三億pv突破記念 読者アンケートss 消えたフィギア
「……甘いものが食べたいな」
騒がしい収穫祭が終わり、まったりとした秋のこと。
自室のベッドに寝転がっていた俺は、唐突に甘いものが食べたくなった。
この屋敷にも甘いものはある。プリン、ミルクジェラート、クッキーなどなど。
俺がバルトロに教えたお菓子はたくさんあり、ダイニングやリビングではそれらが常に置かれている。
しかし、それも食べ飽きてしまった。今はそういった洋菓子系よりも落ち着いた和菓子のようなものが食べたい。
しっとりとした甘さの控えめな素朴な甘み。そういったものが食べたい。
一応、亜空間にはカグラで買っておいたお菓子が保存されているが、屋敷の中で不用意に食べればエリノラ姉さんやエルナ母さんが察知して踏み入ってくるかもしれない。
身内だけでなくメイドのミーナやサーラといった使用人も要注意だ。
彼女たちは甘味に対する知覚力が半端ない。
この間みたらし団子を一本食べただけで、エリノラ姉さんが踏み入ってきたことがあったしな。
安心して食べるには屋敷から離れた場所がいいだろう。
しかし、そうなると最早外出しているのと変わらないな。
それならいっそ、カグラに転移して屋台を巡りながら食べ歩きした方が楽しそうだ。
「よし、カグラに行こう」
今ならまだ秋だし、外を歩いても寒くない。
というか、この時期を逃すと寒くなるのであまり出歩きたくなくなるしな。
コリアット村とカグラでは気温の差が少しあるくらいだ。行くなら今しかないだろう。
そう決めた俺は起き上がり、外に出かける準備を整える。
「ちょっと適当に散歩してくるよ。夕方までには戻ってくるから」
「わかりました。気をつけて行ってらっしゃいませ」
玄関で出会ったサーラにそのように告げると、俺は屋敷の外に出る。
平原までやってくると周りに誰もいないことをしっかり確認し、俺はカグラの神社を思い浮かべて転移した。
景色が捻じ曲がると、俺は一瞬でカグラにある神社にやってきていた。
見上げると今日も綺麗な鳥居がそびえ立っている。
普通に街中に転移してもいいんだけど、ここの景色は眺めがいいのでついやってきたくなる。
「早くしろ! 父上に見せびらかすのだ!」
「お待ちください! そのように勢いよく駆け下りては危険です!」
階下からはそんな声が一瞬聞こえたが、すぐに遠くなって聞こえなくなってしまう。
俺がやってくる直前までは誰かが遊んでいたのだろうか。元気なものだ。
今の時間は誰もいないのか神社は閑散としていた。
サーッと風が吹いて、神社の周りにある木々が葉音を鳴らして、木の葉を散らす。
ちょうどこちらでも紅葉のシーズンなのか葉っぱの色がすっかりと染まっている。
赤や黄色に染まった葉っぱがヒラヒラと落ちていく様子はとても綺麗だ。
「おっ、綺麗な葉っぱだ」
見事に赤く染まった葉っぱを拾い、ポケットの中に入れた。
こういった綺麗な色をした葉っぱを集めるのは結構好きだ。その土地にやって色々な木々の種類があるので違いを確かめるだけでも楽しい。
亜空間に収納しておけば劣化することはないので、いつでも綺麗な葉っぱを眺めることができる。
「いっそのこと落ち葉を全部回収しちゃおうか。そうすれば、いつでも紅葉が楽しめる」
大量に紅葉した葉っぱを保存しておけば、紅葉シーズンが過ぎても疑似的に楽しむことができる。我ながら天才的な発想だった。
閃いた俺はすぐに風魔法を使い、周囲に落ちている葉っぱをかき集める。
その際には余分な虫や砂を風で除去し、全て綺麗にした上でこちらに引き寄せる。
亜空間の中にある樽を取り出して、その中に葉っぱを投入。
そして、蓋を締めると樽ごと亜空間の中に収納した。
これで保存は完了だ。焼き芋を作りたい時なんかに使ってもいいな。
ひとしきり落ち葉を回収した俺は、適当に辺りを散歩する。
端の方には、以前と変わらないままにしめ縄を巻かれた大岩が設置されていた。
相変わらずこの岩の位置づけがよくわからない。俺と春が遊んでいた岩なのは確かなのだが、どうしてこのような縄が巻かれているのか。
「……あれ? 俺の置いた水神様のフィギュアが無くなってる」
ふと岩を眺めていると、以前俺がやってきた際に設置したものが無くなっていることに気付いた。
石段の上に置かれているお供えものもなくなっているし、誰かが持ち去ってしまったのだろうか。
神社といえば、お転婆な少年少女のたまり場だ。きっと、近所の悪ガキが持ち帰ったのだろうな。
せっかく俺がご神体として箔が付くように置いたのにな。
土魔法を使って、ちょちょいと作ったものなので腹は立たないがちょっと悔しい。
「よし、今度は悪ガキが持ち帰り難いようにしよう」
脳裏で次のご神体の方向性を決めた俺は、土魔法を発動してやる。
前回は小さなフィギュアにしたから持ち帰られてしまったんだ。今度は簡単に持って帰れないように大きくしてやろう。
水龍の大きさを一メートルほどの大きさに。これだけの大きさと重さとなると、さすがに子供の力では持ち帰ることもできまい。
そして、見る者に畏怖を抱かせるような迫力のある表情と動作を追加。
こうすることで悪ガキどもが安易に手を出させないようにしてやった。
「よし、これでそう簡単に盗られることもないだろう」
ちょっと大きさと迫力が増してしまったが、これなら悪ガキに盗まれることもないだろう。
満足のできるクオリティのフィギュアを作った俺は、神社を後にして街に向かった。
●
転移でカグラの内部に入った俺は、甘いものを探すために屋台街をうろつく。
ちなみに服装は甚平に着替えている。
こちらではカグラ服が一般的なので、異国の服を着ている子供というのは目立つからな。
将軍家である春や楓がこの辺りをうろついているとは思えないが、目立たないでいるのが得策だろう。見つかったらどうやってきたんだと根掘り葉掘り聞かれそうだし。
秋なので少しだけ肌寒いが、周囲には俺と同じように甚平の者もいるので、あまり浮きはしないのが救いだった。
カグラの通りは今日も賑やかだ。通りを行き交うほとんどの人が黒髪黒目。
そして、ほとんどが着物のような服を着ている。まるで、江戸時代にタイムスリップしてしまったかのようだ。
色鮮やかな髪色や瞳の色をする者が多い、コリアット村とは違って色調がとても落ち着いているな。
賑やかな屋店街を歩いていると、周囲からとてもいい匂いがしてくる。
醤油を使った料理や味噌を使った料理が多いのだろう。
焼きおにぎりや五平餅を焼いている屋台もあり、それはもう香ばしい匂いだった。
あまりの匂いの良さに引き寄せられそうであるが、今日の目的は甘味だ。
足を進めていると、やたらと人が集まっている場所がある。
何事かと覗いてみれば、餅屋が威勢のいい声を上げながら餅を作っているようだ。
一人のものが手で餅をこね、もう一人が杵で餅をつく。
見事なコンビネーションで観衆を楽しませているようだった。
餅も悪くないが、今食べたい気分なのはもっと落ち着いた甘味だ。それに人混みの多いところではゆっくり食べることもできない。
何となく今の気分とは違うなと思った俺は、餅屋を通り過ぎる。
奥へ奥へと向かって歩いていると立ち並ぶ屋台も終わりを見せてきて、行き交う人も少なくなってきた。
なんとなく物寂しいように見えるが、俺としてはこれくらい落ち着いている方が好きだった。
風通しのいい端っこの屋台を覗いていると、『どら焼き』と書いている店が見えた。
どうやら屋台街の先にある端っこのお店らしい。
屋台街の入り口にあるせいであまり立ち止まる人がいないのか、客は誰もいない。
「おっ、どら焼きか……いいね」
俺の想像している落ち着いた甘味とぴったりだ。
そのまま屋台街を抜けて、俺はポツリと佇むどら焼き屋に向かうことにした。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録や★での評価をお願いします。




