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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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マナー

コミカライズ更新されました。

遂にラーちゃん登場です。

詳しくはこのマンガがすごい!Webをチェック!


「寒っ……」


 ここのところ朝日による目覚めではなく、ヒンヤリとした空気で目覚めることが多くなった。


 ベッドの外は凍てつく空気が広がっており、俺の身体はベッドから離れることを拒否している。


「こういう時は二度寝するに限るね」


 既に温かい空間がここにあるのだ。無理して外に出る必要はない。


 寒くなった冬は二度寝をするのに最高の季節だ。


 ベッドの中に顔を埋めて、俺は瞼を閉じることにする。


 ああ、このぬくぬくとしたベッドの中の体温を感じながら、意識の境界線を揺蕩う感触がいい。


 しばらく心地のいいまどろみを味わっていると、不意に扉がノックされた。


「アルフリート様、起床のお時間です」


 静かな寝室に響き渡る凛とした言葉。メイドのサーラだ。


 起床の時間なんてものを決めた覚えはない。


 それは彼女が勝手に決めた時間なのであって、素直に俺が従ってやることもない。


「入ります」


 そのまま返事をせずに目を瞑っていると、サーラが合鍵を使って勝手に中に入ってきた。


 俺がサイキックで扉にロックをかけて引きこもる事をやっていたからだろうか。


 非常時の備えとしての合鍵をデフォルトで持ち歩くようになっている。なんという備えの良さだろうか。


 いきなり侵入されてしまうという予想外の出来事が起こったわけだが、そう簡単に起きてやる俺ではない。


 狸寝入りを決め込んでいると、サーラの手が肩に触れて揺すられる。


「アルフリート様、起きてください」


 サーラに軽く揺すられた程度で起きる俺ではない。


 むしろ、その振動と優しい声は俺にとって子守歌のようで意識が暗闇の方へと傾いていく。


「アルフリート様、今起きないと……」


 今、起きないとどうだというのか。


「――エリノラ様がやってきます」


 心地のいい子守歌が一転して、死へと誘う旋律のように聞こえた。


 エリノラ姉さんという名前を出された俺は、無意識の内に意識を覚醒させ身体を起き上がらせた。


 天敵の出現を予期させる言葉に、俺の身体が無意識に生存本能を働かせてしまう。


「おはようございます、アルフリート様」


「…………サーラ。その起こし方は反則じゃない?」


「皆さまが揃って朝食を食べるためですから」


 非難するような眼差しを向けるも、サーラは涼しい顔で流した。


 生存本能が全開になってアドレナリンが出たからだろうか。眠気なんてものは一瞬で吹き飛んだ。最早、二度寝をしようなんて気分にもなれない。


 仕方がなく俺は寝間着から私服へと着替えることにした。




 ◆




 ダイニングで朝食を食べ終わると、家族そろってリビングに移動する。


 食後にはこのようにリビングでゆったりするのがスロウレット家の常。


 まずは温かい紅茶を飲みたいところであるが、その前に身体を温めたい。


「……なんでお前が一番いいところに陣取っているんだ」


 目的地にたどり着くと、そこにはまるまるとした大きなスライム。ビッグスライムが暖炉の前に陣取っていた。


 特に何をするでもなく暖炉の炎を見つめるかのようにジーッと佇んでいる。


「すごいよね。バルトロが暖炉をつけると一番にやってきたみたいだよ」


「アルと同じね」


 ソファーに座っているシルヴィオ兄さんとエリノラ姉さんが口々にそんなことを言う。


 瞬時に居心地のいい場所を見つけるなんてやるな。まるで猫みたいだ。


 スライムの分際で一番居心地のいい場所にいるとは生意気だ。


 ビッグスライムなのでその上に座ってやろうかと思ったけれど、そうすると一日が無為に吹き飛ぶので止めることにした。


 この堕落のソファーに身を埋めるとどうなってしまうかは、先日嫌という程にわかった。


 使いどころを見極めなければいけない。ああなってしまっては温かい紅茶も飲めないからな。


 こちらの想定とは違って、意外と使いどころが難しいクッションになってしまったものだ。


 というか屋敷にやってきて一週間しか経っていないのに馴染み過ぎだ。


 最初こそ大きさに警戒していたノルド父さんも、今ではまったく気にしていない。


 それに今もこうしてリビングにいても何ら違和感がない。とんでもない順応性だ。


 でも、そこは俺の場所なので退いてもらおう。


 そう思ってビッグスライムの体を押してみるも、意外と重いのか単に抵抗しているのか離れてくれない。


「そこは俺の特等席なんだ」


 しかし、そこで素直に引き下がっては主としてのプライドに傷がつく。


 それならばと思ってビッグスライムの体をこねて、縦に長くしてやった。


 すると、ビッグスライムの体が円柱のようになる。


「よし」


 どうせ体はゲル状でいくらでも変形できるのだ。このように体積を変えれば、俺も隣に座ることができる。


 空いたスペースに俺は座り込むと、暖炉の炎を存分に味わう。


 あー、炎の熱が気持ちいい。火球で手っ取り早く温まるのもいいけど、パチパチと弾ける薪の音を聞きながら、ゆっくりと炙るのも醍醐味というものだ。


「アルフリート様、紅茶はどうされますか?」


 暖炉で身体を温めていると、サーラが尋ねてくる。


「あー、レモンティーで」


「かしこまりました」


 今日はホットレモンティーを飲んで温まりたい気分だったのでそのようにリクエスト。


 ワゴンの上に載っているティーセットを使って、サーラが手際よく準備する音が響く。


 地面で紅茶を飲むのもどうかと思えたので、身体が温まったところでソファーに移動。


 すると、円柱になっていたビッグスライムは即座に元の形に戻った。


 すぐに形を戻さなかったということは、一応俺にも居場所を分けてくれる優しさはあったみたいだ。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 サーラがソーサーに載せたティーカップをテーブルに置いてくれたので礼を言う。


 すると、サーラは上品な笑みを浮かべて壁際に控えた。


 ティーカップが熱くなっている可能性があるので、ソーサーをしっかりと持ち上げながら上品にホットレモンティーに口をつける。


 茶葉の風味とレモンの風味がほどよく混じり合っている。


 酸味と微かな甘みがとてもよく、寝起きの身体の内側からしっかりと温めてくれる。


 まさに俺好みの味。今日もサーラはいい仕事をしている。


 紅茶をひとくち口にすると、ソーサーをテーブルに置く。


 その時少し気が抜けていたせいだろうか、ガチャッと擦れるような音が鳴った。


 それを見て対面にいるエリノラ姉さんがフッと笑った。


 そして、自らの品の良さをアピールするように丁寧に持ち上げて飲み、音を鳴らさないようにテーブルに置く。


 そして、渾身のどや顔。


 しかし、弟である俺がミスって、露骨に目の前で見せびらかしてくるのは感心しない。


 ちょっとムカついた俺は一策を講じることにした。


「エリノラ姉さんって、こういう所作に関しては上手いよね」


「ふふん、アルとは違って完璧よ」


 予想通りよいしょすれば、ここぞとばかりに鼻を高くするエリノラ姉さん。


「待ちなさい、エリノラ。今の所作で完璧だなんて思い上がり過ぎだわ。こっちにきなさい」


 そして、そんな一言を見逃さない教養の持ち主がここにいた。


 洗練された貴婦人であるエルナ母さんからすれば、娘がレベルの低い所作を見せびらかして鼻を高くしているのが我慢ならなかったのだろう。


「え? いや、あたしは……」


「早くきなさい」


「は、はい」


 エリノラ姉さんが抵抗するも、得体の知れないエルナ母さんの迫力に素直になる。


 エリノラ姉さんが横を通って移動する際に、ニヤリと笑ってやる。


 すると、エリノラ姉さんはハメられたことに気付いたのか顔を真っ赤にした。


「母さん! あたしよりもアルに指導するべきじゃない!? さっきガチャンッて音立ててたし!」 


 こちらを指さしながらとんでもないことを口走るエリノラ姉さん。


「自分が怒られたからって俺まで巻き込もうとしないでよ。エルナ母さん、エリノラ姉さんの腐った性根を叩き直してあげて!」


 目の前でマウントとってきたり、弟を道連れにしようとしたり色々と酷い。


「……それも一理あるわね。アルもいらっしゃい」


「うえええええ!」



 こうして、この日はテーブルマナーのレッスンで一日が潰れた。





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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
ビッグスライムはアクアハウンドのカバーから出してあげてるんですね。他のスライムより待遇がいいw
怠惰惰眠で一日を無為に過ごすより、何倍も有意義に過ごせてよかったね、アルくん(笑)
[一言] 流れるように自爆するとは···これがアルクオリティか
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