逆効果?
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』のコミック6巻が2月8日発売です! Amazonでも予約できますのでよろしくお願いします。
またコミック1巻から3巻の電子版も発売中です。
コミック4巻から6巻につきましても後ほど電子版が発売されます。四千、八千、四千文字くらいの書き下ろし小説がついてますのでそちらも何卒。
この稽古が心理的要因のあるものだと気付いたのか、エリノラ姉さんが先ほどよりも動きや視線にフェイントを入れるようになってきた。
加速したかと思えば、止まり、そこからまた急加速。右に走るとみせかけて、反対側の空いた空間への疾走。地面に降り積もっていた雪が激しく舞い上がり、キラキラと輝く。
まるで剣を踊る美しい雪の妖精のようだ。
多分、考えてやってるんじゃなくて感覚だろうな。
細かいことを考えるのは苦手な姉であるが、こと本能的な嗅覚の鋭さは追随を許さない。
だけど、思い通りにはさせない。
相手がこちらを騙そうとするのであれば、相手の余裕を奪ってしまえばいい。
死角で牽制するにとどめておいた剣をも動かし、全ての剣で集中攻撃をたたみかける。
十本の剣による超連続攻撃。際限のない怒涛の連撃でエリノラ姉さんを襲う。
自動剣術は通常の人が扱うようなモーションは一切なく、ためを必要としない。たとえ、攻撃を防がれようともすぐに次の攻撃に移ることができる。
小細工無しの物量と魔法の特性を生かした連撃。
「ハッ!」
エリノラ姉さんが鋭く気合いのこもった声を上げながら剣を振るう。
カカカカカカカカカカッ!
俺の目に見えたのはただの一回の振り下ろし。
しかし、次の瞬間には同時に襲いかかった十本の剣が全て弾かれていた。
「……どうなってるんだよ」
昔、稽古途中に見せた一回の振りで、木の葉を四つ切りにした技の応用だろうか? 今回の技はその二倍以上の成果を見せている。エリノラ姉さんも成長しているということだろうな。
とはいえ、エリノラ姉さんが俺との自主稽古ごときであのような技を使うのは初めてだ。いつもはただの通常攻撃で撃沈だからな。
それを思うと、自動剣術による稽古は確実にエリノラ姉さんの体力を奪っていることだろうな。
そのことに一安心した俺は、無心で剣を動かし続けた。
●
「アルフリート様、そろそろ朝食のお時間です」
自動剣術による稽古を続けることしばらく。
扉をノックしてきたサーラの声によって俺は我に返った。
朝早くに起きて付き合っていたが、もう朝食の時間になったらしい。
いつまでも元気に動き回るエリノラ姉さんを追い詰めるのが楽しくて、つい夢中になってしまった。
「わかったけど、どうしようかな。急に止めづらいんだけど……」
中庭では今もエリノラ姉さんが十本の木剣を相手に攻防を繰り広げている。
かなり集中している様子で正直、弟の俺でも声をかけづらい雰囲気だ。
朝食だからやめるなどと言えば、あの鋭い視線で射貫かれてしまいそう。
「大丈夫です。エリノラ様の方にはノルド様が向かっておりますので、合わせて止めてもらえればと」
「なるほど」
さすがはできるメイドだ。エリノラ姉さんへのフォローが完璧だ。
窓を開けて下を覗き込むと、ちょうど玄関からノルド父さんが出てきた。
こちらを見上げると魔法を止めるようにジェスチャーをしたので、俺はサイキックで操っていた木剣を制止させた。
すると、急に剣を止めたからだろう。エリノラ姉さんの最後に振るった斬撃が直撃し、ノルド父さんの方へ飛んでいく。
「はい、エリノラ。自主稽古はおしまい。朝食の時間だよ」
飛来した木剣を素手で掴みながら穏やかな声音で告げるノルド父さん。一般人なら直撃して大惨事になっていたことだろう。
集中していたエリノラ姉さんが反射的に鋭い視線を向ける。が、ノルド父さんはそれに動じたことなく涼しく受け流した。
「……わかった」
エリノラ姉さんは息を大きく吐き出すと、素直に臨戦態勢を解いた。
その瞬間、俺は近くに浮かせてある木剣でコツリとエリノラ姉さんの頭を小突いた。
「おお、クリーンヒットだ」
コテリとエリノラ姉さんの頭が傾く。
一番気が緩んだ瞬間を狙ったとはいえ、本当に当たるとはビックリだ。
「いい度胸してるわね! アル!」
大きな瞳に怒りの炎を灯したエリノラ姉さんが、目にも止まらない速さで屋敷に戻ってくる。
「俺は剣を動かすのを止めろとは言われてないもんね!」
「いや、僕が自主稽古は終わりだって言ったじゃないか」
「……言いましたね」
下と後ろからそんな呆れた声が聞こえるがスルーだ。
こっちだってずっと剣を動かしていたんだ。一撃くらい入れられないと面白くないじゃないか。
●
「……風」
お風呂から上がって私服を身に纏ったエリノラ姉さんは、洗面台にくるなり実に偉そうな態度で告げた。
「かしこまりました」
肉体的な粛清を何とか回避させてもらった俺に、それを拒否する権利はない。
従順な執事の如くイスを引いて、エリノラ姉さんを座らせる。
そして、風魔法と火魔法による複合で温風を送ろうとしたのだが、エリノラ姉さんの髪がとても湿っていることに気付いた。
「風で乾かす前にタオルで水気を拭ってもよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
エリノラ姉さんの長い髪をバスタオルで丁寧に拭って差し上げる。
この姉、俺にやらせるために敢えて水気をとらなかったんじゃないだろうかと思ったが、エリノラ姉さんは基本的に大雑把なので判別がつかないや。
バスタオルできちんと水気をとってから、俺は温風で髪を乾かすことにした。
「温度は熱くないでしょうか?」
「ちょうどいいわ」
問題ない返事を頂いたので、俺はどのまま魔法でエリノラ姉さんの髪を乾かした。
仕上げに櫛でしっかりと綺麗な髪を梳くと髪の完成は終わりだ。
「できました」
「髪も結んで」
そこまで俺にやらせるんかい。心の中で突っ込みながらも洗面台に置かれている、ヘアゴムを手に取って、ポニーテールを作ってやる。
エリノラ姉さんの髪の毛はサラサラとしていて、とても纏めやすいや。
「これでどうです?」
「あたしより上手いのが納得いかないわね」
それはエリノラ姉さんの女子力が低いだけじゃない? という言葉が出そうになったが賢い俺は堪えた。
まあ、俺の場合は前世で姉が三人もいたからね。デートの時やここ一番の時は髪を結うのを手伝わされていた。
厳しく指導されたこともあってか、女子力の低い女性には負けない技術があるつもりだ。
「逆にエリノラ姉さんはもうちょっと丁寧に結うべきだよ。たまに斜めになってるし」
「別に少しくらいずれてても誰も気にしないわよ」
本人はそうでもエルナ母さんは気にするだろうな。しっかり結びなさいと。
まあ、その辺りの意識改善は母親に任せるとしよう。絶望的だけど。
「はい、これで終わり」
「ありがとう」
お世話をばっちりとすることで、ようやく俺の罪は許されたのだ。
これでさっきの不意打ちで小突いた件に関してはお咎め無しだ。
エリノラ姉さんに続く形で俺もダイニングに向かう。
エリノラ姉さんのお世話をしていたせいでまだ朝食を食べていない。
部屋で魔法を使っていただけとはいえ、それなりに集中してやっていたのでお腹がペコペコだ。
「ようやく来たわね。もう先に食べてるわよ? あなたたちも早く食べなさい」
ダイニングルームに入ると、エルナ母さんが言ってきた。
基本的に全員揃って食べるのがスロウレット家のルールであるが、さすがにこれだけ遅いと先に食べている。
テーブルの上には野菜と鶏のクリームシチュー、プレーンオムレツ、サラダ、パンといった料理が並んでいる。実に美味しそうだ。
俺とエリノラ姉さんは速やかにいつもの席に着いた。
「さすがにあれだけ動けば満足したよね?」
「なに言ってるのよ。ようやく身体が温まってきたところじゃない」
「ええ? あんなに激しく動いたのに?」
「あんなのまだまだ序の口。さっきはいいところで止められちゃったから朝食を食べたらすぐに続きをやるわよ!」
俺の質問にエリノラ姉さんはそのように答えると、もりもりと朝食を食べ始めた。
自主稽古に連れ出されなくなったけど、確実に稽古の時間が増えていない?
「嫌だよ。俺はもう疲れたから」
「部屋からでもできるんでしょ? ちょっとくらい付き合いなさいよ」
あれ? 部屋の中からでも稽古に付き合えるから断れる口実が減ってしまっている? 自分が楽をするために編み出した技なのか、自分を苦しめているような。
自動剣術を開発したのは失敗だったかもしれない。今さらながらそんなことを思った。




