スパイスカレーの完成
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コミカライズも始まります。
「できたよー」
「おお、待ってたぜ!」
「早く食うぞ!」
カレーの出来上がりを告げると、テーブルに突っ伏していたルンバとゲイツがすっかりと元気になった。カレーの香ばしい匂いによって腹を空かせてしょうがなかったようだ。
「いい匂いがするわ!」
皆でテキパキと動いて食器を取り出して、食べる準備をしていると不意に入り口が開いた。
視線をやるとそこにはエリノラ姉さんと、おろおろとしたシルヴィオ兄さんがいた。
「ちょっと姉さん。ノックもせずにいきなり入るのは……」
「別にアルの作った家でしょ?」
エリノラ姉さんは服についた雪を払うと、靴を脱いで入ってくる。
その堂々とした振る舞いはまるで自分の家だと言わんばかりだ。
「エリノラ姉さん、それにシルヴィオ兄さんまで何しにきたの?」
「最近、アルの様子がなんだかおかしいから様子を見にきたのよ!」
「そうしたら、すんごくいい匂いがしたから姉さんが我慢できずに突入して――痛っ!?」
正直に事実を伝えようとしたシルヴィオ兄さんがペシッと頭を叩かれた。
つまり、美味しそうなご飯をたかりにきたってわけだ。
シルヴィオ兄さんはエリノラ姉さんに無理矢理付き合わされたんだろうな。
詳しく聞かずとも二人の行動が容易に推測できた。
カレーが完成する前であれば面倒であったが、完成した今となっては別に問題ない。
「なるほどね。ちょうど新しく作ってた料理ができたから二人も食べる?」
「食べ――じゃなくて、アルがどうしても食べてほしいって言うなら食べてあげるわ」
今さらながらも取り繕うエリノラ姉さん。
じゃあ、食べなくて結構ですなどと言うと、拗ねるのがこの面倒な姉だ。
「どうしても食べてほしいな」
「それならしょうがないわね」
などと言うとエリノラ姉さんは嬉しそうに席に着いた。
「えっと、僕も食べていいのかな? 急に二人も増えて足りなくなったりしない?」
さすがはスロウレット家の良心。きちんと立場を弁えた発言だ。
「大丈夫だよ。元から多めに作っていたから」
「ありがとう、それなら僕もいただくよ。この匂いを嗅いでから何故かお腹が空くんだよね」
美味しいカレーというものは無性に空腹感を刺激するものだ。
食べたことのないシルヴィオ兄さんでもそうだったらしい。
予期せぬ客が二人ほど増えたけど、俺はそれぞれのお皿を用意してそこに炊き上げたご飯とカレーを盛り付けた。
全員がしっかりと席についており、準備に忙しかった俺も席に座る。
来て早々にカレーの匂いに釘付けになっているエリノラ姉さんであるが、一応は俺を待つくらいの良心と理性は残っていたようだ。
「それじゃあ、召し上がれ」
そのように言うと、全員がスプーンを手にし始めた。
「うおおおおおおおおおお! すげえな、アル! 今まで食べてたやつとは全然違うぜ!」
「でしょ? 俺はこれを目指したかったんだよ。今までのただのスパイス風シチューだったから」
「確かにこのカレーに比べれば、今まで食ってたのはパチモンだな」
確かにそうだけど、そうまでハッキリ言われると若干腹が立った。
しかし、ここまで味見役に付き合ってくれたのはルンバなので許すことにした。
彼がいなければ、無数のカレーもどきを大量に亜空間の肥やしにしていたからね。
ルンバはカレーとご飯を一緒にすくって、ガツガツと口の中に入れていく。
「……驚いた。コイツは本当に美味い。香辛料を使った料理だとは聞いていたが、ここまで複雑な味を出せるとは」
一方でゲイツはカレーをまじまじと眺めながら、ゆっくりと味わうようにして食べていた。
ルンバと違って初めて食べたはずだが、彼でも美味しいと感じてくれたらしい。
カレーに夢中になるあまり、突き出した顎がルーに浸っているけど熱くないのだろうか?
「エリノラ姉さんはどう?」
「…………」
こちらに至っては最早返事すらない。
とりあえず、一心不乱にスプーンを動かしている姿から気に入ったのは確かであろう。
「シルヴィオ兄さんはどう?」
「すっごく美味しいよ。香辛料を混ぜ合わせた味もすごいけど、そこに染み込んだタマネギやニンジンの甘みもいい仕事をしているね!」
想像しているよりも細かな感想を述べられた。
そんなところも真面目なシルヴィオ兄さんらしい。
とにかく、美味しいといってもらえて何よりだ。
皆が満足そうに食べているのを確認し、俺も目の前にあるカレーに向き合う。
そっとスプーンをくぐらせると、鶏肉の入ったルーと純白な白米が六対四の割合で乗っかった。銀の匙の上で完成した見事な黄金比。
それを感慨深く眺めると、ゆっくりとそれを口に運ぶ。
最初に感じたのは香辛料に含まれる辛さや苦み、そして微かな酸味。それに加わるカレーの味。
ルーの中にはタマネギやニンジンの甘み、鶏肉の旨みがしっかりと染み出している。
単体ではやや味の濃さを感じてしまうルーだが、白米と食べることによって見事に中和―ーいや、一つ上のランクへと昇華される。
ルーの旨みをしっかりと吸い、丁寧に煮込まれた鶏肉はとても柔らかい。
たっぷりと旨みを吸い込んだタマネギやニンジンもとてもいい味を出していた。
油にしっかりと馴染んだホールスパイスで炒めたお陰で、それぞれの味にしっかりと深みもついている。
「……美味しい」
何度かルーだけを味見していたが、完成品をしっかりと白米と食べるとやはり違う。
これが俺の追い求めていたスパイスカレー。いや、バグダッドの一族のレシピが加わることになって、予想以上の味になっていた。
まさかここまでの味になるなんて……こんなにも美味しいカレーは前世でも食べたことがなかった。本当に美味しい。
ああー、色々と苦労したけどカレーを作ることができてよかった。
「「「アル、お代わり!」」」
「早いよ。もうちょっと余韻に浸らせてよ」
などとカレーを食べながら苦労を振り返っていると、ルンバ、ゲイツ、エリノラ姉さんが一斉に皿を突き出してきた。
いちいち、全員の皿を持って用意するのも面倒だったので、サイキックで操作して空になった皿に白米やルーを盛り付けてやる。
ふわりと浮かせたまま配膳すると、ルンバ達はそれをすぐに受け取って二杯目を食べ始めた。
美味しいのはわかるけど、もうちょっと落ち着いて食べてほしい。
三人の勢いには俺だけじゃなく、シルヴィオ兄さんも思わず苦笑していた。
食いしん坊達が静かになったところで俺も二口目を食べる。
辛みと複数の旨みが混じり合って圧倒的な美味しさだ。
味わって食べているはずなのに、また一口、また一口とすぐに匙が動いてしまう。
美味し過ぎて止まらない。
ルンバ達を落ち着きがないと思っていたが、それは俺も同じだったらしく胃袋へ放り込むように食べてしまう。
身体だけじゃなく、魂までカレーをもっとよこせと叫んでいるようだった。
とはいえ、ずっと同じ味や歯応えでは飽きを感じてしまうな。福神漬けやらっきょうなんかがあれば、いいのだが残念ながらそんなものはなかった。
今度、作る時はキャベツの酢漬けでも加えてみるかな。
なんて考えながら食べていると、気が付けば俺の皿も空になっていた。
「俺もお代わりしようっと」
まだまだ改良すべき点もあるかもしれないが、今は久しぶりのカレーを心から楽しもう。
俺は自分の皿にサイキックをかけて、二杯目のカレーを食べるのであった。
匂いを落とさず屋敷に帰ると、エルナ母さんやミーナ達に察知されてしまい、俺は帰ってからもカレーを作るのであった。
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