砂漠を突き進む船
間違って投稿してしまいました。こちらを先にお読みください。
「キシャアアアッ!」
サルバに注意されて足元を見てみると、そこには平たい顔をした魚みたいな生き物が飛びかかってきた。
「うわあっ!」
生理的嫌悪やら身の危険を感じた俺は、即座に氷魔法を発動させた。
すると、今にも噛みつかんとしてきた生き物が氷の彫像と化した。
平べったいアンコウのような生き物だ。
砂に擬態して、獲物が近付くのを待つタイプなのだろう。おっかない。
口内には細かな牙がたくさん生えそろっており、噛みつかれでもしたら怪我をするところだったな。
「氷魔法を無詠唱だと!?」
氷漬けになった砂漠の魚を観賞していると、シャナリアが戦慄した声を上げた。
「魔法はちょっと得意なので」
「ちょっと得意な程度で使えるものか!」
そうなのかな? 氷魔法は水魔法の上位版。水魔法をそれなりに練習すれば、誰でもとはいかないけど使えるようになる魔法だと思えるけど。
などと考えていると、肩にポンと手を置かれた。
振り返ると、サルバがこれ以上なくにっこりとした笑みを浮かべて言う。
「アル、俺のモノになれ」
「嫌ですよ」
どうして男にそのような台詞を言われなければいけないのか。
囁かれた瞬間、全身の肌がブルりと震えた。思わず反射的に断ってしまったよ。
「即答か……」
今まで断られたことがなかったのか、若干ショックを受けたような顔をしている。
まあ、これだけのイケメン具合と第二王子という地位だ。並の者であれば、喜んでそうするのかもしれないな。
「男に向けて言う台詞ではないかと」
「じゃあ、どんな言葉が欲しい?」
「口説き文句が理由じゃないですよ。そもそも俺は働きたくないのに、他人に仕えるなんてできませんよ」
「家の空気を氷魔法で冷やすだけの業務内容。好きな時にやってきてよし。日給白金貨十枚でどうだ?」
「…………まあ、将来の稼ぎ口の候補には入れておこうかな?」
まともに働かないと決めていた俺であるが、あまりにもちょろーーじゃなくて、魅力的な業務内容に外注先の候補には入れていいかなと思えるほどだった。
ラズールでは水売りよりも、出張氷室の方が楽に儲かるのかもしれないな。
「この条件でもダメか……」
「まあ、お金にはそこまで困ってないので」
「ふうむ、アルがラズール国民であれば、王の権限で無理矢理雇うのだがなぁ」
権力の力で無理矢理雇用してしまうとか、この世界怖すぎる。ラズール国民じゃなくて良かったと心から思う。
「空気を冷やすだけで日給白金貨十枚って、すごいですね」
雇用の話は聞いているだけで、おっかないし、前世のことを思い出すのでちょっと話題を逸らす。
王国でも氷魔法を使える者は優遇されているが、ここまでズバ抜けてはいないはずだ。
などと言ってみせると、シャナリアは少し呆れた表情になり、サルバは苦笑いした。
「やれやれ、アルは氷魔法が使えることの稀少性を理解していないな?」
「というと?」
「この国は一年を通して、長い酷暑期に晒される。酷暑期になれば、日中は外に出られないほどだ。そんな過酷な場所で暮らしている人々は一番に何を欲する?」
「快適な気温?」
「そうだ。人々は皆、快適な気温を欲している! そんなところに気温を下げることのできる氷魔法使いを放り込めばどうなると思う?」
思い出すのは夏になると、群がってくるコリアット村のおやじ達。あれを何十倍にしたとなると考えるだけで恐ろしい。
「……快適な空気を作り出すための道具になりそうですね」
「そういうわけだ」
なるほど、ラズールで氷魔法が使えるということが、どれだけ有用性の高いことなのか。
サルバの説明を聞いて、実感できたような気がする。
快適な気温に飢えているラズール人からすれば、気温を下げることのできる氷魔法への渇望は凄いのだろうな。
「……ふむ、やはり冷気を纏っていたか」
「道理で砂漠を歩いているのに汗ひとつかいていないわけです」
などと考察していると、サルバが左手をシャナリアが右手を握ってそんなことを言いだした。
「……冷気を出してあげるので勝手に手を握るのをやめてください」
俺は二人の子供じゃないんだから。
◆
「はぁぁ……こんな気持ちがいいのは初めてだ!」
「もう、これがないとダメな身体になってしまいそう」
サルバとシャナリアが際どい台詞を漏らしながら喘いでいるように思えるが、特にやましいことなどしていない。
ただ二人を冷気で包んであげただけだ。
それでも二人はこの上なく幸せそうな表情をしていた。まあ、冷気がないと砂漠の中は暑いからな。
真夏に味わう冷房の心地よさは、国を跨ごうとも共通しているらしい。
「ここからラジェリカまで半日程度かかるんですよね?」
「はぁぁ……」
「シャナリアさん?」
「うん? ああ、さっきのサンドプラントのような魔物に絡まれなければだが……」
改めてラジェリカまでの距離を尋ねると、シャナリアは遅れながらも返事した。
あれだけ凛々しかったシャナリアが、ちょっとダメになっている。
ふうむ、魔物に絡まれずに済めばか……。
サンドプラントといい、さっきの砂の魚といい、今後も絡まれないという保証はないな。というか、高確率で魔物に絡まれる。
遺跡からロクに進んでいないのに二体と遭遇しているくらいだしな。
シャナリアという頼りになる戦士がいるので、魔物自体はそれほど脅威ではない。
問題は夜までに屋敷に帰れるかどうかなのだ。
となると転移は使わず、魔物に絡まれず速やかにラジェリカにたどり着く必要がある。
徒歩だと魔物に絡まれやすいし、さっきのような砂に擬態した生き物に襲われるので論外。
「急ぎたいので魔法で移動しましょう」
俺はそう言って、土魔法を発動して小さな船を作り出した。
小さな漁船を模しているので、きちんとイスもあって割と快適だ。
「二人とも乗ってください」
「土魔法でここまで精緻な船を作ってしまうとは。アルは多才だな」
「こんな物に乗ってどうするのだ?」
「サンドウォークの応用で移動します」
怪訝な表情を浮かべながら二人が乗り込んだのを確認すると、船の下にある砂を操作した。
真下にある砂が動き出すと、その上に乗っている船も自然と動き出す。
「おお! 砂の中を突き進む船か!」
「ですが、魔力の燃費が悪すぎる。こんな使い方をすれば、あっという間に魔力が枯渇する」
砂の上を進み出す小船に興奮を露わにするサルバであるが、シャナリアは呆れている様子だった。
「魔力の量には自信がありますので」
「まあ、どうせ戦うのは私なんだ。好きにすればいい」
さっきの行動で俺が戦う気がまったくないと理解したのだろう、シャナリアが諦めたようにため息をついた。
サイキックを使って移動した方が魔力の消費は少ないけど、せっかく砂漠にいるのだ。
効率が悪くてもここでしかできない移動法をしてみたかったんだ。
俺は魔力が多いので、こんな真似をしても問題はない。
砂を動かす速度を上げると、船のスピードも上がっていく。
海の上を突き進むとはまた違った風景と感覚だ。
波の代わりに、蠢く砂の音がザザザザーッと絶え間なく響いていく。
砂の上を移動する俺達の船。まるで、ゲームの世界にある乗り物のようで楽しいな。
砂の上は全てが平面というわけでもなく、傾斜の大きな砂丘もたくさんある。
上る時は少し大変だけど、下る時は勢いもつくので、ちょっとしたジェットコースター感覚だ。
サルバなんかはアトラクションのごとく、楽しげな声を上げている。
「ハハハハ! これは愉快だな! 王宮に戻ったら、魔法使いを集めて遊んでみるか!」
「あんまりお遊びが過ぎますと、国王様に叱られますよ?」
よかった。ラズールの王族にはきちんとした王族がいるようだ。
「うん? なんか跳びはねている魚がいる?」
しばらく船で突き進んでいくと、前方に魚のようなものが跳ねているのが見えた。
「サンドシャークだな。群れで行動する獰猛な魔物だ」
「物騒なので迂回して進みますね」
あれだけの跳躍力があると、容易に船に侵入してきそうだ。
遠くから魔法を撃って撃退させることもできるけど、この機動性の高い魔法であれば迂回することも容易い。
俺は土魔法で砂を操作し、サンドシャークの群れを回避して進んだ。
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