋敷に上がってくるなりルンバとゲイツが叫んだ。
「急にどうしたのルンバ、ゲイツ?」
「言葉の通りだ! 俺たちはカレーが食いてえんだよ!」
「そうなんだ」
「家のカレーがなくなって、もう五日もカレーを食べてねえ!」
「カレーを食わないと手足が震えて、幻覚が見えるようになってるんだ!」
「それ完全にヤバい薬じゃん」
確かマヨネーズの摂取を切らしたエリックも同じことを言っていた気がする。
この世界の人は前世の食べ物を食べると、中毒になってしまう特性でもあるのだろうか。
「アルもそろそろカレーが食べたいだろ?」
「いや、全然」
「嘘だろ? あんな美味いもの作れたら、毎日カレーが食べたくなるはずだ!?」
きっぱりと首を横に振ると、ルンバが信じられないとばかりの顔をする。
「家族にも振舞ってから最近はカレー続きだしね」
カレーを完成させてからエルナ母さんやエリノラ姉さんにせがまれて、連日カレーばかり。一回作ってしまえば三日は続けて食べることになるので、二回目を迎えている今も絶賛カレー中なのである。
「つまり、アルの家族になればカレーが食べれるんだな? じゃあ、俺はスロウレット家の子になるぞ」
「俺もだ」
「さすがにこんなに大きな子供は、ノルド父さんやエルナ母さんもいらないと思うよ」
カレーを目当てにうちの子になろうとするとは、とんでもない執念だ。
というか、二人とも両親よりも年上だ。そんな兄弟は俺もいらない。
「じゃあ、今すぐカレーを作ってくれ!」
「俺たちはカレーが食べたい」
「嫌だよ。面倒くさい」
「ひでえ! 付き合ってるときは、あんなに求めてきたってのに!」
きっぱりと斬り捨てると、ルンバが瞳を潤ませながら言う。
カレーの練習に付き合ってくれている時は、味見を求めた。
少し言葉を抜くだけでとんでもない誤解を招く言い方だ。非常に質が悪い。
「変な言い方しないでよ。そもそもあれはカレーができるまでって約束だったじゃん」
「それでも俺たちはカレーが食べたいんだよ!」
「ダメ」
「「食べたい! 食べたい! 食べたい! 食べたい!」」
きっぱりと否定すると、ルンバとゲイツはあろうことか玄関で寝転がってジタバタし始めた。
……まさか、ここまでやるとは。図体のデカいおじさんが二人してやると、とんでもない絵面だ。
洗濯物を集めているサーラが偶然通りかかったが、巻き込まれたくないと思ったのかそそくさと足を速めて去っていった。
うん、まあそうだよね。これをどうにかしようとする人なんていないよね。
手足を激しく動かして駄々っ子のような抗議をし続ける二人。
リビングには家族全員がおり、絶対に聞こえているはずなのに、そちらも全く動きがなかった。
助け舟が入らないことを理解した俺は、仕方なくジタバタしているおじさんたちに向き合う。
「そうは言ってもカレーに必要なスパイスって高いんだよ? こんな大きさの瓶で金貨何枚も飛んでいくし……」
「「つまり、金さえ積めば作ってくれるんだな?」」
頭を掻きながらそんなことを言うと、ルンバとゲイツは起き上がってすぐに革袋を取り出した。渡された袋を開けてみると、中には大量の金貨が入っている。
一般人なら金貨という単位で怖気づくはずなのに、冒険者である二人はそれなりに収入があるお陰か簡単に出してみせる。
ゲイツもルンバよりはランクは劣るはずだが、やはりそれなりにお金は持っているようだ。
「はぁ……しょうがないな。カレー作りに付き合ってくれたルンバに免じて作ってあげるけど、頻繁には作らないからね? たまにしか食べられない料理って意識を持ってよ?」
「おお! さすがはアル! 話がわかるぜ!」
「勿論、それは理解しているさ」
観念して俺がそのように言うと、ルンバとゲイツがようやく立ち上がって頷いた。
本当に理解しているのか疑わしいが、これでルンバへの借りを返すことができるし、またせがまれても流すことができるだろう。
●
ルンバとゲイツをダイニングルームへ押し込むと、俺は屋敷の厨房にやってくる。
「そういうわけでバルトロ。ちょっとだけ厨房を借りるね」
「坊主も大変だな。俺もちょこっと玄関を覗いたが、ひでえ光景だったぜ」
「……覗くだけじゃなくて助けてよ」
「無理だ。俺にはどうしようもできねえ」
なんて薄情な料理人だろうと思ったが、強くは責められないや。
「カレーはまだあるよね?」
「おう、まだ残ってるぜ」
冷蔵庫を開けてみると、そこにはカレーの入った鍋が残っていた。
残りのカレーがあるのなら、わざわざ一から作らなくて済むので楽でいい。寝かしたカレーの方が美味しいというのもあるしね。
「飯なら俺が炊いておくぜ」
「いや、そのままご飯と一緒に食べるのも飽きたし、ご飯はいいや」
ここのところ唐揚げカレー、串揚げカレー、カレー風グラタンと色々なご飯ものが出てきた。
どちらかというとご飯好きな俺だけど、そろそろ違う食べ方をしてみたい。
「じゃあ、どうするんだ?」
「生地で包んで焼いちゃおうかなって」
「ほう?」
俺のやろうとしている料理に興味があるのか、バルトロは見学することにしたようだ。
ボウルに小麦粉をザーッと入れると魔法で作ったお湯を少しずつ加える。
それを手でこねて固形にしていき、お湯を加えて耳たぶくらい柔らかさにする。
やがて形が纏まってきたら丸めて、布でしっかり包んで冷蔵庫に保存。
三十分ほど経過すると、冷蔵庫から取り出す。
台に打ち粉をすると、もう一度手でこね、それから麺棒で生地を伸ばしていく。
しっかりとした生地ができると、マグカップを使って型抜き。
これで生地は完成だ。餃子に使うような簡単な生地なので作るのもかなり簡単だ。
生地ができると、平行して温めておいたカレーをボウルに入れてパン粉と混ぜる。
ぐりぐりと混ぜ合わせてタネのようになると、成形して丸くなった生地の上に置く。
「おお、包み焼きみてえにするのか! 面白れえな!」
収穫祭の屋台でもこのような生地に包む料理は提供されていたので、バルトロにもピンときたのだろう。
「ねえ、バルトロは一緒に包むとしたら他に何が合うと思う?」
カレーとパン粉で作ったタネだけでも十分に美味しいだろうが、もう少し味に変化が欲しい。
「トマトとかチーズとかキャベツなんかも合うな! それに鶏肉も!」
さすがは料理人。スラスラと食材の提案が出てきた。
「おお、いいね。それも入れよう」
バルトロは仕込みで準備していた具材だけでなく、鶏肉を炒めたりと準備していなかった具材までも作っていく。ライブ感があって楽しい。
俺はバルトロが用意してくれたチーズやキャベツ、トマトを生地に載せた。
零れないように生地の輪郭に水を塗り、もう一枚の皮を載せると綺麗に閉じてくれた。
そうやって具材とタネを入れて閉じると、表面に油を塗って、パン粉を振りかける。
パン粉をお振りかけるのは少しカレーパンっぽくしたいからだ。
油で揚げてしまうのも悪くないが少しヘルシーにしたいので、このままフライパンで焼いていくことにする。
生地を成形してはフライパンに載せて焼く。
ジュウウッという音がなり、崩れないか様子を見ていく。
「こっちのやつも包んで焼いていくぜ?」
「うん、お願い」
全員分になると一度では終わらないので、バルトロにも手伝って焼いてもらう。
フライパンの蓋を開けると、生地がこんがりと焼けて茶色く染まっていた。
中に詰まっているカレーのタネもとても香ばしい匂いを放っている。
それらをひっくり返して裏面も過熱。
両面にしっかりと焼き色がついたら、
「カレーの包み焼きの完成」
そのまま皿に盛り付けては美しくないので、リーフレタスを下に敷いてクレソンをばらまき、彩りとしてカットしたトマトを置くとなおいいだろう。
全員分を焼き終えると、俺は料理を持ってダイニングルームに移動した。
●
「やっときたか!」
ダイニングルームにやってくると、ルンバ、ゲイツが座っていた。
家族で囲むいつもの食卓に二人が座っている光景は少し新鮮だ。
「ただのカレーってのも飽きたから、ちょっとアレンジしたよ」
「おお、カレーを使った違う料理か! それは楽しみだ!」
ウキウキとした様子のルンバとゲイツの前に、カレー料理となるものを差し出す。
「おお? なんだこりゃ?」
「カレーの包み焼きだよ」
「ふむ、カレーを生地で包んで焼いたのか。これは美味しそうだ」
二人の目の前にお皿と食器を差し出すと、俺も席に座る。
「どうぞ、食べてみて」
そのように言うと、ルンバとゲイツは包み焼きを手で掴んで食べた。
「うおおお! 美味えっ!」
「中からじんわりとカレーのタネが出てくる。それだけでなくカレーに合う具材も入っていて美味しいな」
ルンバが吠え、ゲイツが堪能するように感想を述べる。
よかった。二人が食べていたカレーライスじゃないけど文句はないようだ。
パクパクと食べ進める二人を横目に俺も包み焼きを口にする。
表面はカリカリっとした食感。パン粉のお陰でパンの風味がよく出ている。
生地の中からは練り合わされたカレーが出てくる。
「おっ、俺の具材はトマトだ」
加熱され甘みを増したトマトがカレーと非常に合っていた。
過剰な油が含まれていないので、あっさりと食べられて非常に良い。
「こっちはチーズだぜ!」
「俺は鶏肉だな。色々な具材が入っていて飽きないな」
ルンバやゲイツは出てくる具材を言い合って盛り上がっている。
どうやらバルトロの入れてくれた具材は大好評のようだ。やはり、元がカレーなのでカレーに合う食材を入れれば美味しく楽しめるのだろうな。
もうちょっと辛めにしても楽しめるかもしれない。それに次はしっかりと揚げたものも食べてみた
いな。
その辺はまたカレーを作った時に、バルトロにやってもらおう。
「ふう、美味かったぜ」
「ああ、美味しかった」
「二人とも満足した?」
一足先に食べ終わったルンバとゲイルに俺は尋ねる。
約束通り、カレーを食べさせてあげたんだし文句はないだろう。
「美味えけど、この程度の量じゃ手足の震えは止まらねえな」
「ああ、もっとカレー成分を摂取する必要がある」
「つまり、お代わりが欲しいってことね」
二人の注文に呆れながらも俺はダイニングルームを出て、追加の包み焼きを取りにいく。
厨房に戻ると、バルトロが何故か一仕事終えたかのような様子でイスに腰かけていた。
「あれ? カレーの包み焼きは? まだたくさん残っていたよね?」
ルンバとゲイツと俺の分を引いても、厨房にはたくさんの焼いていない生地が残っていた。
「エリノラの嬢ちゃんたちが持っていっちまった」
相変わらず目をつけるのが早い。きっと作っている時から狙っていたのだろう。カレーの匂いはわかりやすいから。
「しょうがないや。それならまた生地に包んで――って、カレーがない!?」
「全員分の生地に練り込んで焼いたらな……」
ということは、ルンバとゲイツを満足させるために、またカレーを作らないといけないのか。
ああ、またしばらくスロウレット家ではカレーが続きそうだ。
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そちらもよろしくお願いします。




