三億pv突破記念 読者アンケートss どら焼き
コミカライズ41話が更新されました。
本作品のコミックの電子版4巻、5巻、6巻が3月15日発売です。
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1巻から3巻は既に発売してるので、よければどうぞ。
ガラス越しに眺めると、仏頂面をしたカグラ人の男性がいた。
男性はお玉で生地をすくいあげると、鉄板の上にそれを垂らしていく。
適当に垂らしているように見えるのであるが、気が付けば綺麗な丸い生地になっていた。
クレープ職人が専門の道具を使って丸い生地を作るのは見たことがあるが、ただのお玉でこんなに綺麗な丸い形を作るとは驚きだ。
「……プロの技だ」
美しい職人技に見惚れた俺は、ガラスに張り付くような勢いでどら焼き作りを眺める。
こちらの存在に気付いた男性は、仏頂面ながらも困ったような様子を見せていた。
しかし、動揺したのも一瞬ですぐにどら焼き作りに戻る。
生地の入った大きなボウルにお玉を入れると、鉄板に生地を垂らしていく。
それを縦に三列、横に五列の計十五個。
全ての生地に歪みはなく、綺麗な円を描いていた。
すごい。
男性は最後の生地を垂らしてしばらく見つめると、小さなヘラを手にして、最初に垂らした生地をひっくり返す。
すると、綺麗な狐色に焼き上がった生地が出てきた。
まさしくそれはどら焼きの生地の色。男性は一個目をひっくり返すと、二つ目、三つ目と鮮やかな動きでひっくり返していく。
ひっくり返された生地が鉄板から落ちるようなことや、他の生地の上に乗っかるような無様なことはない。そこが自分の居場所かのようにピタリと同じ場所で裏返る。
まるで鉄板の上に区切られたフィールドがあって、リバーシでもやっているかのようだ。
あっという間に全てのどら焼きをひっくり返すと、男性は腕を組んでじっくりとどら焼きを睨みつける。
そして、最初にひっくり返したものを手で掴むと、そのまま後ろのテーブルに並べていく。
そこには男性の奥さんだろうか? 割烹着を着ている女性がいた。
奥さんは細長いヘラを使って生地に餡を塗り付けると、生地を被せていく。
この旦那にしてこの奥さんあり。その動きも凄まじく速い。もはや、いつ餡をすくっているのか動きが追えないくらいスムーズで滑らかだ。
あっという間にどら焼きが出来上がっていく。
その間に旦那はまたしても鉄板の上に新しい生地を垂らしていた。
餡を挟む作業を見ているうちに、いつの間にか新しい生地が焼かれていく。
ヘラを使ってまたしてもひっくり返されていく。
その瞬間を見るのがすごく気持ちがいい。
別に俺がやっているわけではないけど、見ているだけでそう思えた。
これがプロの技というものなのだろう。
「すみません、どら焼きを五つください」
「はーい」
ひっくり返される動きをひたすらに見つめていると、フラッと子供連れのお客がやってきた。
旦那はそれに反応することなく、餡を挟む作業を終えた奥さんが笑顔で対応した。
それとは引き換え、旦那は笑顔一つ浮かべない。
仏頂面をしたまま鉄板に目を落としている。
この様子を見ただけでこの人に愛想がないのがよくわかった。それを奥さんが補ってあげているのだろうな。
「なにしてるの?」
なんて思っていると、女性客の子供が尋ねてくる。
すぐ傍で立っている俺を不思議に思ったのだろう。
「どら焼き作りを見てるんだ」
「……それ、面白い?」
「プロの技を見るのは楽しい。暇ならちょっと見ていくといいよ」
「プロの技! 見る!」
幼いとはいえ、やはり男の子。プロの技と言われると俄然と興味を示し出した。
ちなみに焼き上げている旦那も若干口角が上がっていた。ちょっと嬉しかったらしい。
少し場所を空けると、俺は小さな子供と並んでどら焼き作りを眺める。
「今やっているのは生地を焼くところだね。お玉を使って、鉄板の上に生地を広げているんだ」
「綺麗な丸い形!」
「そう。たった一回垂らすだけであそこまで綺麗な丸を作れるのは、まさしくプロの技だよ」
「なるほど」
後からやってきた子供にそんな解説をすると、実に素直な反応をしてくれる。
やはり、年下は素直でいいね。
旦那はあっという間に十五個のどら焼きを垂らしていく。
「そして、ここが見どころだよ。ヘラを使って、どら焼きを綺麗にひっくり返していくんだ」
子供が息を呑んで見守る中、旦那が最初に垂らした生地から順番にひっくり返していく。
「うわぁっ! すごい!」
ひょいひょいひょいと返して様子を見て、少年が無邪気な喜びを見せる。
なんか俺が見ていた時よりもひっくり返す動きが速いように思えるのは気のせいだろうか?
「どら焼き買ったから帰るわよー」
「待って。プロの技を見てるから」
「あらあら?」
母親が会計を終えても何のその。子供は俺と一緒にどら焼き作りを眺めることにしたようだ。
母親はそれを咎めることなく、子供の後ろに立ってのんびりどら焼き作りを眺めることにしたようだ。
子供の興味を逸らさず、好きにさせる。実にいい教育方針だと思う。
ジーッと眺めていると、どら焼きがドンドンと焼き上がる。
そして、焼き上がったどら焼きは奥さんが素早く餡を挟んで完成させていく。
そんな動きにも子供は興味を示しており、目を輝かせていた。
「はい、サービスです」
「わあ、ありがとう!」
「ありがとうございます」
ジーッとどら焼き作りを眺めていると、奥さんが出来上がったばかりのどら焼きを渡してくれたので、俺と子供は素直に受け取る。
出来立てのどら焼きは温かい。包み越しでもその温もりがよくわかる。
一口食べると、優しい生地の甘みとしっとりとした餡の甘みが広がる。
ひとくち齧るとほっと和むような味わいだ。
そう、これだ。これこそ俺の求めていた和風の甘みだ。
「お母さんもどうぞ」
「いいんですか? なんかすみません」
「いえいえ。子供に見てもらえると店主も気合が入りますから」
俺と子供が食べていると、後ろにいた母親も貰っていた。
なんともほっこりするやり取りだ。
「どら焼き三個くれ!」
「こっちは十個でお願いします」
「はーい、ただいま!」
数人が店の前に集まっていると通行人も気になるのか、続々と新しい客が集まってきた。
「どら焼きか……久しぶりに食ってみるか」
「最近食ってなかったな」
客が多く並ぶとまた多くの通行人の目に留まって、新しい客が寄ってくる。
おお、最初は俺一人が眺めているだけだったのにいつの間にか大賑わいだ。
さすがの人の多さに母親が子供を引いて、帰っていく。
これだけ賑わっていると、ゆっくりとどら焼き作りを眺めてはいられないな。
並んでいる客にも迷惑だろうし。
どら焼き作りが眺められなくなって残念だけど、お店が繁盛してくれるのは嬉しいので大人しく俺も帰ることにしよう。
「……持ってけ」
名残惜しく思いながらも店の前を離れようとすると、生地を作っていた旦那が包みに入ったどら焼きを渡してくる。
初めて喋ったことや、十個入りのどら焼きを渡されたことに戸惑う。
「こんなにいいの?」
「……お前さんのお陰で客が増えたからな」
「ありがとう」
ややぎこちない笑顔ではあるが旦那の気持ちはとても伝わってきた。
俺は礼を言うと、素直に受け取って店の前を離れる。
それから人気の無い裏路地に移動すると、転移を使って再び神社に戻ってくる。
屋台街とは違って人気のない境内を歩いて、階段に腰を下ろす。
紅葉した山々を眺めながら、俺は旦那に貰ったどら焼きを頬張った。
「うん、美味しい」
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これにて読者アンケートストーリーは終わりです。
次から本編に戻ります。




