魔物の出現!?
書籍9巻発売中。コミカライズ最新話公開されました。
「これでどうかな?」
スライムを火魔法で軽く温めた俺は、そのまま専用の皮を被せて枕にしてみる。
「……うん、これくらいがちょうどいいや」
スライムは冬になると、寒さで若干硬くなってしまう。
だから、こうやって魔法で温めてあげないとちょうどいい硬さにならないのだ。
まあ、他の人からすれば、温めなくてもちょうどいいかもしれないが俺の理想としてはちょっと温めたくらいがちょうどいいのだ。
スライムがほんのりと熱を持っていて首元が温かく、とても気持ちがいい。
このまま二度寝に入ってしまおう。
などと目を瞑っていると、階下から騒がしい気配がする。
足音のリズム的にエリノラ姉さんでも使用人でもない。
「おーい、アル! 入っていいか?」
そんな風に不思議に思うのも一瞬、気配の主は扉を勢いよく開けて入ってきた。
「いや、返事する前に入ってきてるじゃん。というか、どうしたのルンバ?」
エリノラ姉さんならともかく、ルンバがこんな風に入ってくることはほとんどない。
どうも忙しそうであるが何が起こったんだ?
「村の近くで魔物が出た!」
「…………」
ルンバの要件を聞いて思わず固まってしまう。
「いや、それを俺に言ってどうするの?」
「……冷静だな?」
「強い魔物が出たならエリノラ姉さんか、我が家の生きる伝説ドラゴンスレイヤーを派遣すれば済む話だから」
コリアット村の近くに魔物がたまに現れるのは知っているが、この三人を出動させれば万事解決だ。仮にドラゴンが現れたとしても、俺はそこまで危機感を抱いたりしない。
目の前にはルンバだっているし、料理人のバルトロだって元冒険者で戦える。それに魔法使いのエルナ母さんもいるし。
「それもそうだが、つまらねえな。アルの慌てるところを見たかったのによぉ」
「子供の悪戯か」
ルンバの種明かしに思わず突っ込んでしまう。トール並の悪戯だった。
「それで本当の用事はなんなの?」
「いや、魔物が出たのは変わりねえ」
「予想よりも数が多かったから応援が欲しいとか? それならノルド父さんが執務室に――」
「ビッグスライムが出た!」
ノルド父さんに振ろうとした俺であるが、ルンバの一言を聞いて目を見開いた。
「本当?」
「ああ、本当だぜ」
ビッグスライム。体調一メートルを越える巨大なスライムだ。
スライムの進化体や集合体と言われており、詳しい生態系はわかっていない。
スライムよりも打撃が効きにくくなっているらしいが、貪欲に人を襲うような危険な魔物でもない。
普通ならそれがどうしたと言われるような価値のない魔物であるが、うちでは違う。
そう、ビッグスライムは我が家の新たなクッションになれる可能性のある魔物なのだ。
小さなスライムでこの心地良さ。ビッグスライムの大きさと弾力を活かせば、どのようなスライムクッションができてしまうのやら。
「ビッグスライムはどこにいるの?」
「東の山でエリノラ達が見張ってる」
そういえば、今日は自警団と一緒に山の見回りに行くと言っていたな。その途中で発見したのだろう。
「よし、捕まえに行こう!」
「…………」
俺が勇ましく言って起き上がると、ルンバが酷く驚いたような顔をする。
「どうしたの? 面食らった顔をして?」
「いや、だってビッグスライムとはいえ魔物だぜ? 魔物がいるところにアルは基本的に行かねえだろう?」
「うん、普通の魔物なら絶対に行かないね。でも、今回はビッグスライムだから」
「……エリノラも言っていたが、なんでビッグスライムなら行くんだ?」
どうやらエリノラ姉さんはルンバに十分な説明をしていなかったらしい。それだけエリノラ姉さんもビッグスライムに出会えて動揺してしまったのだろうか。
俺は普段着から防寒着を身に纏いながら説明する。
「ここにある枕を触ってみなよ」
「お、おお? なんか弾力があって柔らけえな?」
「そこに入ってるの、何だと思う?」
「……もしかしてスライムか!?」
「うん、うちではスライムをクッションにして使っているんだ。そして、今度はビッグスライムをクッションにしようってわけ」
「魔物をクッションにしようと考えるとは。さすがはアル! 頭のネジがぶっ飛んでるな!」
「……なんで俺が考えた前提?」
「違うのか?」
「いや、合ってるけど……」
合っているんだけど、その例え方は解せない。頭のネジがぶっ飛んでるってなんだ。
別に大した害はないんだし、魔物をクッションにすることくらい普通だと思う。
「まあいいや。そんなわけでビッグスライムを捕まえるよ」
「おう!」
◆
防寒着へと着替えると、俺達は速やかに屋敷を出て裏山へと向かう。
「アル、結構道が埋もれてるけど進めるか?」
「大丈夫。道幅とか覚えてるし」
この辺りであれば、たまに出入りするので道は覚えている。
雪で埋もれてしまっている溝にハマったり、小川に落ちたりするようなことはない。
ただ、それなりに雪が積もっているので非常に進みにくい。
ルンバのように足が長く、身長が高ければ問題ないが、今の俺は八歳児。
少し積もった雪でも走りづらかった。
「ちょっと邪魔な雪を退かすよ」
氷魔法を使って進路上にある雪を端に寄せる。
ズゾゾゾッと雪が移動し、湿った地表や草が顔を出していた。
「おお、便利だなそれ! 俺ん家の屋根の雪もそれで落としてくれよ!」
「えー……まあ、マイホームも通るしやってあげるか」
「ありがとな!」
これが見当違いの場所であれば迷わず却下であるが、マイホームの前を通っていくしな。
なんてやり取りをしていると、ちょうどマイホームが見えてきた。
屋根のところには白い雪がこんもりと積もっている。
土魔法で作っているので多少の雪程度ではビクともしないが、ルンバという住民が住んでいる以上、見過ごせないよな。ビクともしないとはいえ、痛みだってするだろうし。
いつ落ちてくるかもわからない雪を放置しておくのは危険だ。
「ほいっと」
さっきと同じように氷魔法を使って、屋根の上にある雪を落として一か所に固める。
「助かるぜ! 落としても落としてもすぐに積もっちまうからよぉ」
「あー、屋敷でもバルトロ達が毎日落としてるな」
「屋敷ならなおさら大変そうだな」
確かにあれだけの量の雪を毎日落とすのは大変そうだな。
使用人の仕事とはいえ、屋根に上るのも危ないし、帰ったら屋敷の屋根の雪も落としておいてあげようかな。
「おっ、エリノラ達が見えてきた!」
などと考えながら、ルンバに付いていくとエリノラ姉さん、エマお姉様、シーラが見えてきた。
「おーい、アルを連れてきたぜ!」
「あっ、やっときたわね」
ルンバが声をかけると、エリノラ姉さんがようやくとばかりに振り返る。
当然のごとく、ビッグスライムを必死に足止めなんて事はないようだ。
「アルフリート様、お久しぶりです」
「寒いですね~」
「久しぶり。寒いね」
というか、三人ともロクに剣も構えておらず、待ち人を待っているような気安さだ。
まあ、大きいとはいえスライム。この三人が警戒するような危険性はないだろう。
「それでビッグスライムはどこ?」
「あそこにいるわよ」
エリノラ姉さんの指さした方向を見ると、そこには大きなスライムがポツンと佇んでいる。
「あれがビッグスライム……」
見た目は特に変わったところはない。透明な水色の体をした、丸っこいゲル状の生物。
まんまスライムが大きくなった感じだった。
「被ってる雪が砂糖みたいで美味そうだな」
「あっ、それわかります~!」
ルンバの呟きにシーラが激しく首を縦に振って同意した。
確かにそれを聞くと、雪が積もっているビッグスライムが美味しそうに見えてきた。
プルンとした丸い体に白砂糖がかかっているみたいで。なんだかわらび餅を連想させる。
「特に襲いかかってはこないんだよね?」
「ええ、今のところは」
「ずーっとあそこでボーっとしていますよね~」
「まるでアルみたい」
エリノラ姉さん、最後のその例えはいるのかな?
でも、確かにあのビッグスライムはボーっとしているな。
顔なんてものはないのでどこを向いて、何をしようとしているのかまったくわからない。
エリノラ姉さん達が近くにいることは把握しているのだと思うけど、特にアクションを起こす気配もない。不思議な奴だ。
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